69話 交流会の開催知らせと彼女らとの邂逅
次の日、不意に目を覚ますと既にお昼を迎えようとしていた時間だった。妙にスッキリと目覚められたのは、やはりバルディアでの滞在での濃い出来事の数々で疲れ切った体の休息が出来たからだろう。昼まで寝ている事が普段から少ない私は焦って起き上がるがホッと息を吐く。
「ああ、そう言えばバルディアからルギシニラに来たんだっけ。」
自分の現状を口に出して確認してキョロキョロと起き上がったまま周囲に目を向ける。誰もいない部屋は静寂に包まれており、部屋は確かノトさんの寝室として使っていた所の筈だ。遅起きのノトさんがいないとなると執務室にでもいるのだろうか。だけど、私はその道順をきちんと覚えていないので迷う可能性が高い。八方塞がりな状況にどうすべきかと悩んでいると部屋をノックされ、声を掛けられる。
「失礼致します。ルピで御座います。」
知っている人の名前で私は扉を開けるとお辞儀をされる。
「ユリナ様、魔王様は執務室で仕事をされておいでです。ユリナ様には自由にさせて良いとの魔王様の命ですのでお好きにおっしゃってください。」
「うーん、好きにと言われても困るから取り敢えずノトさんに声を掛けに行きたいんですけど大丈夫ですか?」
「はい、可能ですが、先ずお着替えをされた方が良いかと。」
「! はいっ、少し待っててください!」
そそくさと身支度を整え、案内をしてくれるルピさんについて行く。ルピさんに話を振りながら、事務的に対応され続かない会話に困りながらも暫く歩くと、執務室に着いた。ノックをして返事を待たず入っていくルピさんに続き、入るとそこには書類を処理しながら、ミリアちゃんの話を聞いて返答しているノトさんの姿が有った。時折、レイトさんに指示を出している様子も見られるが、ルピさんと私が入ってきたことに気付くと作業を中断させる。
「あー、ママだ―。ねぼすけさんってパパが言ってたよ!」
「おい、ミリアそれは言わない約束だろ。」
「えへへ、言っちゃった! でも早く準備しないといけないね!」
「まあ、そこは美的センスが高い女性のエルフたちに任せれば何とかなるだろ。好みも彼女らに合わせられるが。」
「? 一体何の話ですか?」
挨拶をする間も無く、ノトさんとミリアちゃんの間で話が進んでいくのを止める。質問するとノトさんは憂鬱そうにミリアちゃんは楽しそうな表情を浮かべる。
「実はエルシリラの方からルギシニラに向かっているという連絡を受けたんだ。今日の朝にな。が、向かっていたのは結構前からでな。ばらしちまった時に挨拶に行きたいという話は聞いていたがまさかこんなに早く行動に移すと思っていなくて今日到着予定という話もその時に一緒に聞いたんだ。しかもエルシリラの街の連中だけでなく、他の3つの街からも打診されて今回一堂に介すことになったんだ。面倒な話だけどな。」
「へえ。」
「大分世の中も変わって来たし亜人と蔑んでいたのも取っ払ういい機会かと思ってはいたが。わざわざ彼方さんたちから来るんだからどの街も度胸あるんだなと思っていた所だ。」
「それって私も出なくちゃいけないんですね。」
「まあ、そうだな。何でも前から事情を知らされていたこいつらが色々と画策しやがったからな。」
「酷い言い方っすね。」
「そうですね。交流を図るのであれば必要な事だと思っての配慮というのに。」
「盛大にパーティーをするんだと。」
大きなため息を吐くノトさんに私は増々疑問符を浮かべる。私が出る必要性に対する質問は何一つ解決していない。私の反応から察したミリアちゃんがニコニコと笑みを浮かべたまま答える。
「何でも、魔王様であるパパのお妃様だっけ? を紹介する為ってルピとレイトが言ってたよ。」
「ん!!?」
「はあ。」
驚いている私と面倒そうなノトさんを見ても表情をあまり変化させないルピさんとレイトさんは当たり前のように私に話す。
「この街に住む民たちは大分魔王様の独り身を心配されておいででしたから。安心させるために必要なのですよ。」
「この街はあまり上下関係に拘らないっすからね。心配と思う事は王であっても言ってくるっすよ。」
「そんな話俺は知らなかったし。」
「言って無いですから。」「言って無いっす。」
頬杖をついてルピさんとレイトさんに文句を言い続けるノトさんを見ているとミリアちゃんが駆け寄ってきて話し掛けてくれる。
「そう言えば、パパがママが起きてきたら見せたい物あるからって言ってたから、その後に準備をすると思うよ。」
「見せたい物? 何だろう。」
「パパが言うにはママがよく知ってるものだし、ミリアも見た事あるものだって言ってたから多分あれの事だと思う!」
「あれ?」
「それはママに秘密なんだって!」
「何のことだろう。」
ミリアちゃんに視線を合わせて屈んで話を聞いていたらすぐそばにノトさんが来ていた。
「ま、見りゃ分かる。」
「パパー、ミリア最近見たけど大分酷くなってたよー? いいの?」
「死んでなきゃセーフ。」
こんな物騒な会話をする親子がいて堪るかと言いたくなったがノトさんの言い方的に見せたいものというのは人物なのだろうか? 思い当たる節が今の所ないけれど会えば分かるのかな。
「そんじゃ、行くか。」
歩いて行くノトさんのやや後ろをお淑やかに歩いているミリアちゃんは本当に子供とは思えない。自分とは比べ物にならない位悲惨な人生を過ごしていたというのにそれを全く感じさせず昔から王族の子であると育てられたかのような雰囲気を纏っている。
「ここからちょっと冷えるから羽織っておけ。ミリアも。」
「ありがとうございます。」
それぞれに手渡したのを羽織ったのを確認してから案内をしていたルピさんとレイトさんは歩みを再開する。そうして向かっていたのは地下へと続く階段だった。足音が響き渡る空間は段々と冷え込んできており、羽織っている筈なのに寒気が襲ってくる。
暫く階段を降りていくとまだ下へと続く階段が有るものの、途中の階で降りる。そこでノトさんは鈴を取り出し鳴らすが音が一切鳴り響く事は無かった。
「一つ言っておく、ユリナ。」
「.......何ですか?」
真剣な声音で前置きを置くと向き直り、少し戸惑うような表情を見せ言葉を続ける。
「先ず勝手に俺が動いてしまった事を詫びる。そして、ミリアが言ったように悲惨な状態に陥っているから嫌なら直ぐ目を逸らせよ。何せ見せるものは魔物なんかじゃなく同じ人、いや、もっと分かりやすく言うと同じ召喚された者達だからな。そして、それを見た、確認したうえで今後の選択はユリナに任せる。本来であれば俺が動くべき問題では無かったしな。」
「..........ああ、やっぱりそういう事ですか。...........分かりました。」
はっきり誰と名前を出した訳では無いけど合点がいく。大規模戦闘で行方不明になっていた4人の所在。知っていそうなノトさんの反応。
覚悟を決め頷くとノトさんはルピさんとレイトさんに合図をして奥へと歩いて行く。
「まもなく到着します。」
そう言ってルピさんは立ち止まり脇に控える。レイトさんも何も言わなかったけどルピさんと反対方向に控え、何かあれば即座に動くが口出ししたりする意志は無い様だった。
「さあ。行こうか。」
差し伸べられた手を取ってもう片方の空いた手を誰かに握られ向くとミリアちゃんがニコニコと笑顔を浮かべていた。
「ミリアちゃんも行くの?」
「これもお勉強なの。パパが、ルピとレイトが教えてくれたの。良いことばかりじゃない。悪い事も知って対処する方法を学べって。それにミリアは見て来た光景だから慣れてるの。」
「何てこと教えてるんですか。」
「次期女王としての心掛けだ。俺はさっさと隠居生活送る為にミリアには包み隠さず教える方針を決めてるから。」
「ノトさん、魔王の座降りるつもりだったんですか。」
「面倒事を減らす為に早めにミリアには成長してほしい所だ。」
「パパ、ミリアそろそろ実践の事を教えてもらいたい!」
「それはルピに頼んでくれ。上手く教えてくれる。」
「分かったー。」
とほのぼのして歩くとその会話が聞こえてきたのかガチャガチャと鎖が擦れる音が聞こえてきた。牢屋のようになっているその場所には4人の人影が見える。何故か明るくなっているその空間で私はその4人が全く動く様子が無い事で近くまで寄って行こうとする。それを繋がれているノトさんの手で止められ、誰もいない筈の空間で声を上げる。
「おいっ! 起こせっ!」
音もなく現れた4人の陰によって倒れている4人の女子は強制的に起こされ壁に背を付けさせる形で座らされた。見えなかったその様相に私は思わず渋面し、口元を手で押さえる。吐き気に襲われそうになり、くらくらとしてきた。ボロボロになって人間としての形を残しているだけマシなのかさながら拷問を受け続けてきたというのはヒトを簡単にこうしてしまうのかと思えるほど悲惨な光景だった。
「パパー、やっぱりヘイワ? な世界に生きてきたママには刺激が強いよー。」
「そうだったな。あまり騒がれるのも嫌だが回復してやるか。」
ノトさんに見えない様に抱きしめられて未だバクバクと動悸が収まらない私を他所にミリアちゃんは平然そうにノトさんと会話をしている。魔力の動きを感じていると私にも落ち着く様にと配慮してくれたのか魔力を正常に流すように働きかけてきて高ぶっていた感情が次第に落ち着いてくる。
「見てくれは回復してやったから喋る事も出来るだろう。ま、まともに話せるかは別だけどな。」
「ママー、もう大丈夫ー。少しは見れるようになってると思うよー。」
そう言って振り向いた時に今まで付けられていた傷が回復して驚いている4人の姿。最初は憎しみが籠った眼でノトさんを睨んでいたが私が振り向き彼女らと目線が会う事で目を見開き、救いを求めるような表情に変わった。
そして、私が散々彼女らに言ってきた言葉を開口一番に言われたのだった。
「「「「助けてっ!!!!」」」」




