67話 S級昇格試験3日目と新たな出会い
「今年は早かったな。」
「まあ、色々有ったしね。今年は退屈しなかったから早く感じたんじゃないかしら?」
「そうだろうな!! 閉会式まではちゃんとしてくれよ!」
「『馬鹿』には言われたくねえよ。」
目の前で繰り広げられる口論? 会話? を黙って聞きながら控え室に現在いる。3人はコロシアムの下で話したりなんだりする事が有るらしいが私は特にやる事が無いので安全面から昨日夜にもいた、コロシアムを見下ろせる部屋に向かうことになった。
「さて、最後まで頑張るかー。」
「行ってらっしゃい。」
やる気の無い気だるげな声で言うノトさんを笑顔で送り出すと片手を上げてそれに答えてくれた。
私も移動を始めながら思い返していた。濃密な3日間だったと思う。今までも大分濃い時間を過ごしたとは言えるけれどそれ以上では無いだろうか。
始まった閉会式で昇格した者達を祝福し、コメントをしている様子をぼけっと見ている様で一点を無意識に見ていた私は、その視線に気付いた者がちらっと様子を窺い、笑ったのが見えた。無意識だっただけあって恥ずかしさから頭を振り、会場の様子をぐるりと見渡し、やいのやいのと騒いでいる観客者やギルドのトップの3人の姿を目に焼き付けようと凝視する人たちと様々な思いが交錯していた。
『怪力』ヴェロックさん。ノトさんは『怪力』じゃなくてただの『馬鹿力』だから『馬鹿』と呼んでいたらしい。実際力があるので『怪力』なんだと思う。明るく、元気な機人。機人は皆こんな感じかと思いきや元来の性格がこうらしい。見ているこっちも元気が出てくる様なそんな快活な人。時折、鋭い指摘もしてきたけれど私が思うに、この人の周りをも巻き込み、色々をやらかしてしまう性格はノトさんにもある。多分一緒に旅をして深く関わって来たお陰? そのせい? で影響を与えたのだと思う。ノトさんからしたら不名誉な事で認めないだろうけど。
『焔姫』サラさん。ノトさんと同じく魔法使いで偽装して長命種のエルフに成りすましている。炎系統の魔法が得意でエルフのイメージとはかけ離れたお姉さん的存在。一番のしっかり者で、物事を冷静に見て動く。サラさん、実は私が会う前からお世話になっていた。それは、『吸魔の指輪』の事。これはノトさんが作ったものだけれど付与したものを崩さずにデザインだけを変えたそうだ。魔道具は一度付与してしまうと付与されたものが固定されているのでいじくる事で変わってしまう事も有る為、大変らしいのだがそれをたった数時間でやってのけたそうだ。感謝すると「こんな可愛い子だと分かっていたら違ったデザインにもしたんだけれど。」なんて言っていた。
『暴嵐』ノトさん。師匠であり、私の我儘を聞いてくれて受け入れてくれた心根は優しい面倒臭がりなこの世界最強種の魔王。全て成り行きだと言っているけれど成り行きにしてはスケールが大きい話だと思う。今の私のレベルだともう教えて貰う事は無いと思っていた。けれどまだまだ学ぶことは有った。そんな師と弟子の関係で話している時も新たな知識にワクワクして楽しいのだけれど、一番は何でもない日にゆっくり過ごす事がドキドキして充実していると思える。せかせかと何かを成さなければならないと、何かをしなければならないと使命感の様なものに捉われていた日本での生活とは違う、こちらでの日常。本来であれば「帰郷したい。」そう願うのだけれど、私は前程その願いが薄れていた。全く無くなった訳ではないけど。こちらにいた世界の方が圧倒的に短い筈なのに数か月から数十か月、一年以上過ごしたかのような濃密な毎日。
「.....本当にまだ1、2か月くらいなんだよね。」
そんな呟きが思わず零れる。実はその1、2か月で間近に控えていた誕生日をノトさんの過去話でひっそりと迎えてしまったのだけれどこれはこれで誕生日と一緒の記念になるのだと思えばなんてことはないと思いたい。とは言え、もう誕生日を迎えて年を重ねる事はあってもこれ以上外見の成長は無いし、老いる事も無くなったらしい。もっと言えば、死ぬことも無いらしい、寿命では。
「良いんだか悪いんだか分からないけど。」
その辺は未だ状況が上手く呑み込めず戸惑いも大きいのであまり気にしない事にしているけれどステータスを見るたびに括弧書きされている自分の年齢を見ると多分そういう事を意味しているんだろうと思ってしまう。これで「永遠の18歳です。」が冗談ではなく、本当の事として言える。いや、別に言う気はないんだけどね。そもそも誰に言うんだっていう疑問が出るし。同じく来たクラスメイト位かな。言いにくいし何でそんな事に至ったのか説明しにくいから自分でも整理できた後にしとこう。
つつがなく行われていく閉会式を見守りながら滾々と考え事を続けていると部屋がノックされる。誰も来ない筈なので黙っているとドアを勝手に開けて入って来た人物には見覚えが有った。
「久しぶりだね。」
「あ、シファルさん。お久し振りです。」
「と軽い口調で話すのも憚れるんだけれど。貴女が許してくれるならこのままでも構わないかな?」
「え? 何でシファルさんが私に対して恭しい態度をとる必要があるんですか? ギルドのシステム的にはシファルさんの方が上ですし。」
「.........何処まであの方に聞いているか分かりませんが、改めて自己紹介を致しましょう。私はシファル。『完全記憶』の固有スキルを持ちし、あの方の傍付きのルピとレイトよりやや上の階級の悪魔。固有スキル持ちなど私と同程度か上の者しかおりません。私が召喚された事はあの方も当初こそ驚いておりましたが悪魔とは好きな事をして生きていく種族です。何より強い者に従うのは悪魔が最も好むものなのです。私の役割はこの世界の情報収集。『完全記憶』のスキルは情報収集にはとても役立ちますしね。」
深いお辞儀をされて完全に固まった私が次にシファルさんが顔を上げて見えた顔に息を飲む。
「本来はこういう姿、というのはあの二人に会っている貴女ならご存知の筈です。」
「え、はい。」
声音は変わらないし、顔つきも大きく変わった訳では無い。確かに目は特徴的だけれど纏う雰囲気が一変した様に感じる。私が何も言えず固まってしまったのを見てシファルさんが息を吐くと前に会ったような飄々とした態度に変わった。
「と、堅苦しいのはこれ位にしておこうか。僕は本来こういう感じでいるから。というより、社会に合わせる為にこうなって、前の自分がどうだったか覚えていないだけなんだけどね。......まあ、あの方に、何でも態度がでかいのは気に食わないと言ってボコボコにされたら変えざるおえないし、戻しようも無い上に、今も直ぐに殴りにかかろうとしてくるのは変わっていないんだけどねー。」
「えっとー。ご愁傷さまです? 苦労されたんですね。」
「分かってくれるかい!? 最初の方は泣きそうになったよ。この上位階級悪魔の僕が! 今も思い出すと.........。うっ。」
頭を抱えて怯える表情を見せるシファルさん。ちゃんとしていればそれなりに見える筈なんだけれどそれを変えたのはノトさんだった。私が悪い訳じゃ無いけど何となく謝罪の言葉を口にすると「あの方と大違いだ。」と涙ぐんで言っていたのは黙っておこうと思っていた。なんて話しているといつの間にか閉会式はフィナーレを迎え、より大きな歓声が上がっていた。
最後のパフォーマンスと言って3人の連携技は豪快で、美しくて、魅せていて。
「貴女の選んだ道は最も困難で大変だと思うよ、僕は。何か困った事が有ったら頼っていいからね。『完全記憶』という非戦闘系のスキルでもルピとレイトより僕は圧倒的に強いからね。2対1でも余裕で勝てる位にね。」
「ありがとうございます。」
「お礼なんて良いよ。あ、そう言えば聞いたかい? 君の二つ名決まった様だよ。おめでとう。ファミリーネームは有っても無くても良いけど、これからは注目を浴びるだろうから頑張ってね。と言っても試合中は一応認識阻害は掛けてたから本来の君を知っているのは少数だろうけれどね。」
そう言って笑顔で手を振って、部屋を出て行ったシファルさん。
「............え?」
私の戸惑いの問いかけに答える人は今この場には居なかった。
漸く終わった。控室に戻り椅子に体を預けてだらける。
「完璧超人の『暴嵐』様がこんな姿をしていると世間が知ったら一体どんな反応するでしょうね。」
「うるせえなー。疲れたんだから仕方ねえだろー。」
「そんなノトリアに朗報だぞ!!」
「んだよー?」
語尾を伸ばしながら『馬鹿』に目を向けると入口のドア付近に立っていたユリナと目が合う。何やらシファルと話していた様だったが、そのせいだろうか。機嫌が悪く見える。機嫌が悪いのは勝手にしてくれと思うのだが、何故その矛先が俺に向いているのかという点だ。いや、俺に8割、二人に1割ずつといったところか。
「どした? やけに不機嫌だな。シファルになんか言われたのか。」
「シファルさんと話していた事実を知っていた事に関しては聞きません。そんな事はどうでも良いんです。」
「どうでもない話をしたはずじゃないと思うんだけどなあ。で、何だ?」
「二つ名が付いたとかって。聞いてないんですけど。」
「言って無いし。」
「ノトリアに同じく。」「ノトリアに同じだ!!」
飄々として言うと少し怒ったのかずかずかと豪快な足音を立てて近づくと仁王立ちして睨むような視線を向けてくる。
「言っておくが付けたの俺らじゃねえからな。」
「ユリナちゃん、ノトリアの言う通りよ。二つ名って言うのは確かに私たちは職や名前とか色々を隠したりするためにお互いにつけあったけど本来はギルドで二つ名は付けるものでは無いし、そんな決まりを作った覚えも無いのよ。」
「.........え?」
「ファミリーネームは本人の自由で決めたり、ギルドが提案したりするが二つ名は見た者がこれがいいと騒ぎ立てるパターンが最近は多いな!!」
「という事は.....。」
「ユリナが思ってる通りだ。俺らは何の干渉もしていない。観客が勝手に決めてそれをギルドが受理して処理したって感じだ。決まったのは昨日の試合の後らしいが俺らが知ったのは今日の朝だ。」
事実を言うと固まったまま何も言えなくなった様子が見受けられる。震える声で聞いてくる質問に簡潔に答える。
「........何て付けられたんですか?」
「あー、なんだったっけか、サラ。」
「私に頼るの読めていたわよ。確か『滴雨』だったかしら?」
「何でも雨を降らせる、だか滴らせたからこれが良いと申し出てきた3人の若い男女がいたとかと聞いたぞ!!」
「ブッ。」
「まさか......。」
申し出たという人物に何となく検討がついた俺は思わず吹いてしまった。そしてユリナの反応は信じられないと言った様子が再び見受けられる。それも一瞬の事、表情を無に変え俺の方を見る。
「ノトさん、その、若い、3人の、男女を、エルシリラに帰す前に、お話し、したいと思うので逃がさない様強力な結界を張ってもらっていいですか?」
「あ、ああ。」
余りに無表情が怖かったので俺はおざなりに返事を返すとサラとヴェロックに目の笑って無い笑顔を向けて、
「色々ありがとうございました。また会えるのを楽しみにしてますね。」
「え、ええ、気を付けてね。」
「お、おう! 怪我がない様にな!」
「ノトさん行きますよ。」
「もう少し休みた......。」
無表情と暗い瞳で見つめられ俺はすかさず立ち上がりユリナについて行くことにした。テキトウにサラとヴェロックに別れを告げる。
残った部屋では......
「ねえ。」
「何だ!」
「私たちだけでなく、あのノトリアも怯えていたわよ。」
「初めて見たな!!」
「私たちと実力を張る位まで成長してるしノトリアを動かすほどの実力なのだから気を付けた方が良いわね。」
「出来れば戦いたくないな!!」
「同意よ。ノトリア大変ね。」
「何処に行こうって言うの?」
ユリナは無表情で見つめ、声を掛けたのは同郷者たち。その様子で何を言いたいのか心当たりがある様で一様に視線を逸らす3人。俺はユリナに言われたとおりに障壁を張った。ここで怠慢働いたらこいつらと同じ目にあうだろうし。それだけは回避したい。面倒でも空気は読んで行動する。長生きするコツみたいなもん。
「や、やあ。百合ちゃん。ど、どうしたの?」
「そ、そうよ。あ、もしかして見送りかしら? あ、ありがとう。」
「......だからやめとけって俺は言ったのに。」
一人は諦めが付いた様にぼやく様子から騒ぎ立てのは実際この女子2人なのだろう。それが理解できたのか勇者からは視線を逸らし二人に目を向けなおすユリナ。俺は障壁を張って頼み事終了なので、状況を詳しく聞くために勇者を手招きする。
「なあ、本当に申請したのあいつらなのか?」
「ええ、そうですよ。俺は止めたんですけど。彼女ら曰く、桜城さんは二つ名とか好きだと思うから大丈夫、何とかなるとか言ってましたね。その結果がこれですけど。」
「その言葉は何ともならない事を示唆するものだぞ。まあ、俺は面白いからいいんだけどな。滅多に見れない姿だし。」
クツクツと笑っていると二人をいつの間にか正座させてブツブツと文句を言ってたユリナがこちらを急に向く。俺は思わずビクッと体を震わす。
「......後始末は俺がしなきゃならねえのかよ。面倒くせえな。」
ゆらゆらと近付いてくるユリナに俺は無防備の状態で立っていた。そうして近づいて来た所で俺は頭を下げて耳元で声を掛ける。
「俺に何かしようものならユリナが公衆の面前で恥ずかしいのでやめてほしいと普段から言っている事をやるぞ。それでも良いなら好きにするといい。」
ニヤニヤとした笑みを浮かべて顔を上げる。そんな表情で、ユリナを見ると無表情だったのが一転、見る見るうちに顔を赤くさせて下を向く。
「何を言ったら今まで怒ってた人がああなっちゃうんでしょう。」
「美奈も不思議に思ってたところ。」
「......二人にはまだ説教したりないからね。」
「「はい、大変申し訳ございませんでした。」」
俺が笑った事が癪に障ったのかそれで近づいた結果俺の言葉で何をするのか分かって何もしてこなかったが二人には冷たい目を向けて言うと条件反射で謝っていた。
そんな女子がこちらに助けを求める様にちらちらと目を向けるので溜息を吐き、ユリナを抱え上げる。
「私、何もしてないんですけどっ!?」
「.........。」
「ちょっと聞こえてます!?」
「ちょっと静かにしてくれ。」
「静かに、じゃなくてぇぇぇ!!」
スタスタと抱えたまま歩き、彼らに視線を向けると勇者は頭を下げ、女子二人は拝んでいた。拝まれるような存在じゃねえけどな、お前らにとっては。と思いながらも宿にいったん戻る。宿からだと周りの目を気にせず集中できるからだ。
「さて、約束通り、ルギシニラ行くぞ。」
「..........。」
「まあ、有無なんて聞く気ないんだけどな。.........『転移』。」
「おかえりー、パパー。」
そうノトさんに声を掛けた。まだ幼いその女の子はノトさんに抱き付く。その幼子は屈託のない笑顔を向けている。ノトさんだけでなく私にさえも。
この子がノトさんと一体どういう関係なのかは少し時を遡って転移してからを語る事にする。転移先でさえもルギシニラの城内では無かったのだから。
新たな出会いに目を白黒させながらバルディアでの滞在を無事に? 終えたのだった。
この章はこれで終了です。いつものは後日。




