66話 S級昇格試験2日目と夜
「何怒ってんだよ。」
「.....怒ってません。」
「怒ってんだろ。言葉と態度が嚙み合ってねえぞ。」
「......。」
「しゃあねえな。何でも一ついう事聞いてやるから機嫌直せ。」
「....何でも?」
「出来る事だったらな。」
大会中の会場の控室。その一室で起きるまで座って本を読んでいた俺は起き上がったユリナが睨むように見て来たので話し掛けたら案の定、素っ気ない態度で話すので譲歩したらそれに食いつき深く考え始めた。本に再び目を向け答えを出されるまで待っていた俺は咳払いをされた事で本を閉じ顔を向けた。
「このままで。」
「.....良いのか? 明日閉会式終わったら外の出てる店全部撤去されるぞ。今日くらいだぞ。」
「何でもって言ったじゃ無いですか。」
「別にそんなんで良いなら気が済むまで此処に居ればいいが。」
予想外の頼みごとに驚くも別に俺も外に出るのは嫌いな性質なので構わないなと思い、閉じた本を再び開きページを捲る。暫く没頭しているとぎしっという音が聞こえ顔を上げると目の前にユリナが立っていて本を覗き込んでいた。
「何だ?」
「いえ、気になったので。」
「読むか?」
「内容を少し見ましたけど何が書いてあるかさっぱりなのでいいです。」
「文字が読めないって事か?」
「翻訳機能? のせいでしょうか。文章自体は問題なく読めるんですけど内容がいまいち。」
「昔の本だしな。400~500年前くらいの。」
「何でそんな昔の本持ってるんですか?」
「爺の所からパク......借りてきた。一生返さないけど。」
「それ借りるって言わないです。」
一人掛けのソファに座っていた為目の前に立って本を覗き込んでいたユリナをじっと見てからその位置だと気が散るので手を引いて自分の膝の上に座らせた。
「な、なん......。」
「昔の魔法の勉強でもするか。どうせ暇するだけだし。気が変わったら言え。」
「ちょ、私の意思は!?」
「気になったから見てたんじゃないのか?」
純粋にそうだと思っていたので首を傾げると口をパクパクさせて何も言えなかったのか黙ってしまった。ページを捲るのを再開し、黙って読み始めた俺はユリナの様子に全く気付く事は無かった。観念したかのような声音で読んでいる本に書かれている事を質問してくるのに対し答えを返しながら久し振りにゆったりとした時間を過ごした。
そんな時間を過ごしているといつの間にかユリナからの質問が途絶えたので様子を見ると疲労感からか静かに寝息を立てて寝ていた。ふうと溜息を一つ吐き、本をぱたんと閉じ、『異空間収納』からベッドを出してそこに寝かせた。そして、俺は一人掛けのソファを近くに移動させ再び腰掛け本を読み始めた。
目を開けると知らない天井が目に映った。若干体が怠い感じもしない訳でも無いが妙にすっきりした感じはある。体を起こし周りを見ると横のソファに腰掛けた人物が目に入る。本を開いたまま足を組んで下を向いていた。けれど、その手に動きはない。覗き込むようにして顔を見ると眼を瞑っていた。
「寝てる?」
声量を下げて言ったその言葉に何も返答は返ってこない。本当に熟睡している様だった。
まだ大会中でお祭り騒ぎの筈なのに妙に静かな一室。する事も無くてそわそわし始め、バッグから少し持って来ていた自分の本を取り出す。久し振りにあの本を取り出した私はその本を開く。それは史実が描かれたもの。師匠の視点で。
以前読む事が出来ず困っていたその本には今まで体験した史実が全て書かれていた。250年以上の歴史が書かれていた。転生前に関しては流石に無かったけれど魔王として安定してからのその後も書かれていた。エルシリラに来てからの魔術師教会へ属してトップにされようと画策されたのを察して押し付けて逃げた事。その代わりエルシリラに定住してもらうよう王命を受けてしまった事等、本当に色々あった。語るのも面倒だと思って用意したのか。真意は定かでは無いが渡した事すら忘れている様な気がする。
魔法や魔術の本などを広げつつ好きな物をテキトウに読み漁っていると眼の端の方で動きが有ったので顔を向けると大きな欠伸をしながら伸びをしている姿が映った。
「おはようございます。」
「.....はよ。そんな時間じゃないと思うが。」
「そうですね。もう夕刻です。」
「随分散らかしたな。珍しい。」
「え? ああ。すみません。今片付けます。」
「別にそのままでもまだ構わない。どうせ外に出る気は無いだろう。」
「うーん。出ていいなら。」
「いや、別に好きにしていい。俺が一々許可を出す事でもないしな。」
と、言ってから何かを思い出したかのように言葉を続ける。
「ちょいと変装した方がいいかもしれないな。」
「?」
「いや、忘れたのかよ。」
「.......あ。」
そして、私も諸々を思い出し、顔を伏せる。
「取り敢えず俺も外に一回出る。姿は.........まあこれで問題無いだろう。」
そう言って師匠はそそくさと姿を変えていた。それは数ある中の一つの顔であるルギシニラの王の姿。私は、どうしようか。と考えるけどそもそも変える技術も道具も持ち合わせていない。
「ユリナはどうしたい? 頭で思い浮かべるだけで良い。」
「んー。............!」
思い付いて、眼を開けると師匠が既に魔法を行使していた。その後鏡を出して姿を見せられた。
「こりゃ、また。大分イメージ変わるな。」
金色の長い髪に蒼い目。身長そのままに白のブラウス、胸元には大きなリボン。膝上の黒のミニスカート。黒のコートを着ているその姿を見て一瞬自分の事だと気付けなかった。
「これなら大丈夫ですかね。」
「不用意に名前を出さなければ。」
「それ気を付けるべきは師匠の方ですよ。」
「そうか。それじゃあ、捻りは無いが”ユリ”と呼ぶことにしよう。」
「私も名前で呼んでいいですか?」
「まあ、一般に知られてないし問題ない。変える必要性は無いけどな。」
「何となくです。」
そう言って笑顔を見せると師匠も微笑みを返す。
「それじゃあ、行こうか。」
「はいっ。」
夕刻でも賑わいを見せる会場近くのお店を回りながら、食べたい物を食べ、買いたい物を買い、娯楽を楽しんだりして色んな場所を見た。自然と手を繋ぎながら巡っていたけれど周囲からの視線がとても多い。
「もしかしてバレたりしてますかね?」
「それは無いと思いたいな。全然違う恰好をしている訳だし。」
そんな会話を時折してある店の前に立ち止まり、カラフルな飲み物が有ったので購入しようと顔を上げ店員さんに話し掛けようとすると其処に居たのは見知った顔だった。
「わあ、美人さんだね。ね、千春ン。」
「そうね、でもお客さんの前で話すのは良くないと思うわよ、美奈。」
「いらっしゃいませ。どれにしますか?」
「輝。もう手慣れてるわね。」
ピシッと固まってしまった私はどうしようかと悩み頭をフル回転させたけど。
「何してんだ、お前ら。」
「あ、百合ちゃんの師匠さん。そんな恰好でどうしたの?」
「おい、今あんまり大きな声で名前を出すな。騒ぎになるから。」
「ああ、成程。その為の変装という訳ですね。...........え、という事は。」
2人の女子の視線が刺さる。私は仕方なく肯定の意味で小さく頷くと驚いた表情を見せた後、まじまじと私を見て来た。
「な、なに?」
「全然違う人に見えるねえ。凄いね。」
「ええ、普段と印象も違うわね。」
「そ、そんな事より何してるの?」
「バッチを壊した罰ゲームだよ。千春が一番長かったからそれの付き添いで終わった俺たちも手伝っていた。」
「しょうがないじゃない。治癒師の私には難しいわ、あれは。」
「公平には攻撃したぞ。まあ”ユリ”には強めにやったかもしれないが。」
「え、”ノトさん”、それ初耳です。どういう事ですか!?」
「.........忘れた。」
「ちょ、逃げないで下さいよ。あ、取り敢えずおすすめ下さいな。」
「「...........。」」「了解。」
天野君しか返答しなかったし、準備もしてないが良いのだろうか。というか二人が完全に固まっている様にも見える。
「はい、出来たよ。」
「ありがとう、これお代。」
「丁度だね。」
「はい、ノトさん。」
「何だ、俺のもか。別に気を回さなくても良いぞ。ユリが好きなようにしてもらっていい。」
「私の好きでこうしているので良いです。それじゃあね。」
手を振って天野君たちのお店から遠ざかりながら再びお店周りを再開した。
「私の聞き間違いでは無かったわよね。一回だけなら兎も角二回言ったわよね。」
「うん、美奈も確実に聞いたよ。聞き間違いじゃないよ!」
「人前だからそうしていたんじゃないのかな?」
「「!?」」
「いや、何で驚くのかな? さっきの騒動で外に出るならそのままじゃバレかねないと思ったと考えるのが妥当じゃないか。」
「輝君が冴えわたってるよ。」
「明日は色々な物が降ってきそうね。」
「失礼だな。それに千春の手伝いしてるんだから千春が一番頑張らなきゃダメだろう。」
「ごめん、ごめん。ちゃんとやるから。」
なんて会話がされていた事をユリナ達が知る由無し。
「にしても毎年こんなんやってて大変じゃないのかね。」
「え、毎年やってるからこそよく状況を知っているんじゃないですか?」
「外に出ないし。興味無いから。」
「あ、やっぱりですか。」
想像は付いていた。さっきもずっと部屋にいた位だから毎年あんな感じで過ごしているのが想像に易い。
「さて、そろそろ会場に行くか。」
「何かやらなきゃいけないんですか?」
「特に。後はやる事無いな。俺の仕事は今日で終了だからな。」
「そうなんですか。」
話しながら裏口から入り、姿を戻し支度を整える。
「ところで、私はどこにいたらいいんですか?」
「俺らが座ってるとこ。色々と馬鹿をやる奴らが出てくるからな。」
「ノトさんの近くだったら、安全ですね。」
「俺だけじゃなくあいつらもいるし何ら問題起きねえと思う。ところで呼び方はそのままか?」
「え、いや、完全に無意識でした。」
「別にどうでも構わないんだけどな。」
「呼び方が変わってもノトさんは師匠には変わりありませんよ!」
そんな事を強く言うとカラカラと楽しそうに笑い出すノトさんを見て疑問符を浮かべ戸惑う私を見て、「何でもない。」と笑いながら言葉を返された。
夕日が落ち、コロシアムでは様々な催しが開かれていた。ド派手な演出が多いそれらに感動し子供のように思わずはしゃいでしまったせいか夜更けまで続いたそれに体力が持たず途中でノトさんに寄りかかって寝ていたのを来ていた人たちに注目されて見られていたらしい。後で聞いて赤面して大会終了まで顔を上げていられなくなってしまったのは言うまでも無い事です。




