63話 現状の確認と今後の方針
「迷宮についてはある程度聞いていると思ってるから大事な所だけ言っていくわね。」
そうサラさんに言われ頷いた私は耳を傾け黙っていた。
「迷宮は現在の主要の街である5か所に存在し、それぞれ100層をクリアした先にある広間に一体ずつ悪魔がいる。勿論その悪魔はクリアしたご褒美を与える存在だけなんだけどね。.......一般的には。」
そう、一般的には。本来は”管理者”なのだ。
彼女らはルピさんやレイトさんよりやや低いものの高位の存在では有るらしい。元々悪魔はどの時代にも存在はしていたが召喚自体、魔法使いにしか出来ない為、現代では禁忌とされていた。禁忌としたところで召喚できなければ意味が無いのではないのかと思わなくも無い。
そんな彼らが何を管理しているのか。
「魔王としての力。」
「そう。だけどそれだけじゃない。」
「.....転生前の記憶、だろ?」
私は言うとサラさんは微妙な表情で言葉を返す。その続きを語り辛そうにしていたが不意に師匠が声を上げる。
「おかしいわね。その記憶さえも封印に入れた筈なのだけれど。」
「だろうな。確証は無いがそうでは無いかと思っていただけだからな。」
「オレらの努力も考えてほしいモノだ! 簡単に解かれちまうと何も言えねえしよ。」
「俺に言われても困る。どっちにしろ弄られてんだから仕方ねえだろ。」
そう言って怠そうに体を起こして溜息を吐く師匠。それを皮切りにサラさんとヴェロックさんも溜息を吐く。
「そうなのよねえ。問題は其処なのよ。どうやって抜き取ったのかしらねえ。」
「もしかして、ですけど。」
言いにくそうに声を上げると3人から視線を受け喋りにくくなる。
「えっと、同じ力かそれ以上の力を持った存在が相手にはいるとか? 突拍子もない話だとは思いますけど、例えば神様、なんて.......。」
私が冗談めかしでそんな事を言うとシーンと静まり返る。
「えっと、冗談のつもりだったんですけど......。」
「それが冗談だって強く言い返せる根拠が無いのよね。」
「でも、冗談だと言える根拠も無いですよね。」
と、言ってから自分の言葉を思い返し、「ああ。」と納得する。
「分かったか? 神が相手だと考えられる根拠は有るが、無いという根拠は存在してないんだ、現状ではな。」
再び静まり返る室内。一応神との決戦とかテンプレでは有るので思い出して場を和ませる冗談として言ったつもりだったけど否定できるだけの情報が無いので自分より強い存在と仮定して動くようにしているようだった。
「それじゃあ、優君は!?」
「あー、あいつか。あいつは転移者なんかじゃねえぞ。」
「えっ!? 知ってて同行させたんですか!!?」
「尻尾切りさせられることが多いから核心に近付くために多少の危険を覚悟の上で独断で決めた。今にして考えればユリナも違和感を感じている筈だ。」
「?」
「前の世界に居た時をよく思い出してみろ。特にあいつとの思い出だな。」
「んー?」
日本に暮らしていた事を思い出す。実際あまり思い出したくない事なのだが、何故か私の記憶に優君が一度たりとも出てこない。それどころかこちらに来てからもこの選抜メンバーに抜擢されるまでの関わり合いの記憶が一切ない。
「何よ、わざとだったの?」
「とはいえ、ここまで巧妙にやって来るとは思わなかったって言うのが本音だ。油断し過ぎたか。」
「ノトリアにしては珍しいミスだと思ってたぞ!!」
「だろうな。普段の俺なら冒さない。」
私が悶々としたままだったので、昔からいたかのように記憶を操作されていた事を察した3人は話を進めていた。
「はあ、つくづく人生を早く終わらせたいと思っちまうよ。こんな面倒な事さっさと辞めたいのによ。」
「ノトリアが辞めたらまた繰り返すだけよ。それに貴方が死んだときが私達も死ぬ時よ。」
「はあ!? 聞いてねえぞ!」
「言って無いからな!! 当たり前だ!!」
「当たり前でしょう。私達もそれなりに生きてきたんだからもう背負うのは懲り懲りよ。」
「まあ、今のノトリアに死ぬ覚悟なんてもてねえと思うけどな!!」
「......っ。」
真面目な声音で死ぬことを告げると最初こそ怒っていたが自分のせいと知り、そして私を見てからそっぽを向いた。
「まあ、敵の動向はあいつらが調べてくれるだろうし、結構大きく動いたから隠れる為に暫く動きを見せなくなるだろう。暗い話は止めだ。お前らは帰れ。」
「ちょっと今後の事はどうするのよ。」
「後手に回ってるし調べがつかねえとまた尻尾切りになるんだから今は何も出来る事ねえよ。今後って言ってもその調べが終わんねえと動くにも動けねえし話は打ちきりだ。」
そう言って手で追い出す仕草をしている。
「何言ってるの。まだやる事残っているでしょうが。バックレは今度こそ許さないわよ。」
「ハハッ。何のことだかなあ。」
サラさんからの低い声に対し、師匠は上ずった声でとぼけている。
「へえ。」
目が笑っていないそんな顔で一言言うと、次の瞬間サラさんの体に大量の魔力が迸った。赤いその魔力の色はピリピリと肌を突き刺してくるかのように痛みを感じる。その痛みで動けずに固まっているとサラさんはゆっくりと私に近付き肩に手を置いた。
「んっ!?」
「おい、サラ。それは卑怯ってもんだぞ。」
「貴方には言われたくないわよ、貴方には。........さて、3秒後には賢者の爺様の元へ行くけど返答は?」
「分かったから離れてくれ。」
「私たちの誓いの言葉を。」
「.......はあ。『我ら魔法使いが此れから発する言葉に嘘偽り無し。約束を違えることなく実行する事をユキノトリア=ルギシニラ・ミルは、サラ=ウィッチェ・ファイアスに誓う。』.......此れで良いか?」
「オーケー。それじゃあ頼もうかしらね。」
師匠が誓いとして発した言葉で場がそれを成すまで逃げる事を許してくれないかのようなそんな雰囲気がある。私の肩から手をどけたサラさんだったが、私がポカンとした表情を浮かべている事に気付いたヴェロックさんが大声で笑い始める。
「まだ名乗ってなかったか!! そりゃあ、驚くのも無理ないわな!! 誓いは本当の名を全て言わなきゃならないからな!」
「あ? .........あ。」
師匠が最初は意味が分からず首を傾げていたが言われた意味が分かったのか顔に手を当て、「やっちまった」と小声で言っているのが聞こえる。
「あれ、そうだったかしら? まあ、名前なんてサラで十分だし困る事無いと思っていたけど。そうね、ちゃんと名乗っておきましょうか。言っておくけど一般には名前すら知られてないんだから他言無用だからね。.......私は赤系統に特化している魔法使い、『焔姫』のサラ=ウィッチェ・ファイアス。魔術を作ったから魔法使いに変わる街を起こす必要があって私が中心になって動いていたから初代の女王という事で歴史に刻まれている筈よ。」
「オレは『怪力』でヴェロック=バルディア・リキラルだ! 機人っていう体が機械で改造されている奴だ! バルディアの住人のほとんどは機人でオレがその技術を広めた! だからか初代の王になったのだが此処では王も民衆に近いせいかあんまりそう言う意識は無いんだがな! はっはっは。」
フフフと笑みを浮かべるサラさんと気前よく笑うヴェロックさん。脳の処理が追い付いていません。だってまだ一人いますし。名前さえまだフルネームを言ってくれなかったという事実だけが今は真っ白の頭で考えられること。頬を掻いている師匠は観念したかのように溜息一つ吐くと小声で文句(?)を言ってから話し出す。
「全部話すって言ったし仕方ねえか。...........ノトってのは名乗るのが面倒な俺が名前の一部を取って教えてたものだ。本当はユキノトリア=ルギシニラ・ミル。『暴嵐』でルギシニラの現王。多分名前は前世の名前のもじりかなんかだろうが忘れた。てか、ノトってだけでも困らねえだろ。思い出せねえことはグダグダ言っても無駄だしさっさと約束を果たして帰ってもらう。」
まだ本調子では無いだろうにベッドから出て立ち上がると私の手を引き向かい合う様にして部屋の空いたスペースに立たされる。
「.....『血の盟約』。それは魔法使い同士が結ばれるための儀式。結ばれると言っても束縛したものではなく互いの特性を生かすために魔力が変質し、新たな技術を会得する為に行うモノ。.......そう、本来は魔法使いの人間同士が行うべきもの。」
「........。」
「言ったか言って無かったか覚えて無いが魔法使いはその職を授かり魔力を高める事によって長命になるんだ。あくまで長命だから不死では無いが。サラは見た目を帰れる無属性の魔法を持ってるから姿を変えて老けている事を隠してる......睨むな、本当の事だろう。ゴホン、それでだ。『互いの特性を生かすための変質』それが俺が出来ない理由であり一番の問題点なんだ。分かるか?」
「......人間同士。変質。.....本来は長命同士の魔法使いであれば差支えない儀式が種族の違うモノである以上に全く違う時を生きている同士では何が起こるか予測できないという事でしょうか。」
「その認識で相違ないだろう。それじゃあ可能性ではあるが考えられることを.......」
「分かりました。構いません。」
「言ってる途中なんだが。」
言葉を遮り肯定すると呆れたように言葉を返される。
「要は私がただの長命ではいられなくなるという事ですよね? それ以外にもありそうですけど。」
「良いのか? 言っとくが楽しくないぞ。」
「それじゃあ、言い返しますけど私が死ぬのを看取ってくれるおつもりですか?」
「.........。」
長命ではあるがいずれ死ぬのだ。死ぬことが出来ない師匠より先に。人の死をいくつも見て来たからこそ人との関わり合いを最小限にして生きてきた師匠が身近にいる人が死んで悲しまない訳がないだろう。そう考え現実を強く突きつけると複雑な表情を見せる。
師匠にとってどちらの選択も自分も私も傷が付くものだと恐れている。それならと自分が傷つく方を選ぶ。そうなって欲しくないからこそ私は私の意思をきちんと告げる。
「勿論、長い人生は退屈しそうです。そんな予感も無い訳ではありません。ですが、そんなの現段階の憶測に過ぎない事です。どうなるなんて誰にも分からないのです。分かってしまったらそれこそ退屈ですよ。........それに言ったじゃ無いですか。楽しくを一番大事にって。私が楽しいと思っているのは今、師匠と共に生きて、笑って、怒って、ふざけて、そんな他愛ない毎日を送る日々です。それが何年、何百年、何千年、ずっと、ずーっと続いても楽しくいられる自信ありますよ。.....師匠は嫌でしたか?」
不安そうな表情を見せていたのかもしれない。少し焦った様な表情を見せた後、ゆっくりとされどしっかりとした口調で答える。
「嫌だったらさっさと見切りをつけている。それに俺は誰しも恐れを抱く魔王だ。好き放題すると決めている。..........誰が何と言おうと、誰かに邪魔されても全てを薙ぎ払って手に入れたいもんは手に入れる。」
「覚悟は決まったかしら?」
横から話し掛けられサラさんに強く頷き返す。
「ユリナちゃん、特に貴女の方が負担が大きいでしょうから話しておくけど相当な苦痛を感じる筈よ。最悪耐えきれなくて死ぬかもしれない。それを覚悟してね。」
「此処まで来てそれを聞いて引き下がれませんよ。」
「そう。ノトリアは?」
「言っただろ? 障害は全てぶっ壊して俺が望むようにして生きるし手に入れる。」
「ヴェロック、ユリナちゃんに少し生命力上げれないの?」
「死なれるのも目覚めわりいし、いいぜ!」
ヴェロックさんから何かが流れ込んでくるのが分かる。これが生命力と言っていたモノなのだろうか。死なない為のおまじないとサラさんは言ってくれたけど。
「それじゃ、始めるぞ。」
そう言って紡がれた言葉を繰り返し、最後の言葉を言い終えた瞬間私は気絶した。




