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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第5章
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45話 エルシリラ王への再びの謁見と手合わせ


 師匠から離れてしっかり見ると普段一切の魔力を漏らすことない師匠からは大量の魔力が溢れだしていた。しかもその魔力はチリチリと肌を突くような痛みがあり通常から考えると有り得ないほど濁っていた。



「本当はユリナにも離れていて欲しいんだが。」


「....。」



 私は黙って首を振り続ける。「だよな。」と溜息を漏らしながらふらふらと立ち上がる師匠を支える為、慌てて立ち上がり近付くが避けられる。



「っ。」


「今からする行動に驚くなよ。」



 虚空から剣を出しその刃先を自分に向けると思いっきり自分のお腹目掛けて刺した。



 刺した場所から吹き出る血、口端から垂れる血。その光景を唖然と見ていたが事の重大さに気づき動こうとすると師匠より手で制された。



「どうしても力が抑えられない時の対処だ。死なない程度に収めてるから大丈夫だ。」



 そう言うが明らかに顔が青ざめており立っているのもやっとの様に見える。暫くすると多くの溢れ出た魔力を剣が吸い上げていった。それも落ち着くと剣を引き抜き再び多くの血を流しながら鞘を取りだし剣を納める。ふうと息を吐くと鞘に入れた剣をぐっと握り後ろに振りかぶり思いっきり空に向かって投げた。すると何処からか飛んできた烏が足で器用に掴み持ち去っていった。一連の行動を呆けて見ていて烏が飛びさっていく様子もただ呆然と見ていたがドサッという音が鳴り視線を向けるとうつ伏せで師匠が倒れていた。



「何が大丈夫ですかっ! 倒れてるじゃないですかっ!!」


「.....出血多量。血が無くなりすぎて動けん。魔力も思ったより吸い上げたせいで回復も出来ねえ。」


「え? あ、本当だ! 今回復魔法掛けますっ!」



 わたわたしながら回復魔法を掛けると流れていた血は止まった。けど失った血までは回復できないので暫く動くことは出来ないだろう。



「あー、だりいー。」


「...師匠?」


「なんだー?」


「...羽そのままですよ?」


「そうかー。」


「...目は大丈夫ですか?」


「見えてるぞー。」


「...起き上がれません?」


「無理だなー。」



 棒読みで返され微妙な表情を浮かべるが完全に返事が脳内を伝わってない気がする。と思ったら羽がすうっと消えていきうつ伏せから仰向けになった。服だけでなく、目や口端には血がついたままだ。



「はあ、これ以上は動けねえな。ここで夜を明かしそうだ。」


「...私も此処にいます。」


「良いから部屋に戻って寝ろ。まだ眠いだろう?」


「師匠を放置していけないですよ。」


「...どうしてもか?」


「今の師匠になら勝てそうなんで強気で行きますよ。」


「ん。」



 自分の直ぐ隣の地面を軽く叩くので私も横になる。すると周囲が暗いことも有り夜空が綺麗に見える。ルギシニラで見たときは街の明かりがあったので綺麗とは言っても明るい星しか見えなかったが今は明かりが全くないので小さな星の光もよく見える。



「...知ってる星座何も無いなー。それにこんなに綺麗に見ることなんて全く無かったな。」


「.....なあ、」


「何ですか?」


「...ユリナは元の世界に帰りたいと思っているのか?」


「.......。」



 答えに詰まる。どっち付かずだったからだ。


 まだ日本で色々としたいことがあった。細やかな願いでは有るけれど充実した仕事と趣味の両立をさせながら生活をしたかった。帰りたいと言う願い。


 こっちの世界でも多くの出会いが有り自分が惹かれる存在にも出会ってしまった。しかし今は此方の住人の為一緒にいられなくなってしまう。帰りたくない願い。



「....何でもない。今の質問は無しだ。どうせ俺には叶えようの無い事だ。先立つ魔力が足りないしな。」


「.....ん? 魔力が足りない? どういう....」



 横を見たら寝ていた。重要な事を言った気がするが起きた時追求しても忘れたと言われるだろう。仕方ないかと再び上を向き星空を眺める。



「....一緒に、だったら良かったんですけどね。それは高望み、ですかね?」



 そう呟いてそのまま私は寝てしまった。




「...今は叶えられない願いだな。」








 ゆっくりと意識が覚醒していき目を開ける。



「ん、あれ? 確か昨日、今日かな? 夜に広場に向かってそのまま寝た、筈。」



 夜中に寝たものの時計を見て、いつもと比べ少し遅めに起きてしまっている事に気づく。そしてもう一つ。



「何でベッドで寝ている、のか。」



 問題はそこだ。広場でそのまま寝落ちした私は兎も角師匠も血を失いすぎて動けず寝てしまった筈なのだが。どういう事? と頭を悩ませていると部屋の扉が開く。



「あっ。」



 私の視線に気付き声を漏らすと数秒硬直、そしてゆっくり扉を閉めて無かった事にしようとしているのをベッドから出て止めにいく。



「何を、何をしてるんですかっ!?」


「何って、特には何も?」


「いや、そうじゃなくて。何で起きてるんですかっ?」


「朝だから?」



 大量の汗を流し始めて答えるのをジト目で見る。



「自分の体をもう少し労ってください。という訳で今すぐベッドに向かってください。」


「無理だろ。今日は城に行くんだから。」


「予定ずらしましょう。私が説明してきますんで。」


「これ以上遅らせるとか、駄目だろ。それに今回は前の魔物騒動だけじゃなく俺がルギシニラの統治者で有ることも言うんだからよ。」


「はいはい、良いから.....ん? 言うんですか?」


「そうだが?」



 キョトンとした表情を浮かべる師匠に私は考えを巡らせ少し前の出来事を思い出す。


 確か大規模戦闘後に各街のトップを鶴の一声の如く静めたのはルギシニラの魔王で有ることを明かしたからじゃないのか。それじゃあ一体。



「止めようが行くし今回ユリナは王への謁見で戦闘の話の後は別行動だ。」


「えっ? 何で。」


「同じ転移者達で会いたい言ってた連中いただろう? そいつらに会ってこい。」


「ああ、そんな事言われてましたね。直ぐじゃないと駄目ですか?」


「直ぐじゃなくても良いが俺とは一緒にいられねえからな?」


「....それについては分かりましたけど、あの体で運んだんですか?」



 言葉の意味を理解できなかった様で暫く考え込んだ後ポンと手を打ち、



「回復してからだ。朝方に動けるようなったし。起こすのも悪いと思って運んだが、何か不味かったか?」


「動けるように、ねえ。の割りに私の視線に気付いて逃げようとしましたよね? まだ体調悪いから、じゃないんですか?」


「いやー。」



 視線を遠くに向け頬を掻く師匠の顔をじっと見るとまだ血色が悪く無理している様にも見える。そして肯定も否定もしなかったので本調子では無いのだろう。



「はあ、きっと言っても無理するんでしょう?」


「無理ってか、やることは済ませたいか。」



 再び溜め息を吐き立ったままだったので部屋を出ると



「ほんとに何してんですか。」



 朝食が机の上に置かれ手が付けられた状態のもの。横には書類が置いてある。そして、その前には手が付けられていないものがあった。呆れてものも言えないとはこの事だろうか。



「食べたら直ぐ行くぞ。準備しとけよ。」


「....もう何を言っても無駄ですね。分かりましたよ。」



 食べ終わり身支度を整えると久しぶりに歩いて街へ向かい親しくなったお店のおじさん達から「久しぶり」と挨拶されるので返しながら城へ一直線へ向かっていく。



「会うって言ってあるんですか?」


「おう。ルギシニラの王が来るとな。そうすれば何が何でも優先するだろう? 待たされるのは嫌なんでな。」


「そんな使い方する王様なんていてたまるかって言いたい。」


「何とでも言え。」



 案の定城に着き素早く謁見室に通された。王様は此方を見て大きく目を見開いた。



「お久しぶりです、陛下。今日はルギシニラの魔王として伺わせて頂きましたが、話す内容は戦闘の後の処理などそういったものが中心になるかと思います。如何でしょう?」



 人が好くような笑みを浮かべ言う師匠に私は若干呆れる。色々と言いたいのを飲んで私は黙っていた。今回は畏まらず立ったまま会釈をして挨拶をするのを聞いているのはエルシリラの王様と騎士団長サークレルトさんと魔術師長ファーリアさんのみ。何かを言おうと王様が口を開こうとした時訪問者を告げる声が聞こえてきた。



「陛下、勇者様方がいらっしゃいました。どうされますか?」


「む? 何の用かの? 用件にもよるが。」


「陛下、俺は構いませんよ。戦闘の話でしたらいた方が良いかもしれませんし。それに、その内遅かれ早かれ知ることですし。それが少々早まっただけですよ。」


「ノト殿、いや魔王と呼んだ方が良いか?」


「勘違いされると嫌ですので前の呼び方のままで構いませんよ。」


「ではそうさせて頂こう。通せ!」



 そう言うと扉が開き勇者だけでなくその幼馴染み達も一緒にいて此方をじっと見ている。



「わざわざこのような時に何の用じゃ?」


「王様。申し訳有りませんが用事が有ったのはそちらの方達でして。」


「ふーん、俺らか。事後処理について聞かなきゃいけない事が有るからその話を進めなきゃなんだが。それについてか?」


「それに含まれるかと思います。」



 それならばと一緒に話をすることになった。前より勇者の面構えが大きく変わった気がする。そしてサークレルトさんが進み出て話を始める。



「では私の方からお話しします。先ず戦闘後の被害は大分少なく収まりました。これも早期決着した結果でしょう。ユリナさん、ノトさんにはそれぞれ報酬が有りますのでお受け取り下さい。」


「俺の分もユリナに渡してくれ。俺は要らん。」


「えっ、私もこんなには。」


「良いから持っとけ。」


「で、でも。」



 渡された報酬を全て押し付けられ仕方なく全てバッグにしまう。その光景を微妙な表情で見ている勇者パーティー。楠木さんと洛南さんの女子二人はこそこそと話しているので耳を傾ける。



「桜城さんの報酬額も相当だったけどあの人もそれなりに有ったよね? それを要らないって言ってまだ17の私達に上げる額じゃないと思うんだけどさ。」


「美奈もそう思ったー。」



 私もそう思いました。と言いたくなった。そんな状況はさておき話は進んでいく。



「そして先程被害は少ないと言いましたが実は、」


「それは俺から話します。」



 サークレルトさんの話を遮って勇者天野君は一歩前に出て話し出す。



「聞こうか。」


「はい。今回の戦闘で召喚された全員が参加しました。その中で魔術師だけでパーティーを組んでいた女子4人が居なくなりました。最初はいたのですが桜城さんが群れのボスと戦う前くらいに急に姿が見えなくなりました。その時は気づかなかったんですけど。そして暫く捜索をしましたが見付かりませんでした。」


「もしかして、だけどさ。その4人って。」


「.....そのもしかしてだよ。」



 師匠に向けて言った言葉に割り込み聞いてしまった。その女子は私を苛めていた女子グループなのだろう。天野君はクラスメイトがいなくなった残念さと私を虐めていた人達と知っているからか複雑な表情を見せる。



「気にしなくても大丈夫。」


「.....。」



 そう言ってから師匠の方を見ると表情は変わっていなかった。別に真顔がおかしかった訳じゃ無いけど何となくで聞いてみる。



「....師匠。実は何処にいるかしっている、とか?」


「......どうしてそう考えた?」



 暫く考え込んでから私に質問を質問で聞き返した私はただ一言。



「何となく。」



 しーんと静寂な空間に包まれる。誰もが師匠を見て発せられるであろう言葉を待っていた。



「....残念だが知らないな。」



 そう言った。そして小声でその後付け加えた。多分私にしか聞こえてなかったと思う。



「知ってても此処では言わないけどな。」



 睨んでもスルーされるので諦めて視線を別に向ける。



「そうですか。聞けて良かったです。話を遮ってしまいすみません。」


「....ユリナ、契約書持ってるか?」


「え? 持ってますけど。」



 バッグから紙を取り出すと師匠は取り上げ火の魔術で燃やしてしまった。



「今頃もう一つも無くなっているだろう。不要そうだし反故にしといた。好きにするといいさ。....そんで戦闘の話は終わりか?」


「どうなのだ、騎士団長。」


「伝えるべき事も渡すものも終わりました。この後は大切なお話をするのでしょう? 魔術師長と共に退出させて頂きます。」


「そうか。ユリナもついでだ。ゆったりしてこい。ここからは街を治める王同士で今後について話さなきゃいけないからな。」


「分かりました。失礼します。」


「俺たちも失礼します。」



 二人を残して退出していく。そして出た後直ぐに勇者パーティーの女子2人に話し掛けられる。



「ねえ、桜城さん。あの人から戦闘後の話って聞いてる?」


「う、うん。ある程度聞いてるよ。ゆっくり話したいって言ったって。私なんかで良ければ、だけど。」


「私なんか、じゃないよ! あんなに頑張ってくれたのに。.....それに、」


「?」



 女子2人は私の左手の薬指に嵌まった指輪を見ている。男子はそんな女子2人の目線に気付き目線を追うと意図を察した様だった。



「あの人と同じの嵌まってたでしょ? 何が有ったか同じ女同士聞きたい、かな。」



 そう言われ私は思い出して顔を赤くさせた。その表情でニヤニヤとする女子。男子は仕方ないかといった表情。天野君は、複雑そうな表情? 私は咳払いをして表情を取り繕う。



「えっと、大した話じゃ無いよ?」


「それはこっちが判断する! ゆっくり聞きたいから女子だけで! 話そうか。」


「さんせーい!」


「俺らも気になるんだけど。」


「そうだぜ、なあ輝。」


「あ、ああ。聞きたいけど。」


「駄目ー! 女子だけで聞くって決めてたの! 桜城さん良い?」


「う、うん。」



 そして城の中庭みたいな所に全員で向かうと他の生徒もいて私は息を飲んだ。此方に気付き申し訳なさそうな表情を見せた後数人を皮切りに次々と頭を下げられた。そして「謝って許されることじゃないけどごめんなさい。」と私に近付いて謝っていった。私は吃驚したものの今の素直な気持ちを苦笑い気味で伝える。



「恨んでいないって言ったら嘘になるけど私はもう気にしてないよ。私は皆に対して素っ気なくしちゃったし御互い様? だからさ皆が良ければ、何だけど気負わずに話し掛けて欲しいかな。ペコペコされると困っちゃうし。でも私は上手く話せないかもしれないからそこは気にしないでもらえると嬉しい、かな?」



 言い切ると暫くの沈黙の後ざわっとして目が泳いでいたり顔を赤くしている人が多いが大丈夫だろうか。その様子に首を傾げると楠木さんと洛南さんがクスクスと笑い出す。



「本当に周りは有象無象なのかな。勿論良い意味で、だけどさ。」


「そうだよねー。」


「どう言うこと?」


「「秘密!」」



 暫くガヤガヤとしていたが女子会という名目でお城での食卓場に行って怒濤の質問攻めをされていた。それに、しどろもどろに答えながら時に盛り上がって大きな声を上げられたりして楽しい時間を過ごしていた。










「そうであったのか。」


「別に何かしてほしい訳じゃないですけど。この事は此処にいる街の王以外は他言無用でお願い致します。騒ぎになってしまうのでね。」



 そう話を締めくくり解散となったがユリナは話をしていることだろうし訓練場に行こうと思い歩き出すと勇者を始めとして召喚された者達、しかも男だけが彼らが普段使っている訓練場にいたので立ち止まって様子を見ていた。すると幾人かが此方に気付き警戒心を顕にする。



「....誰だ?」



 勇者にそう言われ自分の姿に気づく。そういえばルギシニラでの王での姿そのままに城内を歩いていた。ふうと溜め息を吐いて戻ろうと思ったが俺はそれを止めて近付いていった。



「さて、誰だろうな。勝ったら教えてやろう。勿論本気でこい。」


「くっ、大きく出たな。後悔するなよ。」


「それでは訓練用の木剣を借りよう。君はそれで構わない。」



 俺は木剣を2本借り一本だけ握りもう一本を腰に差し構える。勇者には聖剣を握らせたままだ。



「いつでもどうぞ。」


「態度を大きくできるのも今だけだ、ぞ!」



 距離を詰めて来ると同時に聖剣に光が集まった。付与か、そう思いながら棒立ちして斜め上から落とされた剣を木剣で受け流す。何度も打ち込んでくるがそれを全て受け流す。勿論だがこの際一歩も動いていないし片手しか使っていない。暇になって来たので剣を受けながら質問する。



「君は勇者だろう? 何故聖剣の力を使わないんだ。扱えると記憶していたのだが間違いだったか。」


「! 何処まで聖剣の事を知っているんだ。」


「緩い攻撃なんて続けてたら勝ち目なんて無い。勝ちたくば本気で来ると良い。」


「『真の姿を現せ。聖華セイカ』!」



 勇者の持つ聖剣の銘は『聖華』。そして銘を言うと言うことは真の姿を見せるトリガーとなる。聖剣に選ばれし勇者のみが使える二刀流。眩い光の後、剣が二つに別れそれぞれの手に握られた。



「行くぞっ!」


「いつでも。」



 単純に手数が増える。俺は今だ一本で捌き続けていたが聖剣の力を引き出してから動きが良くなってきてかわす事も増えてきたので腰に差したもう一本を手に握りニヤリと笑うと聖剣を弾いて遠くに飛ばす。手持ち無沙汰になった勇者は驚きの表情でこちらを見ている。



「チェックメイトだ。」


「何で二刀流、を。」


「それを聞く権利は無い。」



 剣を首筋に当てながら会話をしていたが実力を図れたので満足して剣を下げると訓練場の入り口方面から大きな声が上がる。



「何してるんですかっー!!?」


「げっ、最悪だ。バレた。」



 ずかずかと歩いてくるので俺は逃走を図ろうとしたがその判断遅く既に[青]魔法で手錠の様な形で足元を拘束されていた。咄嗟の事で避けられず逃げられない状況に冷や汗を滝の様に流す。



「何でその格好で戦ってるんですかっ! 何となく予想は付きますけどどうせ名乗ってないんでしょう?」


「.....。」



 黙秘して目を逸らしたら溜め息を吐かれた。すると状況が理解できず戸惑っていた勇者が声を上げた。



「桜城さん、この人知っているのか?」


「やっぱり。....元に戻って下さい。」



 じっと睨まれ渋々髪と目を戻すと驚きの声が上がる。勿論だが右目の色は見られないように、だが。



「これで良いか? ちょっとしたお遊びだったんだから怒るなよ。」


「怒っては無いですよ。呆れてるんです。」



 ふうと息を吐いて俺は勇者に向き直り胸に手を当てて深々とお辞儀をする。



「大変失礼しました。勇者様がどれ程の実力か一つの街の王として知りたくなり試させて頂きました。先程の姿が街の王としての姿ですが今のこれが普段ですのでお気になさらないようお願いします。」



 顔を上げ微笑むとユリナが小声で「胡散臭い」と言ったので見えないように風の球体を指弾で打っておいた。恨みがましい視線を向けているがスルーした。



「えっと俺の方こそすみませんでした。さっきも言っていた王というのは?」


「勝ったらと言ったが横からの圧力が凄いから言うしかないな。俺は南にある島の獣人、此処では亜人と呼ばれてるんだっけか、その者達が住む街の長だ。特に何かしているわけでは無いからただそういう存在がいるって位だが。気にせず接してくれて構わない。」



 そう言うと周囲がどよめく。本当のを事言っただけなんだがそんなに驚かれるとそれはそれで困るんだが。



「さらっとそんなこと言われて驚くなと言うのが無理ですよ。」


「そういうものか。」


「常識というか価値観が他の人と違いますし。」


「それ貶してるだろ。良い運動になったしちょっと昼過ぎたが城の食堂でも借りるか。ユリナはどうする?」


「うーん。私も何か食べたわけでは無いのでご一緒します。」


「そうか。それじゃあ行くか。」


「えっと師匠?」


「どした?」


「...他の人も一緒でも良いですか?」



 そう言った後視線を巡らせて同じ転移者を見たので俺は別に構わないので頷いた。おどおどして言いにくそうに言ったので断られると思っていたのだろう。俺は溜め息一つ吐きユリナの耳元に近づき囁く。



「したいことは遠慮なく言え。出来る範囲なら何でも叶えてやるから。気負わず少し位我が儘を言ってくれ。」



 頭を軽く叩き歩き出すとユリナは慌てて周囲に声を掛けていた。首だけ後ろに向きその様子を笑って見ていると訓練場の入り口に立っていた勇者パーティーの一人の女子に話し掛けられたので視線を戻す。



「ありがとうございます。」


「何の事だ?」


「話を出来るようにしてくれた事です。私たちは嫌われて当然の事をしていましたから。」


「本来で有れば俺がどうこう言う問題じゃ無いのは承知しているが....今は違う。害が及べば俺が対象じゃなくても見返りが来ることを覚えておくんだな。」


「勿論、心得てます。勝てるなんて微塵も思ってませんから。」



 そう話を締め括ると丁度ユリナが戻ってきたので食堂へと向かって歩き出した。










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