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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第5章
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44話 現状の把握と奥底の記憶の断片


 そんな感じで駄弁っているといつの間にか夜になっていたので今日はもう寝ることになった。ずっと外に出掛けていて疲労が有ったのだろう。ユリナはベッドに入って直ぐに寝息を立て始めた。俺はそれを見てからこっそり家を出て広場に向かった。


 中央に立ち杖を地面に付けて鍵となる言葉を呟き魔法を発動させる。



「『繋げ、そして答えよ。魔王---の名の元に。』」


《めっずらしいね~。呼び出しなんていつぶりだろ~。ボク、方法忘れて来れないとこだったよ~。エルシリラ迷宮管理者のエル、来たよ~。》


《そうね。呼ばれるの嫌じゃないからもっと呼んで欲しいとわたくしは思っていますわ。ウィッチェ迷宮管理者ウィー、参りましたわ。》


《...仕方ない。...ルギシニラ迷宮管理者ルギラ、来た。》


《色々事情があるさかいしゃーない。あたしはいつでも暇やさかいあたし個人を呼んでくれてもええんよ? バルディア迷宮管理者バデア、来たでー。》


《貴方達、−−−様の前ですよ。もう少し敬意を表したらどうです? 皆様は相変わらずですね。スノーザド迷宮管理者スノ、此処に。》


「私達も参りました。」


「来たっす。まあオレらは生身で彼女らは思念体みたいなもんですけどねー。」


「ルピ、レイト、よくお前ら来れたな。素早くて吃驚だ。そして、管理者(お前)らは相変わらずで何よりだよ。」



 溜め息を漏らし周囲を見渡すと俺を中心として街の方角で星形になるようにそれぞれの街の迷宮管理者が立ち、背後にルピとレイトが膝をつき頭を垂れていた。



「まあ、わざわざ呼んだ理由は、」


《それについて心当たりが御座います。申し訳ございません。》



 そう言うのはスノーザドの迷宮管理者スノ。俺は視線を向け事情を聞く。



《あれは地上で魔物騒動が起こる少し前の事です。(わたくし)は封印の前でその日も変わらず守護をしておりました。迷宮に挑む者もおりましたので様子を眺めていると突然周囲が歪む感覚が有りました。直後体が動かなくなり数分の間、五感は確かに現実にあるのに意識は体の中に閉じ込められる様な感じで朦朧としていました。ですが急にそんな感覚が綺麗さっぱり無くなりました。慌てて封印を確かめましたが何も変わっていませんでした。勿論変わっていなくても報告をしようと思いましたがその日から外部への通信が不可能になりお伝えすることが出来ませんでした。今は外部から繋いでいる上、−−−様の強い力で話せていますが。......お気をつけ下さい。何かの勢力が確実に動いています。その影響で−−−様の魔王としての力が激しく蠢いている様に見えます。情報不足、伝達遅れ大変申し訳ございません。どのような罰もお受けします。》


「いや、そういう状況ならば仕方ないだろう。気にするな。罰は何もないし俺は生憎と封印に近付けない。だからもう一度確認する様にしてくれ。他には何かないか。」


《今のスノの話さ~、ボク心当たりある~。ボクは基本的に内向的だからさ~、同じく封印の綻びは無かったから、連絡をしようと思って無かったけどさ~。エルシリラももしかしたらやられちゃってるかも~。》


《あちゃー。あたしも心当たりあるのが痛いとこやわ。あたしのとこも封印には変わり無かったし問題無いと思っとったけどバルディアもやられてるかもしれんなあ。》


「ルギシニラとウィッチェは?」


《わたくし、ウィッチェの方に関してはまだ無いですわ。》


《....ルギシニラもまだ。》


「そうか。正体不明だから対策しようが無いがここまで来たら残り二ヶ所も狙って来るだろう。ところでルピとレイトもわざわざ来たってことは何か有るから、で良いんだよな?」



 後ろに視線を向ける。すると立ち上がり書類を渡される。俺は目を通しながら話をするよう目で促す。



「あの後、ユリナ様が襲われそうになり未遂になった騒動の調査を進めました。どうやら大きな組織の様です。捉えた者は末端も末端だった様であまり情報を抜くことは出来ませんでした。分かった事は組織名が『魔の叡智(えいち)』で有ることとその組織の目的。」


「これがその目的、ねえ。」


「馬鹿らしいかもしれないっすけど実際に問題が現れてるんで軽視できないっすよ。なので帰って来るの待てずにこうして来た訳っす。」



 渡された資料に目を通して目的を読み上げる。



「〝我ら『魔の叡智』は長き時を経て待ち望んだ創造主たる魔王を復活させこの地に再び災厄(リセット)創造(リスタート)をもたらす〟ね。一体どうやって封印を知ってこいつらを出し抜いて俺にダメージを与えてきてるのかねえ。」


「まだ少なく確定情報じゃないっすけど、どうやら一度は滅んだ筈の魔法使いの生き残りがいる可能性があるかもしれないっす。勿論魔王様の知り合いの魔法使い、以外っすけど。」


「へえー。」


「「....っ!!」」


《《《《....っ!》》》》


《笑ってる~。ボクこんな顔見たの始めてかも~。》


「笑ってるって、誰がだよ。」



 呑気な声で言うエルシリラの管理者に俺は呆れて言葉を返す。確定的な情報じゃ無くても重要そうな事案が発生したのだ。〝魔法使いの生き残り〟だって? あの時糞みたいな事してたから全てを葬り去った筈なのに。ああ、何もかも辻褄が合いピースが嵌まる感覚さえ有る。



「ク、クククッ、アッハッハッハーー!! 何だこの感覚、笑ってる? 俺が、か。胸くそ悪いのに何故笑える? こんな状況なのに楽しんでる? いや、違うな。これはきっと、」



 今度こそ、間違いなく、過去と決別し、全てを殲滅させられる喜びだろう。







 一頻り笑い段々と落ち着くと遥か後方、この広場の入り口の近くからガサッと音が聞こえてきて下を向いていた顔を上げる。ひょこっと顔を見せたのは不安そうな表情を浮かべていたユリナだった。熟睡していると思って出てきたんだが少々殺気やら笑い声やら漏れすぎたのだろうか。此方の存在に気付き若干寝ぼけていて眠いのか目を擦りながら歩いてきた。段々と近付くと俺の周囲に今まで見たことが無い5人の女性が立っているのを見て両手で目を擦り大きく目を見開いている。俺はその様子を笑って見ながら手招きしながら声を掛ける。



「熟睡していた様に見えたから出てきたんだが何か特別な察知の能力でも有るのか? まあ、折角来たんだしこっちに来るといい。こいつらの事紹介してやる。」


「.....私の目がおかしくなければこの人たち透けている様に見えるんですけど。」


「実体じゃ無いし透けてるのは当たり前だ。」



 俺の元まで歩いてきたのでユリナをくるっと半回転させ背中を向かせる。そして俺は順に指を指して紹介しようとしたら大きな驚きの声が上がる。



《ああーーーー!! この子って前に来てくれた子だ!! ひっさしぶり~、って覚えてないんだっけ~。残念だな~。−−−様~、解除しても良いよね~?》


「あ゛あ゛? あー、まあ良いか。ある程度事情は知ってるし問題ないだろう。」


「な、何ですかっ?」


《気にせず立ってて~。それじゃあいっくよ~! 記憶の鍵を~『解除』!!》


「!!? う゛っ。」



 以前エルシリラでの迷宮攻略中に乱入し事情を知らないユリナへは要らない記憶だった為記憶を封印したのだがそれを『解除』した。時間にして数分の記憶では有るものの相当な頭痛がしている筈だ。現に頭を抑えて苦しそうな表情をしている。俺はしっかりと支えたまま落ち着くのを待っていた。



「.....これ、迷宮の?」


「混乱するのも無理無いだろう。本当の事を思い出したんだからな。いや、記憶が書き換えられそれがようやく元に戻ったと言った方が正しいか。以前〝何か大切な事を忘れている気がする〟とかって言ってただろう? まさか多少抵抗(レジスト)されるとは思っていなかったけど今思い浮かんでる光景こそが本来辿ってきたルートだ。」


《うんうん。思い出してくれてボクは嬉しいよ~。今度こそ久しぶり? でいいかな。ボクはエルシリラの迷宮管理者のエルだよ~。あの時は有無を言わさずに記憶を弄っちゃってごめんね~。−−−様の命令は絶対だから、さ。》


「え、ええ。お久しぶりです? 実際姿を見るのは今が始めてですけど。」


《エルだけ羨ましいですわ。わたくしも挨拶させて下さいませ。ウィッチェの迷宮管理者のウィーですわ。お見知りおきを。》


《....ルギシニラの管理者ルギラ。》


《ルギラちゃん、もう少し話したらどうや? その態度じゃ話したいのか話したくないのか分からんで。おっと、挨拶を忘れるとこだったわ。あたしはバルディアの迷宮管理者のバデアって言うんや。よろしゅうな。》


(わたくし)はスノーザドの迷宮管理者のスノです。お初に御目にかかります、−−−様の奥方。》


「き、急で分からない事が多いですー。というか奥方ってっ! その呼び方は勘弁してくださいー。」


「別に似たり寄ったりな感じじゃねえか。あながち間違いでも無いしな。で、お前らは挨拶したの?」



 俺はルピとレイトに視線を向けるとユリナの正面に膝をつき恭しい態度で話す。



「あの時は醜態をお見せして申し訳ございません。お陰で助かりました。改めてご挨拶させていただきます。私は魔王様の側近であり悪魔のルピでございます。今後はユリナ様の命にも従いますので何なりと申し付け下さい。」


「オレはレイトっす。身近に接する時は砕けた感じにしてるっす。もしユリナ様が嫌でしたら畏まりますのでルピ同様何なりと言ってくださいっす。」


「様なんて。そんなに改まれるとやりづらいんで師匠に接する時のが普通であればそれで構いません。」


「という事なのでそんなに畏まるなよー。」


「それ上の人が言う言葉ですか。」


「承知しました。」


「了解、助かるっす。」



 立ち上がり礼をする彼らに慌てたように礼を返すユリナを見ながらいるとくるっと向き直り指を指される。



「なんだ?」


「何だじゃないです。師匠の過去話以上に訳が分からない事が多すぎてパンクしそうなんで状況説明と迷宮の場所の地名の説明求みます!」


「えぇー.....めんどい。」


「〝めんどい〟じゃなくて説明責任有るじゃないですか。」


「よし、分かった。お前ら説明頼む!」



 俺は親指を立てて丸投げすると楽しそうに笑うのと呆れた表情を見せるのと二分した。俺よりは上手く説明しやすいだろう。



「そんじゃあエルシリラからぐるッと時計回りで最後スノーザドで。位置する場所説明。その後は俺から話そう。はい、スタート!」


《はーい! 一番手はボク~。エルシリラはこの大陸で東に位置するよ~。今ここがエルシリラだからユリナちゃんにとっては馴染み深いかもしれないね~。それじゃあ次にバトンタッチ~!》


《.....ん。二番手はわたし。....あなたは一度来たこと有る...から知ってるかもしれない....けどルギシニラはこの大陸からやや南東の島にある.....次。》


《次はあたしやなー! あたしがいるのはバルディアちゅう街の迷宮や。バルディアは大陸では南に位置するんやけどルギラちゃんの場所に比べたらやや西よりなんや。ほんなら次。》


《ワタクシはウィッチェの管理者ですわ。ウィッチェにも少しですが、いらしていましたわね。ご存じの通りエルシリラとは真逆の位置、西にありますわ。それでは最後、お願いしますわ。》


(わたくし)が管理しているのはスノーザド。位置は北に位置します。お気づきになったかもしれませんがこの立ち位置は星形であると同時に迷宮、即ち街の場所を示している物にもなっています。迷宮管理者という言葉の意味は−−−様より。》



 くるっと一周するように説明を受けて頷いているのを見ていると整理し終わったようで俺に向き直る。



「それで迷宮管理者とは、についてはあれですよね。師匠が封印の護衛と管理をさせている人たちって事ですよね?」


「そうだ。俺は封印に近づけないからな。だが色々と問題発生中らしいからそれを話していた所だ。」


「っ!」


「? どうした?」



 急にユリナがビクッと体を震わせ一歩後ずさったので俺は首を傾げるとその答えは別の場所からもたらされた。



「....魔王様。気付いていないのですか?」


「さっきもそうっすけど、こりゃあ少々やばいかもしれないっすね。」


「あ? なんの事.....」



 ルピとレイトより言われても分からない俺は詳しく聞こうと思ったらユリナの視線が俺なのに俺のやや右側にずれている気がする。首だけ回して見てその光景に俺は目を見開く。



「なっ。」



 慌てて左側も確認するが無かった。もう一度右側を見るが見間違いじゃない。一枚の漆黒の羽が有った。驚きのあまり言葉を失い硬直しているともう一つ異変が生じた。



「ああ? 何だこれ。」



 右目から大量の血が流れていた。そして再び悪夢が訪れる。



−ドクンッ



「....悪い冗談だろ? 術が解かれるじゃねえか。」



 その瞬間あの時の、いやそれ以上の苦しみが全身を襲う。これも生を望んだ罰なのだろうか。



「がああああああああああああ!!!」


「し、師匠っ!!!!」



 呼び出しの術も解かれ次々に叫ばれた言葉は耳に届くこと無く姿が消える。俺は倒れ身を縮めて胸を押さえる。荒く呼吸を繰り返し周囲の労る声も一切届かない。


 激しい痛みに耐えきれず意識が途切れる。



…………



……





《なんだ、ここは?》



 目を開け周囲を見ると真っ暗な空間に立って、いや浮いていた。出した声も反響している。


 瞬間景色が一変する。



「やめて、やめてよー。」


「弱いのが悪いんだぜ。」


「そうだ、悔しかったら何かしてみろよ。」


「何言ってんだ。こいつは何も出来ないお父さんにもお母さんにも捨てられたゴミだぜ。ゴミが何か出来ると思ってるのか?」


「ははっ、違いない。何もできねえしまさか俺らに手出しなんてしねえよなあ?」



 映った景色は一人の男の子が複数の同年代の男の子から虐められているもの。男の子はただただ身を縮めて耐えていた。そんな様子に飽きて帰る虐めっ子達。そして残された男の子は何かを呟いていた。



「.....何で僕だけこんな目に、会うんだ。何で、何で何で何で何で!! この世界が悪いんだ。死ね、死ね、死ね、死ね。全て、全て、全て。」



 怨みの言葉。幼い男の子から発せられる言葉とは思えない言動、ドスの聞いた声、虚ろな目、暗い表情。ふらふらしながら立ち上がり去っていくと急に場面が切り替わる。



 多くの悲鳴。鳴り響くサイレンの音。多くの人が血を流し倒れ付している。その中で包囲されている人がいる。片手に大量の血が付着している包丁を握りボロボロの服には多くの返り血を浴びている。その表情は、笑っていた。心底楽しそうに。そんな狂気に周囲は怖じ気づくが次の瞬間誰もが予想だにしなかった行動が起きる。殺人鬼と呼ばれ包囲された少年は持っていた包丁で、



−−自分を殺した。



 死に際の表情も笑顔を浮かべていた。



《な、なんだ。これは。》



 そう呟いた言葉を返したのは映像で死んだ筈の少年の口からもたらされた。



「....忘れちゃったの? これはお前の−−−なのに。」


《....何を...。》



 そう呟いた俺だったが頭に衝撃が走り頭を抑える。目を見開き否定する言葉を発する。



《違う....。違う、違う、違う!!! 俺じゃない!! 嫌だ、やめろっ!!!》


「お前は幸せになる資格なんて無いんだよ。何で楽しく暮らしてるの? ねえ、何で?」



 血塗れの少年は口の端を吊り上げ楽しそうに言う。俺は目を激しく泳がせて焦点の合っていない目で少年の言葉を聞いていた。



「駄目だよー? そんな事許さないよ。だってそうでしょ。あの時誓ったじゃない? それも忘れちゃったんだっけ? ねえ、これも()なんだよ? 思い出してよ、そして楽しもう(壊そう)? ......。」



 少年の口から発せられる言葉を耳を塞いでその場に(うずくま)る。すると別の場所から声が聞こえてくる。少年の声ではなく聞き慣れた自分を呼ぶ女性の声。



「....っ......う...しょう.....」



…………




……




「....師匠っ!!!」



 目を開けると見慣れた広場の景色、そして焦った表情のユリナが心配そうに見ていた。羽が有ったので上半身だけ支えられ起こされた状態でまだぼーっとする頭で状況を思い出す。するとさっきの光景を思い出し不安に駆られ呼吸が早くなる。が、次の瞬間暖かいものに包まれる。



「....ユリ、ナ?」


「大丈夫です。今はここに何も師匠にとって害するものも、怖いものもいませんから。」


「......っ。」



 俺を抱き締め、そう声を掛けたユリナに俺は言葉を失う。荒くなった呼吸、高鳴る心拍音が続く中、俺に何も言わず背中をただ擦ってくれる、何気ないそんな暖かさに知らずの内に段々と落ち着きを取り戻していった。



「.....落ち着きました?」


「....大分。」


「オレら完全空気っすよ。」


「黙りなさい。」



 実体で呼んだルピとレイトはまだこの場にいた様で小声で呟いていた言葉を俺は聞き逃さなかった。



「....帰れ。」


「それが心配してくれた人たちに言う言葉ですか?」


「.....いえ、そうでは無いようです。レイト行きますよ。」


「そうっすね。」


「え?」



 俺の意味を察し即座に去った彼女らを見送ってからユリナは文句を言う。



「師匠。酷いですよ!」


「....残念ながらそうするしかない状況だったんだ。許せ。」


「何が、!!」



 ユリナは言葉の意味を知った様で押し黙った。








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