43話 過去の記憶とステータス
「何から話そうか。」
「話せる所からで? お任せします。」
うーんと唸っていると話始めを思い付いた様で手を叩いた。
「よしっ、決めた。」
そうして語られた話を私は黙って聞いていた。
異世界への渡航は大きく2つの方法が存在する。1つは私の様に召喚された場合。此方は”転移者”と呼ばれる。転移者は元から高い素質を持ってやってくる。
もう1つは前世での人生を終え新たな人生を別の世界で始める”転生者”。此方は元々の素質こそ無いが大器晩成型で徐々にこの世界の住人との差が出てくる。師匠の場合は後者に当たる。
普通ならば転生と聞くと赤ん坊から始まるのだが師匠の場合は前世で亡くなったのが15の時だったからかそのままの年齢で此方に転生したそうだ。前世での自分に関しての記憶は一切無いが、知識は残っている。知識が有っても役立てる所は無いと言っていたが。同じ日本出身だったと言ったが200年以上前と私が、生きていた時代は全く違うと思っていた。だけど、どうやら転生によって異世界に来るのは時間軸が歪められるそうで確認の為と言われて色々と出された単語は数年前に流行った様な言葉ばかりだった。
15で転生したとは言え転生先が何処かの家でもなく外。前世の記憶が無いので何故そういった感情に囚われていたかは今となっても定かでは無いがこの世の中の理不尽さを兎に角呪っていたそうだ。死にたいとさえ思っていた。訳が分からぬまま歩き続けると森の賢者に拾われ自分の知識にしかなく目の当たりにすることは無かったであろう”魔法”を見て興奮した。そんなものがある此方の世界では人の生死が簡単に奪い合えるものだったが子供だった故、ひたすら無邪気に悉くを吸収していった。その期間凡そ2年。
17歳になり、見聞を広めたいと考え色々な場所を見て回った。そんな放浪の旅を3年間、20歳になった時に二人の男女に出会った。その二人と仲が良くなり色々な討伐に出掛ける様になった。そして5年後の25歳の時、平和な世界が”魔王”の存在によって一変する。その当時は”勇者”という職は存在せず”聖剣”を握り扱う事が出来る者が”勇者”と定められた。魔物が蔓延る国や街、村を図らずも救っていた彼らにも勿論適性検査を受ける事になる。
そして、師匠は適合してしまったのだ。同年、彼等は魔王を討伐し世界には再び平穏が戻る。しかし、魔王討伐後に異常が現れ始める。自分の力が急に沸きだしだり、激しい頭痛、吐血することが有った。最初こそは少なかった回数が月日を重ねる毎に増えていった。そして2年後。悲劇が起きた。あることをきっかけに魔王としての力が覚醒される。後で知ったことらしいのだが実は先の魔王騒動は本当の魔王では無く自らをそう名乗り誇示していた者だと知ったらしい。暴走したが何とかその場では収めた力。そして、覚醒した際に獲得した魔王が持つスキル『邪王』によって秘密を知る。『圧倒的な力を宿せる肉体を探す。欲深いもの、聖剣を持つ勇者のどちらかに宿り、来るときに覚醒し平穏な世界を時に壊し世界のバランスを保つようにする』という世界が成り立つ為のシステムがあることを知識として植え付けられた。
スキルを作った者の勝手な都合により平穏と破壊が繰り返される。そんな企みを潰してやろうと、2年の間で少しずつ自分が異端である事を知っていった彼は事前に魔王の力をコントロールする為の空間を作り世界のシステムを魔王らしく破壊してやる事を決めた。ただそんな考えが直ぐに実現できる訳もなく魔王への覚醒時に不老不死へと体質を変化させた事もありそこから50年間何も食べず、飲まずひたすら自分の力をコントロールするためだけに生きていた。
魔力操作の要領で奔流を押さえようとして何度も床をのたうち回った。暴走仕掛けたときは自分へ昏睡薬を打ち動けなくさせたりしていたが自称魔王の討伐の際一緒だった二人が少しでも楽になる様にと打開策として魔王の力の封印を考えた。勿論強大すぎるし全て封印することで彼に何が起こるか分からない。なので魔王としての力の一部とコントロールする上で不要な物を詰め込み封印する魔法を発動。その封印を5つに分散させ今の主要の街の近くにある迷宮の最深部に護衛人を付け管理している。
そしてその効果が有り、力を抑える事に成功。とは言え50年は長すぎた。不老不死とは言え、弱っていた事や強大な力を収めた反動なのか10年は昏睡状態に陥った。そうして目覚めるとこの世界の情勢が一変しており戸惑ったそうだ。それからは気が赴くままにルギシニラの街の発展をさせたり色んな街に顔を出して情報を集めた。そんな生活を250年。人の生を、死を繰り返すのを見て人の命の重さをきちんと計れなくなり死にたいと思ったことは何度もあった。でも自分では不死の力で死ぬことが出来ず誰かに殺してもらおうとしても強者故に自分を死へ至らしめられる者は誰一人としていなかった。
だから、ただただ惰性で生きていた生活も一人の来客者で変わる。唯の退屈しのぎ。あわよくば自分を殺してもらおうとでも、そう思っていた筈なのに。
「.......。」
そして度々体調を崩したり倒れたりする理由について。元々魔王としての力は残っているため不定期ではあるが数年毎に暴走しかけるがその時は魔物を倒していく事で解消するらしい。しかし、街で起きた発作に関しては、封印の意味を知った者が何やら暗躍しているかもしれない。迷宮の最深部で何かあれば分かる筈。その報せも無いので大丈夫だとは思うが意図的に暴走させようとしている者達がいる。
「あの時と同じだ。この異端の力を収めようと苦しみ、暴走仕掛け、押さえつけようと躍起になっていた50年間と。」
苦虫を噛んだような顔をして拳を強く握っている。その手からは血が滲んでいる。よく見ると恐れからなのかは私には分からなかったが体を震わせていた。右手で魔王の特徴である変質した紅い眼を覆って言う。
「.....本当のところ、俺は弱いんだ。だから、怖いし恐れているのかもしれないな。自我を失い、暴走する化け物に変わってしまう事が。そして、こんな生き方を続けるのが疲れてしまい、諦めようとしている自分もいる。」
悲痛な顔を浮かべているとツーッと一筋の光るものが流れていった。私は息を飲んだ。普段からじゃ考えられない雰囲気、本音。私は立ち上がり対面にして座っていた師匠に近付いていく。未だ俯いた状態でいるのを私は手を伸ばし頭を抱え込む様にして抱き寄せる。表情は見えないが私は言葉を掛ける。
「弱くなんて無いですよ。前に言っていたじゃないですか。師匠は最強、なんでしょう? らしくないですよ。普段通り威張ってれば良いんです。今の師匠は....格好よく無いです。私が.....好き、なのは自由奔放で悪戯っぽい笑みを浮かべて私を困らせる、そんな師匠ですよ。」
「.....。」
言い切ると暫く沈黙する。そんな状態のままいると笑い声が聞こえてきた。
「.....ク、ハハハ。らしくないねえ。慰める気があるのか? 人の事を散々悪し様に言ってるしよ。」
「えっとー、それについてはー。」
「今更訂正しても遅いっつーの。別に怒ったりしねえよ。はぁ、考えるの馬鹿らしくなってきた。やめだ、やめ。」
普段の調子に戻った師匠にフフッと笑い離れようとすると脇腹を掴まれ、くるっと半回転し引き寄せられて膝の上に横抱きにして座らされた。文句を言う前に師匠は口を開く。
「....こうしてると荒みそうな心が安定してる気がするんだ。俺の勝手な気のせいかもしれないが暫くこのままで。」
「恥ずかしいけど許します!」
「何で上から目線なんだよ。」
そこまで言うとお互い見つめ合いクスクスと笑う。
「.....大丈夫ですよ。」
「何がだ?」
「強くなった私が簡単に止めてあげます!」
「レベル差あるのに何言ってやがる。まだまだ俺には勝てる訳無かろう。」
「一発くらいならやれそうな気もしますけど。.....ああ、レベルと言えばステータス!」
「ステータスがどうかしたか?」
「『鑑定石』有りますかっ?」
「あるが?」
「出してくださいっ。」
面倒そうな表情をしつつも何もない虚空からどうやって取り出したかは分からないが手元に持っている『鑑定石』を受け取り自分のステータスを表示させる。
「凄く強くなったと思いませんっ!?」
ステータスが見えるように師匠の方へ鑑定石をずいっと目元に向けて押し付ける。
「近いっての。逆に見えねえよ。」
「すみません、つい。」
「で、ステータスが何だ?」
「限界突破した成果を見せようと!」
見せられたステータスは勿論知っているが不意に城で話した内容を思い出す。喜んでやれとか言われた気がする。この事を分かっていたからあんなこと言っていたのか。何でもお見通しって訳か。ここは初見の様な反応をするべきなのだろうか。
「師匠?」
「あ、ああ、見よう。」
〔 桜城百合奈 17歳 人間
魔法使い LV100 (適正〈主〉:青 白 黄 〈副〉:赤 )
スキル:心汲 魔力:4290 〕
「結構伸びましたよねえ。それに新しい[属性色]増えましたし。色々と練習しないとですねっ!」
純粋な目を向けられ俺は言葉に詰まる。そして思い出す。
「ステータスあんまし上がってねえ。」
俺は思わず白い目になり魂が抜けそうになる。
「ちょ、師匠!? なに考えているかは分かりませんが戻ってきて下さいっ。死んじゃ駄目ですよぉ!」
「はっ! 悪い。」
「急にどうしたんですか。本当に大丈夫ですかー? 発作とかですか。」
心配そうに顔を覗きこまれるが本当の事を言える訳もなく全力で誤魔化す。
「いや、そんなんじゃないから。こっちの事だから気にすんな。そんでステータスの方は、と。」
な、何て言えば良いんだ。言葉が詰まる。
「....やっぱり様子がおかしいですよ? 寝ます?」
「夕方前だぞ? 寝ねえよ。俺の事何だと思ってんだ。....いや、何だ。色々とやることが増えたがゆっくり試すようにしていこうか?」
「どうするかは師匠が決めるのに何故私に聞くんですか。」
「ここからはレベルが上がりにくいしゆっくりで良いよなっていう確認、だな。」
「決めたのなら、それで構いませんよ。」
何とか誤魔化せた。結構な危機だった気がする。少し溜息を漏らす。
「それじゃあ次は師匠の番です。」
鑑定石を渡される。片手で受け取りステータスを表示させる。
〔 ノト=ルギシニラ 27歳(287歳) 魔王(人間)
魔法使い Lv257 (適正〈主〉:赤 青 緑 黄 白 黒 無 )
スキル:全適正 邪王 魔力:15600 〕
「表示させたが、これが何かあるのか?」
「何かって大有りですよ! 始めて見せてもらった時こそちょっとパニックになってて何も言えませんでしたけど改めて見ると出鱈目じゃ無いですかっ!」
「?」
「.....本当に言ってる意味分からないんですか?」
「何が言いたいんだ?」
驚きと呆れを含んだ表情で俺の事を見るユリナに疑問符を浮かべる。別におかしくはないと思うんだが。
「何から言えばいいか分からないんですけど、先ず『鑑定石』の事!」
「これがどうかしたか? 壊れては無いぞ。」
「あの時も今も、どうやって取り出したんですかっ? バッグに入ってるんじゃないんですかっ!? それに銃も急に現れましたし。何使ったらそんな手品みたいな事が出来るんですかっ!」
「何を使ったらって書いてあるじゃねえか。」
そう言って[属性色]の[無]属性の部分を指差す。すると急に鑑定石から俺への視点に転じて文句ありげな表情で問われる。
「先ず[属性色]が全部で更には〈主〉で、規格外というのは多分スキルの『全適正』だとは推測できます。固有スキルが強力である事は分かっているので例え前に[無]属性が生涯かけても取得は難しいと言われたとしても! 納得はしてます。でもっ!」
「お、おう。」
「私は最初に教えてもらった[属性色]についてよく覚えてるんです。[無]属性は特殊スキルが属すって。『果てに紡ぐ力』もそうでしたよね。その後師匠は何て言ったか覚えてます??」
「.....残念ながら。」
「〝[無]は高度な”魔法”で、どんな[無]の”魔法”が存在するか何も残っていなくて、分からない事が多いからあまり気にしなくて良いかもな。〟って言ったんです。高度は置いといて何が分からないことが多いですか。絶対色々知ってますよねっ!?」
「いや、まあそんな事言ったかもなあ。でも俺も反論するが。自分から多くの手の内を晒すと思うか? それも出会って数日の怪しい奴に。」
「怪しいって酷いですっ! でも、まあそんな自分の能力をベラベラ話しませんよね、普通。.....それで[無]属性は他に何が使えるんですか?」
「あー? 取り敢えず覚えてる範囲でなら。『転移』と『異空間収納』と『浮遊』。因みに一番最初に見せた魔法も[無]属性だな。物に『浮遊』させていかにも[緑]魔法を使ってるよう風を起こして、さ。『浮遊』で思い出したけど『付与』もか。」
「滅茶苦茶知ってるし使えるじゃないですか。何が知らないですか。」
ジト目を向けられ俺は使えるものはしょうがないと思うと反論したい。要は想像でどうにもなるなら自由にやりたい放題という訳だが。
「あっ、『変化』もか。髪だけじゃなくて身長や体重とか色々と変えられる。残念ながら右目だけは俺の魔力を受け付けないから普段はアイテムで誤魔化してたんだけどな。」
「魔力を受け付けない?」
「弾かれるんだ。だから案外不便でな。」
そう言って魔力を流す。ユリナの様子を見ると眼には魔力が流れずに避けて通っている様子が見えているのだろう。目の動きがそれを物語っている。
「.....。」
「どうした?」
「いや、それって師匠の魔力だけを受け付けないんですか?」
「! 成程な、その考えは試したことは無いな。」
「もしかして、」
「そのもしかしてだ。試してくれ!」
ユリナが言っていたのは恐らく人が魔力を干渉したらどうだという意味だ。ただ[黒]魔法は持たないので使いやすい[青]魔法で試すことにした。
「....成功、ですかね?」
右目に翳されていた手を外してから聞かれたので鏡をアイテムボックスから取り出して見ると右目が蒼く変化していた。
「これめっちゃカモフラージュ楽になるなあ。」
「私[黒]魔法使えませんけどね。」
「それは、こうすれば問題解決だ。」
左目も蒼くして見せるとじーっと見られたので鏡をちらっと見るも同じ色だった。何が気になるのか分からなかった為聞いてみた。
「何か変か?」
「....え、いえいえ。そんな事無いですよ。」
「言いたいことあるなら言えよ。」
「....私は、個人的にオッドアイの方が好きかなあ、なんて。」
段々と右目の色が戻ってきたので左目も黒に戻す。鏡を確認しながら戻しているとユリナが少しニコッとしたのを横目で捉えた。まあもう隠すことも無いから家にいる間位は両目が見える状態で過ごすか。




