34話 魔物の進軍と大規模戦闘のその後
「.....ん。」
「おう、起きたか?」
「此処、は?」
「さて、何処でしょう。」
「何か凄く温かい。しかも揺れてる気がする。」
「プッ、今言ったやつ、全部気のせいじゃ無いぞ。」
「え?」
ゆっくり目を開けると顔を覗きこんでいる師匠の顔が先ず目に入り徐々に上下に揺れている感覚も感じ始める。それに凄く温かい感じもする。
「まあ、魔力が切れた影響で凄く体が怠い筈だから、今の状況を正確に気付いて、やめてくださいと言われた所でユリナは何もできねえと思うけどな。」
そう言われ体を動かそうとすると殆ど動かない。とても怠い。頭だけはそれなりに回るので今の状況を客観的に見てみる。そして気づく。.....お姫さま抱っこされてる。確かにやめてと言いたいけれど此処で落とされても体が重いので置いてかれることが決定される。なので黙っていた。
「何だ。今日は何も言ってこないんだな。詰まらん。」
「そんな気力無いですよ。それに置き去りにされても困りますし。」
「それは遠回しに俺がそうするって言いたいのか。」
「え? そう、ですけど。」
「よし、分かった。じゃあ放置させてもらうわ。」
「ちょ、やめてくださいぃ!」
私を下ろそうとする師匠を止めるとにやにやと楽しそうに笑いながら再び歩き始める。
「因みにこれ、何処に向かってるんですか。」
「それを答える前に。ユリナは自分がどれくらい眠ってたと思う?」
「ええ? 何でそんなこと聞くんですか? 少ない情報しか無いですけどこの状況から考えるに数分、とかじゃないんですか。それで勇者らの拠点に向かってる、かな?」
「残念、外れだ。もう少し俺の方だけじゃ無く、頭を動かすのはー、無理だろうから目だけでも横に向けてみろ。」
そう言われよく見ると森の中を歩いていた。そして少し先に光が洩れている森の出口が見えた。確か戦っていた場所は凄く広い草原のようなところだった気がする。そして、木々に囲まれていたはず。だからこの場所を抜ければあの戦闘していた場所に着く。
「へ?」
思わず変な声を上げてしまう。いや、上げられずには入られない。だって、
「少し早いが、ようこそ、魔術が発展している街、ウィッチェへ。」
にこやかな笑顔でされどからかうような声音でそう言う師匠。森を抜けたら遠くに街の影”ウィッチェ”が見える高さの崖の上にいた。
「ど、どゆことっ!?」
遡ること数十時間前。この時点で驚きだけど。
ボスの首を取ったので統率が取れなくなった逃げ惑う魔物に勇者らは八面六臂の活躍で倒していったらしい。そんな勇者らも疲労から戦いが終了したら直ぐ眠ってしまったらしい。日が白み始めた頃には戦闘が完全に終了していたらしい。勇者らに関しては日が上ってきた頃に起き始めたが私は魔力切れの影響が大きく、目を覚まさず寝たままだった。魔力自体は師匠からの譲渡で回復はしていたが酷使し過ぎたらしい。怪我も全て師匠がきれいに直してくれた様だった。勇者のパーティーは心配そうにしていたらしいが恐ろしいイメージを持ってしまっている師匠がいたらしく近付くことが出来なかったものの、師匠は後始末やらでサークレルトさんと話すことが有り呼び出されたのでそこそこ信頼できる彼等に様子を見るよう指示し後片付けに回ったとか。
今回の成果やらを話し合いウィッチェから帰ったら城に向かう旨を話して他の国の重鎮達も大規模の魔物の進軍をたった数日、数人で倒した事実に一応”勇者”として認める事になった。勿論めっぽう強い乱入者がいたりボスを倒してしまったのが勇者では無く私だったのでその辺を激しく追求されたのだが師匠の言葉で引き下がったらしい。正しく鶴の一声。何を言ったかは私にも言ってくれなかったしその場にはエルシリラも含めた『通信の珠』を使った国の重鎮達しかおらず真相はサークレルトさんにも聞き出すことが出来なさそうだ。この辺は師匠の大きな秘密とやらに関わる所なのだろう。なので私は詳しくは聞かなかった。
そんな話し合いが終わってもなお目を覚まさない私を起こすのも悪いと思った師匠は昼前に「此処からならウィッチェは夕刻前には着くだろうから行くわ! もう俺の仕事は無いだろうから、サークレルト、後は頼んだぜっ!」と言って颯爽と私をお姫さま抱っこで抱えて凄まじいスピードでウィッチェの方へ走ったそうだ。え? 普通に歩いたり、普通に人間が走って向かってどれくらいかかるって。あの戦闘現場から最低でも5、6日は掛かるそうですよ。そこを数時間で踏破したらしいです。相変わらず規格外な事してる。周りの色々な声を無視して一直線で来たそうだ。
「と、まあこんな感じ?」
「結構テキトウ過ぎません?」
「そだな、っと。」
崖から飛び降りる。また急にこういうことをされるが飛び降りるとは思っていたので構えていた私は特に声を出すことが無かった。再び街に向かって歩くかと思ったら急に進路を反れる。真っ直ぐ行くと思ったら曲がっていったので驚いていると、
「師匠?」
「まあ、この辺なら使いやすいか。消費も少なそうだな.....ユリナ、頑張ったご褒美に俺のとっておきの魔法を見せてやるよ。」
「え?」
「『―――』。」
あまりの眩しさに私は目を瞑った。
「こっちか。」
まだ日は顔を見せる時間じゃない。ユリナがボスを討伐してから数十分後、俺は一人で森を歩いていた。まだ残った魔物との戦闘音が聞こえてくる。ユリナは倒れたので拠点としていた場所に大量に結界を張って寝かせてきた。魔力を少し受け渡し怪我も応急処置程度で落ち着かせただけなので起きることは無いだろう。
複数の気配を感じる方へ迷うこと無く歩いていく。すると一軒のボロボロの家屋があった。中から何やら複数人の揉めている声が聞こえてくる。俺は扉を開け中に堂々と入る。急に開いたドアに中の喧騒は止まり、静まり返る。
「おや、おやおや。こんな所で会うとは奇遇だなあ。何で今回の黒幕さんと一緒にいるのかな?」
面白そうな笑みを浮かべてそう言う俺に戦慄する女子4人と状況が分からず此処から隙を見計らい逃げ出そうとする黒幕。フードを深く被っていて顔は見えない。俺は指をパチンと一つ鳴らし、
「誰も逃がすな。」
既にトリガーは引かれた。ボロ小屋の中に陰が5つ現れ小屋の中にいる俺以外の人が取り押さらえる。
「なんだっ、こいつらっ。くそっ!」
そう声を上げるのはフードの奴。声的に男、か?
「何だよっ、何でお前がいつも私らの邪魔すんだっ。化け物っ、いや”魔王”っ!!!」
「ハハハ。邪魔って、酷い言い掛かりだなあ。邪魔してんのが俺じゃなく計画が杜撰なお前らが悪いんじゃねえのか? そこの男に付いたのが運の付きって事だろ? まあ世間知らずのお嬢様方には厳しいのかなー。」
「くそっ、くそっ。」
「言葉遣い悪いな。全く、育ちは最悪って事か。さてお前らは要らねえけど俺の面倒事増やしたから楽には死なせねえよ? 何度も俺の目の前に現れたことを後悔し懺悔でもしろ。これから起こることを覚悟しとけ。」
取り押さえられている4人の女に俺は冷たい目を向けてから取り押さえてる奴等に視線を向けて命令する。
「殺してと言っても殺すな。存分にいたぶってやれ。俺が会いに戻った時には精神崩壊してても良いが生かしとけよ。連れてけ。」
喚き始める女を俺は雷の魔法で気絶させる。それぞれ取り押さえている奴等に命令すると直ぐ様行動して帰っていった。残ったのは黒幕の男とそれ取り押さえてる奴。そして俺と、
「いつまで隠れてるつもりだ。お前らも出てこい。」
「「はっ、両名、此処に。」」
現れた男女は目の前の現れ傅く。その後恭しく立派な一人がけのソファを出し置く。俺はそれにドサッと腰掛け足を組む。
「ま、魔王様。も、申し訳ございません。そうとは知らず失礼をしましたっ。」
「そんなんで許されると思ってんのか。今回どうしてこんなことをしたか吐け。まあ話してもらわなくてもお前らみたいな雑魚は一瞬で潰せるしそんなに興味も無いから心底どうでも良いんだがな。」
「も、申し訳ご、ございません。お、お許し下さい。」
「? 本当に謝って許されると思ってんのか? ルピ、レイト今どうなってんだ?」
「はっ、ご報告申し上げます。魔王様が中々民に顔をお見せにならず、民の間で魔王様が大きな戦を起こせば顔をお見せになるという噂が飛び交っている様なのです。出所は調査中で詳しいことは分かっておりません。」
「オレの方からも別件でご報告です。それだけでなく迷宮の謎を知った奴がいるらしく何やら動き始めている勢力が有ります。まさか最下層にいるあいつらが簡単に負けると思いませんが。その勢力に関してオレでも中々深部まで探れず情報が少ない状況です。」
「はあ? なんでそんな面倒な事になってんだよ。色々と長けてるから俺がやる仕事の一部をお前らに一任しておいたのによ。仕方ない、近いうちに一度戻る事にする。色々と俺にもやることが有るから戻ってくるその間もきちんと動けよ? その最中に何かあれば、相手によって殺す事も構わん、許可する。だが、もし何か失態、失敗が有ればお前らは要らねえ。数十年から数百年は俺の目の前から物理的に消えてもらう。分かったな?」
「「心します。」」
俺は冷めた目で二人を見てから黒幕の男に向き直る。その際手を払うように動かしフードを脱がす。何て事はない風魔法を使っただけだが。
「さて、お前の処遇だが。」
「お、お許し下さい。」
「.....お前は駄目だな。目が腐ってる、死ね。」
何かを言おうとしていたのを無視し首を落とす。俺は何の感情を持つこと無く、暫く椅子に腰掛けたまま肘を付いてボンヤリしていた。例え、首を落とした奴が自国の民であろうが黒い感情を持つものは即刻、俺の名の元に処刑。そんな横暴をって思われるだろうから魔道具で罪人の心を示して見せてから殺っている。だから俺に対して不満を持つものがいない。正当性が有ると思われている。そもそもこの世界は人間以外が迫害されている。等しく亜人と呼ばれる者達を保護した街が魔王が統治する”ルギシニラ”という名の場所。基本的にルギシニラ以外の他の街のトップはその魔王の顔すら知らない。不干渉を結んでいるわけでも無い。迫害しているからこそ会う気がないとか会おうとしても街の城内に殆ど不在だから会えないという理由がある。因みにだが、このルギシニラの魔王というのは亜人達が住む魔の街という意味からの魔王で数十年、数百年に度々現れる最強の魔物で災厄を引き起こすと言われている魔王とは別物。その辺区別が分かりにくいが。
「はぁ、いつまでも此処にいるわけに行かねえな。」
俺は立ち上がりルピとレイトに軽く視線を向け一言。
「行け。」
椅子を回収して礼をすると音もなく去っていった。
「鴉羽も暫く自由にして良いぞ。そろそろあの時期に近付くからそれが来たら戻ってきてくれ。」
《ありがとうございます。是非その時にまた会いましょう。》
そう言うと俺が携えていた黒剣が消えていく。小屋から出るため踵を返して歩き始める。
そして、俺が小屋を出るとその小屋が急に燃え上がる。俺は欠伸をしつつ振り向きもせず歩いていきユリナの元へと戻っていった。
第3章、あっという間に終了です。(こんな予定じゃなかった。)このあと20:00にキャラ紹介パート3が上がります。




