32話 魔物の進軍と大規模戦闘2
夕刻、魔物が一旦引いていった。まだ数千の数が残っているがちらりと勇者サイドの方を見るとかなりボロボロになっているのが見える。
「はぁ、疲れたぁー。」
一日、ご飯を食べていても魔法を撃っていたため疲労感からドサッと腰を落とす。こんなに長い間魔法を使った事が無いので今日一日だけでも大分上達したように感じる。昼を過ぎて水と光の槍を同時撃ちとか少々遊びながらやっていた。私が楽しく笑いながらそんなことをしていたので師匠が爆笑しながら眺めていた。
「お疲れさん。一日で大分上達したな。人の事言えんのかって思うところは有ったけど。ククッ。」
「! 笑わないで下さいよっ。魔法が無いところから来ればそりゃあ楽しくなりますよ。なんて言ったって自分が使えるんですからっ。」
「ん゛ん゛っ! ちょっといいですか?」
「おう、ユリナもよっぽど戦闘狂ってことだな。いやー勉強になりましたわー。」
「滅茶苦茶棒読みじゃないですかっ。それに私を師匠と一緒にしないで下さいよっ。」
「ゴホンッ、聞こえてますか?」
「おい、俺と一緒だと何か不都合があるのか。じっくり聞こうか、んん?」
「そんな凄まないで下さいよー。怖いですー。」
「げほごほっ! ちょっと良いですかっ!!!?」
「「何だよっ(ですかっ)!?」」
私は涙目になりながら、師匠は横槍を入れられてイラッとしながら、同じ反応を返して声のする方を向くとそこには勇者が立っていた。いや、勇者の幼馴染みの4人も後ろに立っている。何か呆気にとられた様な表情をして私と師匠を見ているが一体何の用だろうか。
「おい、約束でも破りに来たのか?」
「いえ、違います。」
「おっおう。......勇者君が俺に敬語を使ってる、だと。(ボソボソ)」
「それじゃあ一体何をしに?」
「いや、俺じゃなくてこの4人が会いたいって言うからサークレルトさんからおおよその居場所を聞いて探して来たんだ。」
「....?」
増々意味が分からず疑問符を浮かべる。師匠は師匠で勇者の対応について思うところがありそれを考えるため別世界にトリップしながらぶつぶつと何かを呟いている。勇者の後ろに立っていた4人はお互いに顔を合わせて一歩前に出ると一斉に頭を下げた。勢いがよくて思わずビクッとさせた私を置いて言葉が投げ掛けられる。
「「「「ごめんなさいっ、そしてありがとうございました。」」」」
「っ!!? え? え?」
「桜城さん、俺からも感謝を言わせてほしい。ありがとう。」
「どゆこと!?」
今だトリップ中の師匠を放っておきながら話をするとどうやら私が修行として撃っていた槍でピンチを助けられたとか。もしあの敵が生きてたら死にかけていたかもしれない。と、たらればの話を私に幾つかした。
「良かったね? それで、ごめんの方は何で?」
純粋に謝罪の理由を知りたくて首を傾げ聞いたら勇者は何故か目を逸らす。特に気にすることもないので4人の方を見る。すると、
「いや、輝は気付いてないっぽいんだけど俺らは、その、」
「彼奴らに虐められてるのを知りながら黙っていたんだ。」
「美奈も気付いてながら黙ってたからー。」
「ごめんなさいっ。謝って許される事じゃ無いことも分かってるけどっ。」
「......。」
次々に言われる言葉に私は、黙って聞いていた。一応本心から思っている事も分かっていたからだ。今更私がどうこう言いたい事も特に無かったのでどう答えようか迷っていた。折角誠意を込めて来たのをテキトウに返すのも悪い。
「んー。私はさ、もうその辺り気にしてないんだよね。....いやいやそんな暗い顔しないでよ。というより私が気にする所は特に無いしね。謝罪も感謝も受け取るけど....あんまり考え過ぎると今日何回か有ったみたいだけど死にかけるよ?」
「気付いてたのか!」
「気付いたというか何となく状況を見ながら攻撃できる所にいる訳だし状況把握しながらじゃないと、いつ何が有るか分からないし同時進行で?」
「此処から俺らが見えてたってのか。」
「そんなに見える距離じゃ無いと思うんだけど。」
「美奈、そんな複数に考えるなんて後衛だけど無理だよー。」
「ユリナ、自分で凄い事やってる自覚ないもんなー。」
「えぇ? てか師匠もそっちの立場で話さないで下さいよっ! いつの間に復活してたんですかっ。」
そして私は相変わらず師匠に攻撃し始める。流石に人目があるので腰にある短剣を抜いて刺すようにして何度も攻撃を加えていく。それを腰に携えていた剣の柄で流していく。
幾ばくかやったところで当たらず魔法を使って消耗していた私は疲労感で短剣を持ったままフラッと目眩がして倒れそうになる。それに気付き勇者達は「あっ!」と声を掛けて支えようとするが師匠とのやり合いで頬をひきつらせながら離れていたので間に合う筈もなく地面とぶつかるかもと倒れ始めて冷静に思っていた所でぽすっという音をたてて倒れず済む。
「ったく、無理するからそうなるんだ。自分の体調管理くらいしっかりしとけ。」
「はぃ、ごめんなさい。」
師匠は私を支えたまま置いてあった椅子を足で近くに持ってきて座らせる。座ら、せる.....? 何故師匠の上に私が座っている?
「目眩で椅子から倒れられても困る。落ち着くまでこのままだ。」
「ふえっ! ちょ、そこまでは大丈夫ですってっ! って寝たー! この状況で寝ますか、普通っ! めっちゃしっかり手組んでるし出られんー!!」
「えっと、?」
「!! もうやだ....、泣きたい.....。」
勿論この場には勇者たちがいる。そんな状況で師匠の過保護が出てしまった。冷や汗が止まらない。状況に気付いて顔を覆い泣きたくなる気持ちを押さえながら呟いた私だった。
誤魔化すように手を覆いながら私は話を振るが状況が状況で若干言葉に棘があった。
「それで、話はそれだけ?」
「えっと、うーん。」
何とも歯切れが悪い言い方をしているのでちらりと手の隙間から様子を伺うと視線を泳がせ言うか言わないべきか迷っている様に見えた。
「勿論、桜城さんは嫌だと思うのだけど今回だけ一緒に行動しないかっていう話をしていたの。屁理屈って言えばそうなんだけどあの契約って輝と関わらないって事だけだったでしょ。それに、城での決め事から考えると勝手なことを言ってるのも分かる。けどっ、助けてもらって何だけどその力をあたし達に貸してほしいっ。お願い、今回だけで良いからっ!」
「「お、俺らからも頼むっ!」」
「美奈からもお願いー。」
「.....。」
勇者は何も言わなかったけど確か楠木さんだったかな、その人を始めとして次々に頭を下げる。今度こそ答えに詰まり黙っていると声を上げたのは寝た(ふりをしていたらしい)師匠だった。
「力を貸せね、面白いことを言う。本来俺は関係ないから口を挟むつもりはなかったしユリナの決めた事に従うつもりだった、今回は、な。....でもなぁ、その言葉だけは聞き捨てならねえよ。力が無くて蔑んでいたのは何処のどいつだ? 私達、俺達はそんな事言っていない。そう言うだろうがそうだな、確かに直接は言っていない。だが、心の片隅では思っていた筈だ。何でそんなに弱いんだとか足を引っ張りやがって、とか。」
「そんなことっ!」
「そんなこと、だとっ! はっ、所詮人間なんて自分の負の感情や考えは信じたくないもんだよ。表情に出てんぞ。んでそんな思いは今はもう持っていないです。だから力を貸してくださいーなんてお門違いもいいとこだっ! お前らは、ユリナに対してそんな実力を身に付けたんだから協力は当たり前だ、とか思ってるんじゃ無いだろうなぁ!? 最初から持ち得ている者が、持たざる者に言う台詞かどうか考えたかっ!? あ゛ぁ、最悪だっ。チッ、胸糞わりぃな。」
そう言い切ると気分悪そうに顔を顰めて視線を遠くに飛ばす。もう喋る気は無いようなので私は言葉を続ける。
「言い方はきつかったかもしれないけど、協力する気は無いよ。別に見捨てたとか勝手に思ってもらって構わない。貴方達は本当に悪いと思ってくれてるからそれは素直に受け取っておく。出来ればもう戻ってくれないかな? そして此処には来ないで。」
苦笑い気味に優しく諭すように言うと残念そうな沈痛そうな表情を浮かべながらも師匠の方に視線を向け一礼して戻っていった。
私は戻っていく様子を見ながら勇者らの拠点を眺める。黙っていると何やら慌ただしく動いていたりする様子が聞こえてくる感じさえする。するとそんな静かな環境を配慮してかポツリと声を溢す。
「....すまん。」
「何で師匠が謝るんですか。」
「勝手に色々と言っちまっただろ。流石の俺も少しは反省するさ。」
「フフッ、似合わないです。こっちの調子が狂いますよ。それに何て言うか困っていたから助かりました。あんなに激昂するとは思いませんでしたけど。」
「う゛っ。あれは何て言うか、だな。.....過去に似たことを言われた事が有るんだ。力を貸せってな。そしたら当時一緒にいた奴が怒ってくれたんだ。お前らみたいなのに貸すための力じゃないって。そんな事のために強くなった訳じゃない。ってな。その時を思い出して、つい、な。」
「そうだったんですね、じゃあ私はその人にも感謝しなきゃですね。」
「....いや、彼奴にそんなこと言ったら調子こいて周囲に迷惑かけるから駄目だ。」
「師匠に面倒そうな顔見せるってことは正反対の性格の人ですかね? 早く会ってみたいです。」
「碌でも無いぞ。」
「話してみないと分かりませんよ。」
「.....俺は会いたくねえ。」
思い出して嫌そうな顔を見せる師匠を横目で確認してクスクスと笑う。
「ところで師匠?」
「何だ。何かあったか?」
「何時までこの状態でいるんですか。流石に目眩が収まってるのでそろそろ夜ご飯作って食べましょ?」
「そうだな。あんまり揶揄うのも悪いか。夜襲が来ないとは限らないし準備するか。」
「そう、です、ね? って揶揄う? また私で楽しんでましたねっ! うぅ、酷い。」
「ははっ! 気を強く持て!」
「その言葉を師匠が言いますかっ!!」
フシャーっと猫のように威嚇しても爆笑しながら柳に風と受け流された。
夜襲がくるかもしれないってことだったが夜の間は師匠が起きていて必要なら起こすと言ってくれた事や魔力を大量に消費した事もあり寝てしまった。
気配察知にたまに引っ掛かるのを苛々させながらもベッドを背にして剣を抱えながらボケーっと遠くを眺める。忙しなく動いている勇者らの拠点の修理を見ながら今いる場所の結界を強めていく。
昼間しっかり戦況を見ていれば気付くが、敵は疎らに攻撃してきていたのだ。多分人間の動きが弱まる夜を狙うため消耗させる様な戦いを挑んでいた様に思う。思ったよりその戦果は上がった筈だ。早ければ今日に来ると、
「うわっ、本当に来た。しかも一際強い奴がいるなぁ。彼奴が今回の襲撃の主導者でありボスか? 首謀者の裏の奴は、っと。んー。流石に潜んでやがるか。そうだよなー。」
どうするか。ユリナを起こす選択肢は最初から無いので自分が戦いに行くか迷っていた。おー勇者らの拠点が更に騒がしくなったから魔物の襲来に気付いたみたいだなぁ。昨日に随分発散できたし俺が出張る必要性は無いが、
《戦闘狂を否定されましたが今の表情を見たら否定なんて出来ませんよ。》
「うるせっ。」
《行きますか。》
「付き合ってくれるのかい? 嫌そうな声音だけど。」
《主様が行くのに私が行かぬ選択肢が有りますか。》
「死なれたら目覚め悪いだろうよ。折角だし大暴れして裏の炙り出しでも目的にしながら戦うとしよう。」
《承知しました。》
立ち上がり戦場に行こうとする。するとクンッと後ろに引っ張られる感覚が有り振り返るとユリナが俺の服の裾を引っ張っていた。起きてるのかと思ったが完全に目は瞑ってるし寝息も立ててるため無意識に掴んだという所だろうがそんな上手く掴むかっ。と驚きつつも放す気配が無さそうなので羽織っていたコートを脱ぎユリナの方に軽く投げる。そのコートを更にぎゅっと握っている様子を見ながらバッグからフード付きのローブを羽織い直し魔物の群れに勢いよく繰り出していった。
「嘘つき。」
そう呟かれた声が俺の耳に届く事は無かった。




