31話 魔物の進軍と大規模戦闘1
朝。まだ日は昇っていない薄暗い中、目が覚める。ボーッとした頭で状況を思い出す。寝ぼけていた頭が覚醒しガバッと起き上がり思わず声を出す。
「師匠っ!!」
「....ん? あ゛ぁ?」
足元の方でベッドを背にして剣を抱えて寝ていたらしい師匠が私の大きな声で目が覚め声を上げる。私はベッドから出て眠そうな顔をしている師匠の肩をガシッと掴み激しく揺らしながら文句を言う。
「昨日はどうしてあんなことしたんですかっ! 何処か行ったんですよね!? 何処に行ってたんですか!!?」
「うへぇー、あんまり揺さぶられると吐くー。」
「答えて下さいっ!!」
「揺さぶるのを先ずやめてくれぇー。」
凄い剣幕で肩を揺さぶり続けたので吐きそうな顔をし始めている師匠の様子に気付かなかったので、「エイッ」と頭にチョップを食らうまで続いていた。
「ったく。止めなかったらユリナに向かって吐いてたぞ。」
「す、すみませんー。」
頭を抑えて謝ると冷静になって師匠の顔をじっと見る。
「な、何だよ? 何か付いてるのか?」
「いえ、昨日に比べて大分顔色良くなってますしちゃんと寝ていたのかなぁって思って。」
「現にさっきまで此処で寝てたの見たじゃねえか。」
「だったら私の事寝かす意味有りました?」
「あんなにじっと視線を受けながら寝れるかよ。」
「確かに?」
師匠は立ち上がり剣を腰にさすと大きく伸びをして欠伸をする。私も立ち上がり体を動かす。まだ薄暗いけど師匠は早朝に襲撃が来ると言った。時間にするとそろそろの筈だ。
「準備は良いか?」
「勿論、準備万端です。」
「そんじゃあ、修行を始めますか。」
「よろしくお願いします。」
空が白み始める。その様子をその場に立ったまま眺めていた私達は次に騒がしくなり敵襲を伝える鐘の音を聞く。甲高い音を鳴らすそれを聞き師匠と目を合わせ戦場にゆったりとされど堂々とした立ち振舞いで向かっていった。
「こんなに離れたところに来てどうするんですか。」
勇者らが築いた防壁やらを備えた場所より遠く離れた場所に移動した師匠に聞く。その勇者らのほぼ正面から大量の魔物が押し寄せているのが此処からも確認できる。
「一日で終わらせる戦いじゃないからな。それに魔法をバンバン打ってもらうのに近くに人いたら不味いだろ? だから此処から敵を狙撃して倒す。要は魔法の精度と発動速度を上げようぜってとこだ。此処を俺らは拠点にしてユリナは基本的に魔法を使いまくれ。俺が飯の用意でもしとくから。」
「てっきり師匠は前線にでも立つかと思ってました。」
「サークレルトの話から俺の事、戦闘狂か何か勘違いしてねえか。別に戦闘中に笑ってなんかねえんだが。見間違いだろ、どうせ。」
「大抵、本人には自覚無いもんですよ。自覚有ったら有ったで恐いですし。」
そんな事をのんびり話しながらも魔物はどんどんと押し寄せている。魔物は物量で一気に押すつもりなのだろうか。昨日周到に用意した罠などの類いも万全だし直ぐに作れるだろうから物量は意味が無いのでは無いだろうか。と思ってボケーッと眺めていると私の目線の直線上に魔物が到達し始めた。
「さて、ボケッとするのも此処までだ。兎に角自分の限界まで魔法を打つ。俺がいるから直ぐ回復できるし倒れることは無いだろう。で、ただ打つんじゃなくて一発で敵を倒せたらって言うのが一応理想的だったりする。別に無理はしなくて良いけどな、あくまで理想だし。心臓もしくは脳天をぶち抜くか首を跳ねるか、っていう選択肢嫌だろ?」
「首跳ねは迷宮でやってますしこれだけ遠ければそもそも当てられるかが心配ですね。空気抵抗減らすのに槍とかの細長い形をイメージした方が良いかな。」
「そういえば迷宮で首切り落としてたな。まあまあ、修行なんで気楽に強くなっていこうか。」
「それじゃあやりますね~。」
魔王騒動とかの大事なのに緩い感じで進むことに関してお互い気にせずに締まりのない戦闘が始まる。
先ずは概形をイメージする。そうして、具体的にイメージが固まった所で水の槍を複数、形作る。前は一個しか作れなかっただろう水の造形魔法([青]魔法で色々な形を作って攻撃するので自分で名付けた)もイルカを作って泳がせる様にするのを影ながら練習していたら[青]魔法が大分発動が早くなったり、イメージが割りと弱めでも作れるようになっていたり、魔力操作のレベルが上がって効率良く使える様になったりと色々な経験を経て上達していた。作ったものの届くかなという不安も有ったがそういう不安から操作がぶれたり上手くいかない事も有るので届くっと思って複数の水の槍を一気に飛ばした。
すると幾つかの魔物に当てることが出来たが一撃で仕留める事が出来なかった。生憎と此方は気配遮断全開、且つ師匠は結界を張ったそうなので仲間がダメージを食らって驚きながらも私を探すためキョロキョロとさせているが見つかる筈がない。そんな優位な状況にいる中でどんどんと水の槍を作っては打ち出し敵に当てていく。最初こそ割りとテキトウに打ち出していたが元々のコンセプトが狙いを定めて精度を上げるという目的も有るので一本づつ作り狙いを定めて打ち始めた。
次第に敵の急所に当たり始めるのでどんどん数を増やして当てていく。それにしても数が多いなあ。なんか近付いてくる魔物が察知されるけど、7000以上いる気がする。首を傾げながらも魔法を打ち続ける。今は片手間に、だけど。
「師匠、何か私の察知で数が凄いことになってるんですけど。」
「やっと気付いたか? 今回敵の数、7000何かじゃねえぞ。もっと多い。」
「やっぱりそうなんですか、エイッ! 作戦大丈夫ですかね?」
「さあ? ピンチなったら助けにでも行くか? チッ、此方にテキトーに向かってくるやついるな。散れっ!」
「うわぁ、酷い、食事中に近くで見て良い光景じゃ無いですよ。もうちょっと穏便にやってほしいです。というか普通私にやらせるもんじゃないですか。」
「食事の邪魔は許さん。」
魔法を打って割りと血が出てたりするグロい光景が広がってる中、師匠と私は気にせず食べたり話したりしていた。それにしても此方は長期決戦を望み彼方は短期決戦を、とやってるけど明らかに、
「ごちそうさまでした。これ押し負けそうな気がします。」
「そうだな。サークレルトがどうにかすんだろ。」
「.....。」
「何だ? じっと見て。」
「師匠ちゃんと作戦聞いて了承してませんでした? なんか狙ったというか、わざとというか。」
「んな事どうやって俺がやるんだよ。いざとなったら俺が切ってくれば良いし勇者目立たせるとか籠城戦みたいな作戦なんてどうでも良いわ。」
「うわぁ、一番言っちゃいけないこと言っちゃったよ。」
そう言いながらも魔法を打っている私。正確性と発動速度が上達して今はこの通り話しながらも出来ている。折角だし[白]魔法も試してみようかな。光だからイメージが難しいんだよね。普通にゲームとか漫画とかで良く見てる光の槍みたいなのなら作れるかな。[青]魔法は一旦中断してやってみるか。とは言っても難しいなあ。師匠に聞いてみようかなと後ろを見る。寝、て、る。妙に静かになったからおかしいと思ったけど普通寝るかっ。まあ、イメージはそれぞれだし続けるか。再び前に向き直り回復魔法以外の[白]魔法を試していく。
―勇者サイド―
「くそっ、こんなに数が多いとは。陣形を崩さず有利な地形を保ちながら敵を倒すぞっ!」
そう声を張り上げる輝。それに声を上げ答える同じクラスメイト。それぞれ4~5人一組でパーティーを組んでいる。今は輝達のパーティーと他2つのパーティーが前線を凌いでいる。
輝のパーティーメンバーは輝を含めて5人。勇者:天野輝、魔剣士:林一樹、魔術師:春山広大と洛南美奈、治癒師:楠木千晴。輝の幼馴染みで組まれたメンバーだ。このパーティー内だけでも前衛、後衛に別れて他のパーティーよりも成果を上げている。
戦闘を開始してからどれくらい立っただろうか。数十分、数時間? 実際はまだ30分程しか立っていない戦場で今まで平和な日本で生きていた彼等にとっては魔物を切るというのも迷宮で何回か経験したことであっても慣れないことだ。だからこそ迷宮でノトが氷の礫で敵を撃ち抜くという方法に呆気にとられ血が大量に出ている事もあり気分が悪くなってしまったのだ。殺気を向けられて恐怖を知った、そして圧倒的な強さ。今の自分達では一切手の届かない領域。その弟子となった百合奈もまた勇者を凌ぐ、いやそれ以上の力を身に付けていて誰も彼女に対して虐めることが出来ないし黙認していた者にとっては声を掛けることすら出来なかった。
「俺達も沢山訓練すれば桜城さんに追い付けるよ。」そう言う勇者である輝の言葉を信じて頑張る事にしたものの、
「っ! またかっ!」
たまに横槍が入るのだ。比喩では無く本当に槍が。魔力で作られたそれは敵を撃ち抜くとスーっと消えていく。最初は少しだけで致命傷を与えるだけだったのにも関わらず今は敵を一撃で沈めているし飛んでくる数も多くなっていっている。水の槍が止むと次は白く輝く槍が正しく光で作られたであろう槍が飛んできて、これも敵を撃ち倒していく。そんな様子に呆気にとられている暇も無いが、誰も彼もその威力や正確性に横目で見つつあまり身が入っていない状態で戦闘をしていたのだった。戦闘している者は誰が打っているか分かっている。だからこそ何も言えず自分達よりも圧倒的な力に頭を押さえつけられているような感覚すら感じている。そんな状態で戦闘をしていれば綻びが生じるというのもの。
「輝っ! あぶねぇぞっ!」
「っ! 助かったっ、ありがとう、広大!」
「輝っ、集中しろっ!」
「一樹! 悪いっ!」
「美奈も気になるけど今は目の前に集中すべきだよー。」
「あたしも美奈の意見に賛成、よっ!」
「美奈、千晴。そうだなっ、目の前の状況が最優先だった! 行くぞっ!」
「「「「おう!」」」」
そうして輝のパーティーは気を引き締め直し再び成果を上げていった。
「どうしてあんなにポジティブでいられるのかなあ。」
「あの女のこと構いすぎ。あんな女の何が何処が良いのよ。」
「そうね、それよりもあの女が一緒にいる男の方がヤバイわよ。何であんなのが平然といる訳?」
「そうよっ。何で、何で”魔眼”を持つ男が平然といるのよ。どう見たってあれはっ。」
「駄目。言ったら何が起こるか分からない。今回あの男も来てるんだから。」
「授業の時と変わりすぎでしょっ。あの男の本性は何なのよっ。」
そう言い合いながら後方支援をする魔術師4人。かつて夜中にのうのうと生きて戻って来た百合奈を虐めてやろうと画策したがあっさりとノトにバレて存在ごと消される危機を間一髪、散々虐めてきた百合奈に救われた、日本で百合奈を陰湿に苛めていた女4人のパーティー。本当は魔術師しかいないので前衛となるものが入る、もしくは彼女らはバラけるはずだったが百合奈が生きていた事、彼女の強さを見て虐めを黙認していた全てのクラスメイトが同じパーティーになるのをうやむやにしながら拒み魔術師だけという偏ったパーティーになっていた。
それぞれ梁間明日香、日野春佳、多賀鳴子、麓風子。ギャルっぽい見た目で高校生にしてメイクをして髪も染めている。高校がそういう所では無いのだが彼女ら曰く高校デビューと言って今までと見た目を大きく変えた。但し百合奈程では無いが成績はそれなりに良いところにいるので文句も強くは言えないといった事がある。勇者である輝の事が好きな明日香は輝が百合奈に近付くことを憎たらしげに見つめ仲の良い4人で輝と百合奈の中を裂こうと虐めに至ったという経緯があり此方の世界でも散々虐めてやって、とうとういなくなったから失踪して死んだかと思っていた。それを喜び嘲笑したというのに、ものの一週間もしない内にけろっとした顔だった上、元気な状態で戻ってきた事に驚いた。
しかも輝に気にかけてもらってるのにも関わらず邪険に扱い、更には特別な講義で来たイケメンな先生と仲良くしていることに腹立たしくなっていき自分達の中の負の感情が大きくなっている事に気付かず手を出しては行けない相手と露知らず裏で準備を進めていた。その用意周到に思えた準備もあっさりと見破られ迷宮で見た以上の力の差を感じ言葉も発せず腰を抜かすという失態を起こした。何故か騒ぎになっておらず馬車での移動の時に百合奈と視線が合ったのに視線を逸らされ特に何も言ってこなかった上、誰も夜の騒動を話すものはおらずノトが一切外部に漏らしていないことも知った。
自分達より圧倒的というのが納得いかず今も横槍が一瞬で魔物を倒している様子を見てどす黒い感情が蠢き始めている事に気付かず魔物を倒している。そしてそんな彼女らは若さ故なのか、はたまた、このどす黒い感情故か犯してはいけない、踏み込んではいけない一線を踏み抜き、踏み越え人生真っ逆さまに落ちていった。
主要として関わる(かもしれない)人達だけ名前の登場。
今後は、未定ですが勇者パーティーに関しては次話少し関わります。




