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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第3章
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29話 魔物の襲撃と自分の弱さ


 2日目の朝。何やら良い匂いが漂う中、私は目が覚めた。暫く目を開けたまま白み始めた空をボーッと眺める。そしてもう一度鼻に漂ってきた匂いに気付き素早く起き上がると欠伸をしながら朝御飯を作る師匠の姿が有った。私が慌てて動き始めたせいかその物音で気付いた師匠が肩越しに振り返ってきた。



「よっ、起きた様だな。もう少し位寝てても大丈夫だったぞ?」


「お、おはようございますっ。変わりますよっ!」


「あぁ? 別に気にすんな。一日寝てない位で倒れやしねえし。」


「いえ、師匠がそんなに真面目に家事をしていたら、良いお天気なのに今日は大雨が降りますっ。」


「おい、起きて早々失礼な事言うな。気を使ってやればその反応とは。.....真っ暗の中に置き去りにすんぞ。」


「ひぇっ。それだけでは勘弁してください。」



 ベッドから出て伸びをしているとベッドをしまい机とテーブルを再び取り出す師匠。そして朝食を終え支度をして勇者らがいる場所へ向かって歩いて行くと彼らはまだご飯を食べていたので待つことになった。いつの間にか師匠は騎士団長のサークレルトさんと話していてガッツポーズを見せるほど何やら喜んでいる様だ。



「ユリナ、やったぞ!」


「何がです?」


「馬車は一番後ろで俺らだけで使って良いって言われたぜ。ゆっくり出来そうだ!」


「おぉ、良いですね。確かにゆっくり出来そうです。」


「俺は先に乗っておくけどユリナはどうする?」


「私も特にやること無いですし乗って待ってます。折角だし何か本でも読んでおきます。」



 そう言いながら最後尾になる馬車に乗り込む。対面式なのでそれぞれ座るかと思っていたけどどうしても進行方向を向いた形で座りたい私と師匠は同じ向きで座席に座っていた。まだ発進はしないが私のページを捲る音のみが聞こえてくる静かな環境なので気付かなかった。急に肩に重みが来て本から目を離すと師匠が足と手を組んだ状態で寝ていて頭が私の方に倒れてきていた。最初こそ驚いたが気にする事でも無いので肩に程よい重さを感じ、規則正しい寝息が聞こえる静かな環境で私は再び本を繰り始めた。


 暫くその状態が続いていると不意に外から声が掛けられ進み始めるとの事だった。「分かりました、お願いします。」と声を掛けると最初は緩やかに段々とスピードを上げ爆走していた。ガタガタと揺れているのにも関わらずぶれずに寝ている師匠に感嘆(?)しつつ読んでいた本を閉じ外の景色を眺める。流石にこれだけ揺れている中で本を読めば酔うので止めたのだ。


 何事もなく2日目の進行は終わり今日も師匠に野宿の準備や夜ご飯を作ってもらいながらいると、辺りには夜の帳が降りる。











「何だ? 奴等の縄張り圏内でも入ったか? まだ距離は有った筈だが。」


 そう呟きながら昨日と同じく木の枝に腰掛け幹に預けていた体を起こす。チラッと下を見るとユリナは寝ていた。そりゃあ結界張っているのは俺だし此処だけの空間にもランプの設置という方法で魔方陣を描き密かに結界を張ってあるから気付かないよな。それに慣れない馬車での移動で疲労しているはずだろうし。


 すたっと物音を立てずに降りて武器を”召喚”する。やっぱり敵を倒すなら業物でスパッと殺った方が楽だしな。一本の黒剣を携え俺と同じく騒動に気付いて対処しようとしているサークレルトの元に歩いていった。



「よっ、気付いたか?」


「何故、ノトさんはいつも軽いんですか? 少しは緊張感を持ってくださいよ。」


「雑魚だし余裕かなーって。サークレルトよ、肩の力を少し抜くと良い。」


「ノトさんが肩の力とやらを抜きすぎなんですよ。それにその黒剣出してきましたか。」


「おう、爽快に殺ってやろうと思ってな。」


「被害増やさないで下さいね。ところで彼女は大丈夫なんですか?」


「当たり前だ。俺に抜かりはない。.....うだうだ話をしてる暇も無いだろうし、行くとしよう。」



 他の騎士達にこの場の守りを任せ騒がしい場所へ向かってサークレルトと歩いて行く。俺は黒剣を肩に担ぎもう片方の指の先で火の魔術を使い灯しながら、サークレルトは少し緊張した表情をしつつも冷静さを見せながら。遂に目的地に着くとそこには数百の魔物の群れが結界に気付き近寄れずにいたようだった。此方が近づいてくるのを見ると歓喜の声を上げ殺気を振り撒いてくる魔物達。俺はそれを浴び、つい洩れてしまった。何を? そりゃあ誰もが示す反応に決まってるだろう?



「ハハハ、アッハッハッハッハー。」


「ノト、さん?」


「サークレルト、手を出すなよ? 久し振りに大暴れしたくなったからよ。」


「っ、分かりました。くれぐれも被害は少なくして下さいね。」


「善処しよう。」



 そう言って俺は素早く魔物との敵を詰めて斬りかかる。複数の敵の首を一気に跳ねると、数秒後に首から大量の血が吹き上がる。その様子で魔物が怒り、更に殺気を振り撒いてくる。一部吹き出た血が俺の顔に付いたがそんな事をお構い無しに次々と接近し一発で首を跳ねていく。その度に魔物から吹き出る大量の血を周囲に撒き散らしながら数百の魔物を数十秒で蹂躙し終える。



「はぁぁ、めっちゃ満足したぁ。久し振りに体を思いっきり動かすのも悪くねえなぁ。」



 そう言いながら首が無い胴体だけの死体の山を築いた俺は再び剣を肩に担ぎながら腰掛け夜空を見上げていた。少し黄昏ていた俺にサークレルトは少しばかり頬をひきつらせて声を掛けてきた。



「あんなに笑顔で敵を倒すのノトさん位ですよ? 返り血も凄い浴びていても気にせず戦い続けてますし。もう少し自分の状態を気にしながら戦いましょうよ。」


「あー、そうだな。自分の体調を考えると倒すの結構時間かかったしもう少し良い殺り方が有ったかもしれないな。俺もまだまだという事だな。」


「そういう意味では無いのですが。取り敢えずまだ朝までは時間ありますし自分の体裁を整えて下さいね?」


「もう少し余韻に浸ってからにするから先に戻って騎士共に報告してこい。」


「余韻って、はぁ、分かりました。それではまた早朝に。」



 踵を返し拠点としている場所に戻っていくサークレルトの後ろ姿を見てからもう一度上を見上げ夜空を眺める。



《……大丈夫ですか。》


「おう、多分な。なぁ、そろそろだっけか?」


《いえ、予定より大分早いですが触発されたのでしょう。その様子ですとそろそろかと思われます。どうするおつもりですか。》


「どうもこうも無いだろ。何とか誤魔化して隠れて暴走させりゃ良いだろ。今回は打ってつけの状況だ。ばれなきゃ問題ねえよ。その為に今回数年ぶりにお前を”召喚”させたんだぞ? ちゃんと役割果たしてくれよ?」


《お任せください。私は、主様(マスター)の為にいますから。》


「ったく、重いんだよ。まあ今回ばかりは頼りにしてるわ。」



 この場にいるのは黒剣を携えた俺だけ。森を響く声も俺一人だけ。溜め息を吐きながら先程サークレルトより指摘された返り血を取り除き黒剣を鞘にいれ他のところに燃え移らない様に死体を焼却処分してからユリナがいる場所に静かに戻っていった。


 そんな2日目の夜も過ぎ3日目の朝を迎える。



「おはようございます。今日は早く起きれたので朝ご飯作りますね? ………師匠、大丈夫ですか? 顔色が良くないですよ。」


「大丈夫だが、ユリナから見てそんなに体調悪そうに見えるか?」


「? いつもと比べると顔色良くない様には見えますけど。どうかしたんですか。」


「.....実は、......いや、何でも無い。悪いが少しだけ席を外す。」



 ふらふらと立ち上がりながら遠くの方へ歩いて行く様子を心配そうに眺めるユリナの視線を受けながら大分離れた所で俺はドサッと座り込み咳き込む。その際、口を抑えた手には真っ赤な血が付いていた。俺はそれを虚ろな目で眺めていた。



「はぁ、しんどいなぁ。こんなに辛かったっけ。」


《……堪えられますか。無理なら魔力を吸わせた方が。》


「流石に今は出来ねえだろ。確かにこの辛さからは解放出来るけど時間が掛かりすぎるし良くないもん見せちまうだろ。それに今日到着で明日から戦闘始めるんだろ? 今日の夜にでもまた狩りに行くか。」


《………。》


「黙るなよ。ハハッ、一人だったらこんなに気を遣ったりして苦労すること無いんだけどなぁ。今は簡単に俺の意識は手放せねえな。」



 虚ろな目のまま後ろにある木に背中を預け手も足も力が入らない状態なのでだらけていた。俺のいつもを見てたら驚かれるだろう、今の弱った自分。最近魔物が活発化しているせいで俺の中の力が暴走気味になっている。それを無理に抑えるせいで表面上に症状が出てしまう。しかし抑えなければ俺は自我を失い敵味方関係なく襲い、暴走する化け物になってしまう。それだけは避けなければならない。だから昨日の夜の様に力を発散させるのだが数が少ないし弱い魔物じゃ俺の力は満足してくれない。もっと狩れば落ち着く筈だが一度戦闘モードに入り敵を殺した快感から力が強く訴える。早く、もっと、と。深く溜め息を吐く。


 どれくらいの時間そうしていただろうか。たった数分、いや数十秒といった時間だったかもしれない。無理に中の力を抑えているせいで全身の力が入らない状況だったため何度も吐血しながらいるとガサガサと音を立てて近付いてくる気配を感じ取った。少し察知が揺らいで気付くのが遅くなっていた。近付いて来てるのは人なので戦闘にはならないがこの状況を見られたく無いため立ち上がろうとする。しかし、体が言うことを聞かない。そうこうしている内に迷わずやってきたユリナがガサッっと音を鳴らしながら顔を見せ、俺に気付くと顔を青ざめて駆け寄ってくる。



「師匠っ!!? やっぱり全然大丈夫じゃないですかっ!」


「そうだな、この状況で全快とは言い難いな。そんな不安そうな顔するな。死ぬ訳じゃねえから。」


「でも、血が、」


「ちょっと血を吐いたくらいで死にやしねえって。....? どうし、た.....っ! おい、何故泣くっ。」


「へ? .......!! いえ、これは、そのー、」


「ハハハ。そんなに心配させたか。」



 涙を流し始めたユリナはしどろもどろに弁解しようとして溢れてくる涙を拭いながらも、ポロポロと止まらない様子に俺は動揺するも心配を掛けすぎた事に反省する。また一人に戻るのは辛いしな。



「ごめんな、ユリナ。今はどうしてこうなってるのか詳しくは言えないが俺はまだ死なねえから安心しろ。それとも俺が信じられねえか?」



 力が入らないが頑張っていつもの悪戯っぽい笑みを作り笑って見せる。大分顔が引き攣っていただろうが、その表情を今だ涙を流しながら見ていたユリナは首を何度も振りゆっくりと答える。



「いえ、信用も信頼もしてます.....私は必要で過去を話しましたけど全部じゃ無いですし別に無理して話さなくても良いんです。整理がついたらで構いません、ゆっくり話してくれれば良いんです。それに楽しければ、ですよね? ....だから楽しくない感情を持たせて、私を苦しませないで下さい、ね。」



 言外に「死ぬな。」と言われた様なものだろう。それにゆっくり話せなんて前に俺がユリナに向けて言った言葉じゃないか。人にそんな風に思われるなんて久方ぶりだ。ユリナとはそんなに長い時間を過ごした訳でも無いのにそう思われる程だったか。基本的に自分の都合ばっかり考えている俺とは大違いだ。少し周りも見てやらなきゃいけないみたいだ。あぁ、面倒だが....何故だか気持ちが温かい。俺は笑みを浮かべるとユリナはバッと視線を逸らす。その行動の意味が分からず疑問符を浮かべていると大分力の奔流が落ち着き動けそうなので立ち上がろうとする。するとユリナも慌てて立ち上がり真っ赤な顔を見せながらも俺を支えようとしてくれるので少し寄り掛かりながら歩く。



「ありがとな。」


「? .....何か言いましたか?」


「いーや、何でも無いよ。」








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