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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第2章
27/103

26話 自分の実力と大切なモノ



「漸く逃げずに決闘する気になったんだな! 覚悟しろ。」


「いや、俺は戦わないし。この前実力見せただろうが。それでもやんのかよ、めんどくせえ。」


「完全に目的間違ってますね。そんな虚ろな目で私に訴えないで下さいよ、殺すのは駄目です。」



 何故か勇者達とそんな話をしている私達は凄く疲れきった表情で対応していた。虚ろというか最早死んだ魚の目をしている師匠が今にも何かをしようとして動きそうなのでそれを阻止しながらこの状況になった経緯を思い出す。



 昨日は、何だかんだで割りとハードだった訓練をしてどうにか形になってきた護身の為の剣術もそこそこに明日こそは迷宮に行くことを話していた。そして、朝を迎えたが師匠はまだ寝ていた。起こすのも悪いけど早めに行くことを決めていたので渋々起こすと文句を言いつつも器用なことに目を瞑ったまま動き始めた。朝食を食べ終わる頃には完全に目を開けていたので出発しようと思って城を出た。いや、出ようとする寸前で勇者一人で迷宮へと行かせない様にと立っていた。無視する事も出来たが何かこれ以上付きまとわられるのも我慢の限界だったので私が勝ったら関わらない事を約束させて模擬戦をすることになった。負けたら? 師匠曰くそんな可能性微塵も無いそうなので戻ってこいという約束は果たされないだろう。と言っていた。私としては少し不安なんだけど。


 そんな経緯があり、訓練場に移動すると訓練していたクラスメイト達がどよめき一斉に場所を開けていった。何故か、私を苛めてきた女子は見当たらないのだがそれ以外の人は揃っている様だった。得物は怪我が無いようにと木製の物を取ろうとしていた勇者に私は別に”聖剣”でも構わない事を伝えて私も自分の杖を使う事で相手がダウン若しくは降参で終了というルールを定めて始めるという段階で何故か勇者は、城にいるときの格好になっている師匠を見て冒頭の台詞を言ったのだった。本当に分かっているのか。約束を反故されたらたまったもんじゃ無いんだけど。



「約束破られちゃ困るから”制約”でもやるか?」


「何ですか、それ?」


「簡単に言うと約束を絶対守らなければいけなくなるってのと破ろうとしたら身の破滅を導くっていう。」


「それ設定? って言うんですかね、甘いと私も死ぬかもしれないじゃないですか?」


「そうでもしないと、この勇者君何するか分からん。」


「俺はそんなことしないっ。」


「皆その時はそう言うんだよ。実際になると覚えてないとか、知らないとか、ふざけたことぬかす奴を何人も見てきたよ。」


「うーん。何かしらあった方が良いとは思いますけど、もうちょい緩いの無いですか?」



 そう言うと悩んだ表情を見せたあと何かを思い出したかの様にバッグをごそごそとして一枚の紙と羽ペンを取り出した。



「契約書~。これだったら事実残るだけで制約ほど縛られなーい。そしてこの紙は凄く丈夫で劣化しない。契約がされた瞬間、複製されるしこれなら死ぬ危険は全く無し!」


「それなら良いですね、書きましょう。勇者.......天野君も良いよね?」


「うん、桜城さんが良いなら良いよ。」


「よし、んじゃ内容は、っと。」



 さらさらと書いているのを横から覗きこんで見て、自分の都合が良くなる条件をしれっと付けているのを呆れた表情で見ながらも黙っていた。



『契約書』


①敗者は勝者の条件に従う

②桜城百合奈が勝者の場合、天野輝は金輪際絡んでこないこと

③天野輝が勝者の場合、桜城百合奈は天野輝らと行動を共にすること



④勝敗に関わらず天野輝はノトに関わらない事。この制約を違えれば殺す。



 と④だけ凄く小さく書いていて時間が惜しいと捲し立てて中を大して確認させず、勇者に強引にサインをさせた。私は何とも言えない表情でその様子を見ながら自分の名前を書いていく。その瞬間契約書の紙が光り2枚になる。その瞬間書かれていた内容は消えていて唯の紙になっていた。



「白紙だがちゃんと効力はある。さて内容を再確認しようか。」



 そう言いながらそれぞれ紙を丸めて私と勇者に手渡す。受け取りながらその説明を聞く。



「勝者には従うこと。ユリナが勝った場合は関わらない事。勇者君が勝てばユリナはそちらに戻ること、」


「分かっている。」


「おい、まだ話してる途中だ。」


「何を言ってる? それだけだろう。」


「これを悪徳商法って言った気がする。」


「どういうことだ、桜城さんは知っているのか?」


「見てたし知ってるよ。下の方に勝敗に関わらず師匠に関わるな、破れば命は無いって書いてあった。」


「なっ!? 聞いてないぞっ!」


「言ってないし。ちゃんと読まない勇者君が悪いんだろう?」



 悪どい笑みを浮かべてそんな事を言う師匠。”制約”よりも恐ろしいのでは無いのだろうか。そういうのって引っ掛ける方は犯罪とかだった気がする。あくまで日本の話でこっちの世界じゃ関係無いんだろうけど。



「文句あるならユリナが勝った後にたっぷり聞いてやるよ。但し相当鬱憤たまってるからうっかり死ぬかもしれないけどその辺了承の上受けてくれるなら今日くらいは聞いてあげよう。ああ、そういえばその契約書にサインしちゃったし関われなくなるね。いやー残念だねー、はっはっは。」


「凄い楽しそうですね。それに〝勝った後〟って、既に確定事項ですか。まあさっさと終わらせて迷宮にでも行きましょうか。予定大分狂ってますしね。」



 持っていた杖で肩をとんとんと叩きながら話をする。(ユリナ自身も勝ちを確信している発言という事には気付いていない。)そんな様子を眉をひそめつつもしっかり見てくる勇者を他所に訓練場の中央に向かっていく。そういえばと思い出し、立ち止まり小声で師匠に確認を取る。



「魔法は使用しない方が良いですよね?」


「そんな事しても勝てるなら良いんじゃねえの? 使ったとしてもばれなきゃ大丈夫だろ。」


「....了解です。」



 訓練場なのにギャラリーが有るがクラスメイトや指導をしている騎士や魔術師達は邪魔にならないよう端っこに寄っていっただけだったが師匠は気にせず上の方に跳んでいった。しれっと魔法を発動させていたけど端から見たら唯の跳躍で届いた様に見えただろうからざわついている。勿論そんなざわつきも一切聞こえてない様子だけど。


 一応審判として騎士の一人が付くそうで、それに頷いて了承しつつ勇者と適当な距離が空いたところで一礼する。特にそうするという形式が有るわけでは無いが何となく動いていた。その様子を見て慌てて勇者も礼を返す。何か顔が赤いけど大丈夫だろうか。まあ喧嘩を売ってきたのはあっちだし気にしなくていいか。



「さくっと勝たせてもらいます。」


「始めっ。」



 私が不敵に笑いながらそう呟いた直後に開始の合図がされた。というかいつのまにか勇者の武器が訓練用の木剣になってた。私が師匠に魔法の確認をちょっとしている間に変えたのだろうか。


 そして、定石と言えば定石で遠距離攻撃が得意な”魔術師”だと思われてる私に開始と同時に距離を詰めてくる。私は杖を構え直し横凪ぎに打ってきた剣を受け止める。それに一瞬動揺を見せた勇者は直ぐに取り繕い一瞬で後ろに下がり距離を取ると低い姿勢になり私の後ろにぐるっと素早い動作で回り込み剣の切っ先を突き出してくる。殺気は感じないし急所狙ってきてないしでやる気あるのか微妙だったけどそこそこ打ち込んでくる。私は冷静に体を捻る事だけで回避する。うーん、何て言うか遅い。全力じゃないかもしれないけど剣筋や動きがよく見える。以前訓練を見ていた時は早くて戦いにもならないと思っていたけどこれはちょっと予想外というか自分が強くなったと実感できる。そんな事を考える余裕が有りながら勇者から繰り出される攻撃の数々に避けたり、時には杖でガードをしていたので端からは防戦一方と思われているみたいだ。冷静に考えればあの勇者の動きに完璧に対応できていると見るべきだと思うのだが。騎士や魔術師はあり得ないといった表情を浮かべているのが見えたので本質が分かっているのだろう。そんな防戦をしてると勇者は大きく後ろに下がる。



「本当は桜城さんとはこんなことしたく無いんだけど戻って来るためだ。俺は出来うる限り全力を尽くそう!」


「......。」


「どうしたんだい?」


「戦いの最中に喋るなんて論外。それに模擬戦とはいえ、敵に対して甘ったれてるようじゃ私には勝てない。」


「それは、どういう....」



 私は離れていた距離を一瞬で詰めて持っていた杖の先端を勇者の腹めがけて突き出す。まさか”魔術師”の私がそんな行動をすると思っていなかったのか対応が若干遅れた勇者は回避行動が取れず咄嗟に剣でガードをしたが私の目的は杖での攻撃では無く、



「『水よ、雨となって、降り注げ』っ!!」



 もう片方の手を体の影に隠しつつ魔方陣を展開させていたので詠唱をして魔術を発動させ自分達の頭上に雨を降り注がせる。但しただの雨では無く豪雨の様に打ち付けたので雨の威力は言わずもがな。急激な雨に驚き立ち止まっていた勇者に私は一切視線を逸らすこと無く豪雨でギャラリーから此方の状況が見えない状況を作ったので魔法を発動。技名は封印したので勿論無言だが派手なのも使えないと思い水の球体を作り雷を纏わせ打ち出し私は豪雨が今も降り注ぐ場所から素早く退避する。その瞬間バチバチっと凄まじい音を立てる。



「流石にやり過ぎた、かな?」



 と中から特に反応が無いので退避した体勢、膝立ち状態のまま呟き、冷や汗を流しつつちらりと師匠の方を見ると親指を立てていた。やり過ぎじゃないのかという心配を伝えるのに今だバチバチをしている場所をちらっと見てから師匠に視線を戻すと何故か口を抑えて笑いを堪えていたので私は立ち上がって疑問のまま豪雨が止んだ場所を見る。見えてしまった光景に私もつい笑いそうになったが何とか耐える。


 流石に微弱とはいえ雷を流したのだ。ステータスが全て同じ値を示していて攻撃並みに防御も高いので決定打にならず次はどういった策を弄するかを考えていたが段々と見えてきた勇者の姿は既にボロボロで立っているのもやっとの様だった。しかもギャグ漫画かと思うような髪の毛がアフロっぽい感じになっていた。ちょっと黒焦げにもなっているし。威力そんなになかった筈なのにおかしいな。



「えっと、まだやる?」



 そう言って一応審判の方もみやると審判も唖然として固まっていた。そんな事よりここからどうするか早く決めてほしい。じっと見ていると我に返った審判が勇者の方に近付いていった。まだ立ってるし一応はこちらを見てきてはいるので生きてるし威力は高くないはずだから大丈夫だと思うんだけど。


 そんな考えを巡らせつつ眺めていると審判が私の方を見て首を振る。凄く悲痛そうな困惑してるような表情を浮かべているけどどういう意味なんだろう。首を傾げるとその答えは審判からでは無く横から掛けられた声が答えとなった。



「模擬戦が続行不可能って事だよ、一手でやられてる様じゃまだまだって事だな。」


「師匠、いつの間にっ!?」


「いや、今降りてきたけど。それに終わったし迷宮の方でも行くぞ。」


「ん、はい。そうですね。」



 一応私は「お大事に~。」と声を掛けて頭を下げてから訓練場を出た。これで付きまとわれる事も無くなるだろうし他の人にも実力を見せられた。良い結果と言えるだろう。何やらざわざわと言ってるがそんなに気にする事でも無いのでスルーする事にした。段々この辺が師匠に似てきている気がしないでも無いけど受け止めすぎも良くない事を分かっているので少し肩の力を抜いてテキトウに過ごすことにした。元々楽しく無理せずやろうと言われてるし。



 そのままの足で迷宮方面に歩いていく。いつもの様相に戻って肩を軽く回しながら疲れきった表情の師匠と話を交わす。



「それにしても本当にあれで終わりだったんですか?」


「うわー。おっそろしい事言うなあ。」


「むっ、どういう事ですか。私は持てる最善の手を尽くしたのに。それにまだ一手しか打ってないですよ。」


「その最善が勇者を殺したかもしれないのにか?」


「え?」


「微弱とはいえ雷だぞ? しかも水が有るところで人間相手に使うとか。恐ろしいとしか言いようが無いだろう?」


「えー? 威力なんてたかが知れてますし勇者のステータスなら大丈夫だと思ったんですけど。最後に見た時から成長していると考えれば普通に耐えて次の攻撃してくると一応身構えてたんですよ。そしたら何か終わってましたし、んー。」



 何でだろうと俯きがちに頭を捻って考えていると師匠は苦笑いを浮かべた。すると急に頭を撫でて来たので吃驚して体をビクッと反応させながら視線を向けると優しく微笑んでいる師匠が話掛ける。



「気持ちは晴れたか?」


「っ。」


「その様子だとまだ何か突っ掛かってる事が有りそうだな。何に対してかは別に聞く気は無いしまだ整理できていないこともあるだろう。が、心残りが有れば力になってやるから直ぐに言えよ?」


「……何で急にそんなこと言うんですか。」



 そんな優しい言葉に不意打ちを食らった私は顔を真っ赤にさせながらそっぽを向いて聞くと



「何だ、まだ悩んでる様な顔してることに気付いてないのか? 別に急にでも無いだろ。ユリナが悩んでると今後の修行にも支障が出るし何より雰囲気が暗くなる気がすんだよ。俺は息苦しいのは嫌いだし………何も出来ずに後悔することだけは二度としたくねえんだよ。」



 悔しそうな表情で呟いた最後の言葉で私は何も言えなくなった。師匠が何を抱えて時折悲しそうな表情を浮かべるのか。そして何故私を面倒と言ったのにも関わらず優しく接してくれるのか。私には見当もつかない、けど何となくその言葉から想像ついた事を言えば、



―――過去にどうにもならず失ってしまったモノでも有ったのだろう、それも自分が大切にしていたモノが。



 自分の言葉で何かを思案している私を察してか次にはおどけた表情に変え眉に皺を寄せながら呆れた様な声を出す師匠。



「あー、らしくねえな。今のは忘れてくれ。何でもねえから気にすんなよ。」



 そう言い、手のひらをテキトウにヒラヒラさせる師匠に私は視線を向けて笑顔を向けて言葉を返すのだった。



「大丈夫ですよ。私は、今、こうして近くにいますから。」



 その言葉を聞いた瞬間師匠はさっと視線を逸らして先程より早く歩みを進めた。照れたのかそれは私には分からない事だが見たことが無い反応に驚きつつも師匠の後を追い掛けて行く。







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