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見習い魔法使いが最強に至るまで  作者: 鬼仁雪姫
第2章
22/103

21話 邂逅と決別



「久し振りだね。桜城さん。」



 シンとして向かい合っている中、そう笑顔で声を掛けて来たのは勇者、天野輝。イケメンで文武両道。学校で一番人気があったのにも関わらず付き合っている彼女はいないらしいと言う噂があった同じクラスメイト。


 私はぶっちゃけ興味が無かったが何故か日本では度々話し掛けられていて周囲からは妬みの視線を送られていた。それのせいで居心地が悪かったのだが気付かない様子だったので何度か言おうとも思った。だけど、彼と話をしたという行為だけで色々と言われるのが分かりきっていたものの、無下にもできずテキトウに微笑んでおくに留めていた。正義感が強く、その正義感から勘違いで暴走気味になってしまう事も度々あった。本人は無自覚だけど。


 勇者君の振り返り終了、これ以上は考えたくないので。それでこの状況的に、勇者でリーダーとしてという気持ちも有って話し掛けたんだろうけどもう少し周りの視線も気付いた方が良いと思うよ。と同時に最初に会った時の言葉がそれ? と内心憤っていた。そんな事を考えて黙っていると再会に驚いていると思ったのか勇者はペラペラと話していく。



「急に君がいなくなって心配したよ。今まで何処にいたんだい? それに髪や眼はどうしたんだい? そこにいる先程講義をしてくれた方と関係が………もしかして誠実そうに見える振りして彼女を拐ったんですか!?」



 勝手に勘違いを始めて話し出す。後半は完全に師匠に向けていた。変な勘違いに若干呆れながら表情には出さずチラッと師匠の顔を見ると私の方を見て視線で「こいつ、頭大丈夫か?」と言いたげな感じだった。私は少し視線を泳がせながら「頭()大丈夫だと思います。」と訴えると「じゃあ、どうにかしろよ。」と言葉を交わさず会話が成り立ったので本当は勘違いをしやすい勇者と話したく無かったが師匠が代わりに話すのもおかしいので二人で同時に向き直り話すべき事だけを話していく。



「天野君。私は私の意思で此処にいるから変に勘繰るのはやめてくれないかな? 勝手に想像するのは構わないけどそれはあくまで天野君の想像だからその考えを肯定して勝手に話さないで欲しいかな。考えている様な事は無いから。」



 ちょっとイラッときていたせいか強めに言ってしまった。その態度に数名の女子や仲の良い男子達がピクッと反応したけど勇者が話し出すので行動に出ることは無かった。



「そうなのか、色々と変えられてしまったんだね。でも大丈夫だよ、帰ってくる為に戻って来たんだろう?」



 「ん、んー!??」と疑問の声を上げそうになった。今の流れでどうやってそんな解釈をするのか。ちょっと意味が分からない。何も言えずに再び黙ってしまった、いや今は絶句していると言った方が正しいかもしれない。勇者は黙っている私の様子をニコニコと見てきている。


 誰も何も喋らず私の返答待ちの状態の静かな雰囲気の中に不意に聞こえてきたのは吹き出した音と笑い声。



「ブッ。フフッ、アッハッハー。ちょっと面白い、ヒー、辛いなぁ。涙出てきた。ユリナの知り合いには面白い奴がいるんだなー。」



 ゲラゲラと声を上げて腹を抱えながらもう片方の手で私の肩を叩いて面白そうに笑ったのは言わずもがな師匠である。深刻な雰囲気がぶち壊されたよ、むしろシリアスという名の何かがガラガラと崩れる音が聞こえてきた位だ。キャラ崩壊だけどその辺大丈夫かな、あぁ、複数の女子達が眼を丸くして此方を見てますよ。だから自重して、っていつまで笑い続けてるんですか!?


 突然の師匠の行動に驚いていた勇者も我に返りキッと睨んで何かを言おうとしたら師匠に手で制されて先に話始めた。



「悪い、悪い。面白かったからつい、な。もう、笑わないから。静かにしてるので話の続きをどうぞ。」


「いや、あのー?」


「どうした、ユリナ?」


「雰囲気ぶち壊しの自重無しの笑いをしておいてよくそんなこと言えますね。空気を読むって事を教えた方が良いですか? ()()。」



 「え? 何の事?」と言いたげな表情で眼鏡を外し認識阻害を解き、普段の師匠の格好に戻る。その様子に驚きの声が上がるが勇者はそんな師匠の変化にも目もくれずフラフラとしながら此方に更に近付いて来ていた。ジト目で呆れながら師匠を見て話していたので気付かなかったので、目の前に立たれてガシィッと急に肩を掴まれ、思わず「ヒッ!」と前に向き直り声を上げたのも聞こえない様子でガバッと顔を上げて大きな声を出された。



「そこまで強制されているなんて。帰ってくると思っていたのにこいつのせいで帰れなく()()()()()んだね。俺が今倒して解放してあげるから待ってて。」


「えっ、えー??」



 周囲のざわつきと私の困惑の声は聞こえずに勝手に暴走している勇者は師匠の方に近付いていき剣を抜き切っ先を向けていた。端から見れば好きだとも取れる言葉に気付いていない勇者もそうだがそれを私に向けて言うもんだから女子達が此方をギリギリと歯軋りをしながら見ているのは止めてほしい。


 そういえば前ほどプレッシャーを掛けられても息苦しくないなと思いながら、「固有スキルで補正かかっているせいか。」と一人で納得して私は初めて有象無象だと思って彼女らの視線を全て流した。その様子が気に食わなくて青筋を浮かべながら複数の女子でヒソヒソと話し出したが興味ないのでスルー。私、動じなくなるほど、本当に強くなったなあと実感して内心喜んでいると呆れた声が私に届く。



「おーい、ユリナー。こいつどうにかしてくれよー。」


「今、桜城さんは関係ないだろ! 決闘を申し込ませてもらう!」


「は? 何でそんな面倒な事しなきゃいけないんだよ。てか、ユリナの話、ちゃんと聞けよ。」


「フッ。流石に俺が勇者だから恐ろしいんだろう? これは”聖剣”だし見た瞬間震え上がるのも分かるよ。」


「…………。」


「怖くて、何も言えなくなったか?」



 あ、これヤバイ気がする。「何が?」ってそりゃあ直ぐ分かるよ、うん。聞こえる筈のない血管が切れる音が聞こえてきそうです。



「―――。」


「ん?」


「おい。テメェ、一々うるせーんだよ、ア゛ァ゛? 勝手に自分の都合の良いように解釈してベラベラ、ベラベラ。耳障りなんだよ。俺はなぁ、テメェらに授業なんてしたくなかったのにわざわざ基礎から分かりやすい様にしてやったってのになぁ。目の前で爆睡しやがって、舐めてんのか?? それに歳上に対する態度がなってねえな、敬語を使えよ。習わなかったのかー? ったく、ユリナから聞いてはいたがここまで俺の癪に触るとは思わなかったぜ。これ以上俺の目の前で話を聞かずに勝手に解釈して暴走してみろ? こんなんじゃ済まねえからな??」



 授業の時から苛々はしていた様で、勇者の暴走と相まって濃密な殺気が漏れだす。その殺気は辺りを満たしていくので、勇者だけじゃなく勇者の仲間達にまで届き、呼吸を忘れて息苦しそうにしている様に見える。


 だけど、ぶちきれておきながらも、一応理性は保っていて私には一切飛んで来ない。だけどちょっと強すぎますね、何人かの人があまりの殺気に段々と腰を抜かしたり、ガタガタと震えてしまっている人が出てきている。勇者でさえ迫力に押し切られ、向けていた”聖剣”とやらを握っている手はそのままにカタカタと震え、何も言えずにいる。


 ちょっと可哀想というか今回は強すぎる殺気というのが端から見ても分かるので止めに入る。袖をちょいちょいと引っ張ると此方に気付いて私の言わんことが分かったのかフウと息を洩らすと殺気が止んだ。その瞬間勇者は聖剣を持っていた腕をダランと下げた。



「チッ、命拾いしたな。」



 舌打ちをしてから顔も見たくないのか勇者達に背を向けて私を見て「さっさと用を済ませ。」と目で言っているので私は未だ放心状態の勇者、だけじゃなく全員に宣言する。



「確かに勝手にいなくなったのは心配を掛けた人もいるかもしれない。けど、全員の共通認識でも無い、そんな表面上の言葉なんて要らない。それにもう私は貴方達に興味も無いし関わって欲しくない。私を雑魚扱いしたままで構わない。逃げ出したとかも勝手に思ってくれても良い。だけど今も分かった様に師匠は強いし私はそんな師匠の元にいる。遊びでこんな呼び方はしないよ。後は言わなくても分かるよね? 正直に言うと勝手に色々と言われた事に関してはまだ一回目だったし何も言わずに押さえたし、師匠の殺気も止めたけど次からは無事でいられると思わないで。」



 そう言いながら無意識に魔力を強めに放出して威嚇していた私は慌てて引っ込めながらくるりと彼らに背を向け、歩き出していた師匠を小走りで追い掛けていく。その様子に声を掛けてくる者は一人もいなかった。


 けれど私は気付いていた。察知と固有スキルが強く反応していたのだ。背を向けた瞬間に此方を強く睨んで負の感情を持っている複数の存在に。




「あの、勇者君は本当にユリナに感謝すべきだよなぁ。」

「急に何ですか?」



 暫く無言で歩き勇者たちの気配も大分遠ざかった所で師匠が独り言の様にして呟いた言葉に私は反応を返す。何となく意味は分かっていたが話したくなったのでつい聞き返してしまった。後は怒っていながらも私に配慮してくれた優しさへの照れ隠しもあったかもしれない。



「あぁ、あのまま殺気を受けていて死ぬ未来が回避されただろう? でも思い出せばあの勇者(笑)は俺に決闘申し込んだぜ? 決闘にもならなくても、なっても、死ぬかもしれない2つに1つの未来が訪れなかったのはユリナのお陰だろう?」


「えぇ、決闘っていってもルールありの訓練の延長戦上にあるやつですし真剣なしじゃないですか。どうやって死んでいたんですか、それに師匠が剣を扱えるかも私にとっては謎ですけど。”魔術”なら使ってたしちょっと反則っぽいですけど近接戦に持ち込まないようにすれば一方的なものになりますよねぇ。」


「反則ってか、卑怯じゃね?」


「それ師匠が言える言葉ですか? 師匠には言われたくない言葉ベスト3位には入るんじゃないですか。」


「勇者君が「剣で挑め!」とでも言ってきたらちゃんと乗ってやったよ。」


「剣使えるんですか? ああ! 能力つければ何でもできそう……」


「普通に純粋に剣術のみで、だけど?」



 師匠の普通は信用がならない。「俺の普通は武器に特殊能力付けることだし」とか真顔で言いそう。



「少しは信用しろよ。疑いすぎだ。何なら護身の為の剣術くらいは教えてやろうか? 短剣有ることだし。」


「んっ!? 考え読まないで下さい! で、剣術と、うーん、魔術の方も出来ればお願いしても良いですか?」


「魔術もかぁ?」


「いえ、出来ればで。そもそも剣術に関してはイメージ無いですし、教えられるのかという疑問が有りますけど。」


「はぁ、本当に信用ねぇな。しゃーねー、どっちも教えてやる。言っておくがどっちも魔法と違って難易度高いからな。自分の適性とは違うから。」


「勿論、そこは頑張る所存です!」


「ところで、」


「何ですか?」


「遊びでこんな呼び方しないって言ってたがあれ嘘だろ。」


「.....嘘じゃないです.....半分は。」


「半分は嘘かよ。だと思ったよ。まあ、なんか言ってたから想像ついてたんだけどな。俺はまた笑いそうになったぞ。」



 そんな会話をして二人で面白くて笑いながら、剣術と魔術を教えてもらうという約束をして部屋まで無事戻ってくるとお昼ちょっと過ぎくらいになっていた。午前中だけで大分濃密な時間を過ごしたなと思いつつ部屋にあったキッチンに向かいバッグにしまっていた幾つかの食材(バッグの中の時間は停止するので新鮮のまま保管できる)を取り出し料理をし始めると師匠は部屋に入るやいなや大分ぐったりした状態でソファに倒れこむ様にしてうつ伏せになって「あ゛ぁぁー。」と呻いてる。


 そんな様子に笑いながら料理を終え配膳すると呻いていた師匠がガバッと起き上がり直ぐに食べ始めた。かくいう私もお腹は減っていたしどっと疲れてはいたのでお互い無言で食べていたのだった。


 食べ終わるとフウと一息つき、師匠が考え事を始めたので私は片付けを始める。片付けが終わったタイミングで師匠が声を掛ける。



「前にも言った通り、午後から迷宮の方に行こうと思ってたんだが、体調とか特に眠気だな、大丈夫か?」


「二択だったら大丈夫じゃないですね。滅茶苦茶眠いですし疲れてます。」


「そうかー。じゃあ今日は止めるか。」


「いえいえ、そんな訳にはいきません。行きますよー! 元々その予定だったなら崩さず行きましょう!」


「何言ってんだ。全快じゃない状態で言っても良い成果が上がるとでも思ってんのか? そんな甘い場所じゃねえし、」


「?」


「訓練なんて甘いものじゃ無くなる。魔物とはいえ自分で殺すことになるんだからな。その覚悟も決めて貰わないといけないしな。」



 さっきまでの疲れた表情は一切無く真剣な表情で見据えてくる。確かに「行きます。」と言いつつも空元気だ。全快か? と聞かれればNOだ。今は精神状態も良い状態とは言えないし何より眠気から頭があまり回っていない。そんな悩んでいる状態を見て師匠は苦笑する。



「少し強く言ったが出来れば良い状態で行きたいんだよ。ユリナもそうだが俺も少し集中力というか判断が鈍っていてどっかで綻びが生じそうで。行って何かが起きた時の事を考えて危惧してるんだ。」


「……んー? それって師匠も寝たいって事ですか?」


「まあ、仮眠くらいはしたいか? てか我が儘、少し位は言えよ。前にも言っただろう?」


「人形遊びの趣味は無い、でしたっけ。………それじゃあ、休んでも良いですか?」


「おう。」



 師匠の判断力が鈍っている様子などは見受けられ無いので私を気遣ってくれたのだろうか。本意は分からないが何故だか優しい師匠の言葉に甘えてベッドに入りぐっすりと眠るのだった。その後師匠もベッドには入ったみたいだがその前に部屋の扉の方に近付き何かごそごそとしているのが聞こえてきたが何をしていたかまでは分からなかった。





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