20話 授業と違う一面
「お疲れさん。」
部屋から出た私に掛けられた言葉。一切声を荒げずに淡々と恨み辛みを吐き、けれど今はもうそんな事思っていない事を正直に伝えた。声は外に聞こえてない筈。だけど何を話したとかどうだった? とかも聞かれる事は無く、師匠はさっさと踵を返し歩いて行ってしまった。そんな様子に一瞬呆けた私は置いて行かれない様に小走りで追い掛けた。
コツコツと歩く音が響き遂に目的の場所に着いた。
「俺の後から入って後ろの席の方でも座って聞いてろ。」
「でも私”魔術”は使えないんでー。」
「使えなくても知っておけば対応出来るだろうが。」
呆れた声で言われた。確かに新しい事を学べる、しかも”魔術”に関してだ。結局分からないまま”魔法”が使える様になったし、しっかり話を聞いてみよう。………うん? そういえば師匠って人に教えるとか上手く出来るのだろうか? 私に教える時は割とテキトウなので要領の良い教え方をするイメージが無い。その辺も良く見ておくべきか、うん。
師匠からのジト目を向けられている事に気付いてコホンと咳払いをしてちゃんと聞くと言う意味でしっかり頷くと扉を開けて中に入っていった。
「キャー! 来たわー!」
「ノト先生ー!」
「今日も格好良いわぁ!」
思わず目を丸くして足がピタッと止まった。一緒に入ると流石に何を思われるか分からないので認識阻害と気配遮断を発動させていたのだが、まさかアイドルの様な出迎えの黄色い声に驚いてしまった。師匠は見えないようにして私に手で早く行けと指示してるのでそそくさと移動して一番後ろの端っこに座った。
師匠は声を一切合切スルーして教壇に登る。そして、ニッコリと笑顔になり私達の方を見渡す。多分今の私頬が思いっきり引き攣っていると思う。だって毎日(まだ1週間位だけど)生活を共にして表情を見てるせいか今の笑顔が思いっきり作り笑顔なのが分かるんだもの。屈託の無い笑顔。それを見たことがある私にとってはちょっと不思議な光景と言えるかもしれない。
あんまり見てると師匠に後で色々と言われるであろう反動が怖いので視線を周りに転じると私の左斜め前方の方に黒髪の集団を見つけた。私と共に召喚されたクラスメイト達。そちらを凝視していると女子達は師匠の事を見て頬を染めながら話しているのが見える。男子達はそんな女子達の反応が気に食わないのか師匠の事を睨んでる人もいるけど私は「やめとけ、命が幾らあっても足りないぞ。」と声を大にして言いたい。いや、流れと言うかネタ的な意味で。実際は話したくないからそう考えてるだけで勝手に喧嘩売って返り討ちにあえば良いとか思ってる。私は興味を失って周りの他の受講者達を見ると8~9割が女性。ここのいるのは全員で100名弱だろうか。そういえばさっきも何人か部屋の外にも、というか通路の陰で師匠を見ていた人もいたなあと思い返す。
そんな感じで私はぐるっと見渡し終わって前に向き直る。すると師匠が此方をチラッと一瞬だけ見てきてたので「ん!?」と体をビクッとさせて驚くと何も無かったかの様に話始めた。私の様子でも横目で眺めてたな、あれは。
「それでは今日は特別授業の”魔術”の基礎も含めて話していきます。」
丁寧な言葉で話始めた。いや、授業だから仕方無いんだろうけど普段との違いに面食らった。凄く様になってる、思わず見惚れていたがそんな事バレた瞬間に弄られるので表情に出さず真面目に受けてますけど、何か? という心意気で話を聞いて時にメモをしていく。
”魔術”について城に居た時に教えてもらったのはあくまで使い方。詠唱とかそういうのだけで分からなかった物だったが師匠は”魔術”の発動時の魔方陣や詠唱の意味を説明していく。
魔方陣は先ず属性の指定、次に範囲や威力等発動時の形を決めていく。それを補助するのが詠唱。今は詠唱が有ってこそ魔方陣が展開でき発動できると詠唱重視の考えが多いが元は魔方陣がきちんと出来てれば詠唱は少し位雑になっても発動できるとか。そう説明しながらデモで”魔術”を発動させて見せている。
その後受講者達の提出書類に関して触れて新しい”魔術”を作り上げて教えていく。ここで試すと危ないので試すなら訓練場でと付け足すのを忘れずに言っているのを聞いたのを最後に残りの話は覚えていない。
俺の授業に参加する条件の1つ目を覚えているだろうか。今こういう考え事をしながらも授業を進めている。........寝ている奴等がいる。勿論毎回受けてる魔術師や騎士達は知っているので起きて今も新しく色々と考えていたり必死にメモを取ったりしている。寝ている奴等がいる右方向に視線を向ける。
流石にな、俺もウトウトしたりとか頑張って起きようと受けている奴なら許しただろう。だが、完全に机と仲良くして寝てやがる。俺のその視線に気付き毎度受講している魔術師の女達からは睨まれてるが気付いていないだろう。ましてや俺が入ってきて騒いでいた黒髪の女子らも寝てやがる。全員がそうでは無いが半分程だろうか、俺が気になる程度にはいる。思わず舌打ちにしそうになるのを抑えて話を続けていく。ファーリアは教えてないのか、それとも伝え忘れか。俺は優しくは無い。元々ユリナから聞いて前にすれ違って見た時から見切りをつけていたので、もういないものとして扱った。
んで、もう一人誰にもバレずに寝ている奴。まあユリナの事だが、夜寝れなくて魔法による1時間の熟睡じゃ流石に眠くなるよな。基礎系の特別授業についてはきちんと聞いてメモを取っていた様子が有ったので偉いなと思って見てたけどやっぱり眠気には勝てなかったか。
ちょっとした悪戯を思いつき俺は誰にも分からない様に”魔法”で小さい風の渦を指弾で放ち、机と仲良くしているユリナの頭頂部にぶつけた。ぶつかった瞬間、体をビクッとさせてガバッと顔を上げた。正に「何事!?」と言った様子でキョロキョロして当たった所を掌で撫でている。暫くキョロキョロしてたが何かに思い当たったのか俺の方を確信を持った目で見てきているので一切視線を合わさず授業を進めていく。その態度から察したのか睨んで細くしている目を更に細めて見てくる。しまいには頬杖を付き始めた。けどそれも長くは持たずまた机と仲良くなっている。
その行動に思わず笑いそうになった俺は何とか堪える。もう一度起こしてやろうかという考えが頭をよぎったが、本職が魔法使いであるので寝かせてやるか、と思い授業が終わるまで放置した。
「それじゃあ、今日はここまで。次の授業の前までに何時も通り魔術師長に提出しておくこと。」
何時も授業を受けている人達から返事が返ってきてユリナを風の指弾で起こして終わったことを伝え、微笑みながら退出を促す。何かいないものとして扱ってた奴等から「良く寝た。」とかふざけた事を言ってる奴がいるのでどうにかしなきゃなと思い睨むような視線を向け、ユリナが来たのを確認して部屋から出る。
ユリナは大きな欠伸をしながら後を付いてくる。欠伸をしながらでも魔力をきちんとコントロールしているのをみると随分短期間で成長したなと思い苦笑いを浮かべる。この意味が分からず首を傾げるユリナを見ながらも、楽しそうにしているのを見ながら歩くとバタバタと後ろから騒がしい音が聞こえてきて肩越しに振り返ると授業を毎月受けていた魔術師(女性)の数人が走ってきた。俺は少しだけ面倒そうに顔を顰めたが直ぐに表情を取り繕い笑顔を浮かべる。その際バレて色々聞かれるのが面倒になるかもしれないので俺の後ろに隠れる様に指示すると察したユリナは頷いて移動した。
「先生! さっき新しく考えたのが有るので是非見て下さい!」
「私も、です! お願いします!」
「質問が有るんですけどー!」
と、次々に話し掛けられるので一つずつ確実に捌いていく。1人に大体1~2分程で済ませていくがどんどん人が来るので段々と疲労が溜まってきた。そして授業と関係ない事を言う人は少しスルーしながら(しつこいと二度と授業を聞けない様になってしまうから)対応していると波が引いてきて漸く落ち着いたのでホッと息を吐く。
「疲れたなぁ………。寝たい………。」
「プッ。お疲れ様です、クスクス。」
「………フンッ。」
「痛っ! 何するんですかー!?」
とりあえず何で笑っていたかは分からないが無性に腹が立ったので頭にチョップをかまして憂さ晴らしした俺を頭を抱えながら恨めしそうに睨むので「何となく?」と答えたら、縛ってた髪を急に引っ張られたので、歩きながらギャーギャーと騒ぎ合っていた。
するとまた何人かの人の集団が近づいてきていることに気付き俺は言い争いを止めて後ろを向くとその態度にイラッときたらしいユリナが文句を言おうとした。しかし、俺が何故止まって後ろを向いたかの意味を自分の察知能力で気付いたらしく口を噤む。
キャッキャッと騒ぎながら此方に向かってくる一つの集団。察知を展開していたのは正解だったかもしれない。察知によって気付く集団行動、そして場所なんて関係なく騒ぐ人達。そんなのは彼ら、彼女らしかいない。今は気配遮断は発動していなくても一応認識阻害は掛けてある。完全に此方が目的で有るように近づいてくる事に無意識で唇をぎゅっとしていた私に不意に肩に手が置かれてハッとして見ると師匠が真顔で見ていた。そして小さな声で話し掛ける。
「ユリナのされてきた事は聞いたし思いも何となくだが知っている。何度も言ったがレベルが強さじゃない。たった1週間ほどしか修行していないとでも思っていて不安に思うだろうが俺からしたら割と実力は越してる。そう感じる、じゃなく事実だ。自信を持って相対してファーリアに色々言えたんだから好き放題、喚き散らして見たらどうだ? 勿論言葉通りに喚くのはやめてほしいがな。」
「で、でも。」
「不安に感じているんだろうが状況考えてみろ。」
「ふぇ?」
「ユリナが一人だったらどうなるかは分からないがお前の師匠である最強の俺が居るんだぞ。だから堂々としてりゃいいよ。」
「………何ですか、それ。自分で言いますか。」
師匠の言い分にクスクスと笑ってしまう。確かに不安という気持ちもまた虐められてしまうのでは。という恐怖がある。けど一人で戻って来た訳じゃないし心細い事は何も無い。私は師匠を真っ直ぐ見据えて確認をする。彼らの姿が見えてきたけど視線を逸らさず話す。
「師匠、」
「何だ?」
「守ってくれますか?」
「守るかどうかは状況にもよるが弟子に迎えた以上は気には掛けてやるさ。」
そう言って肩を竦めたのを見て心の中で感謝をして歩いてきた彼ら、勇者達に視線を向け、認識阻害を解いていく。何が起こるかは分からない、不安も消えてはいない。けど私が落ち着ける環境を作り出せる師匠を信頼も信用もしている。面倒な性格とは言え何かと気に掛けてくれるその態度に若干俯いて笑みを浮かべる。何か色々と贈り物をしてくれた時点で結構チート級で驚いたが自分の実験とか言いながら私が受けとると安心した様な顔を一瞬見せていた。過保護過ぎるかなぁと思うけど心配してくれるのは分かっている。だからそんな師匠が「大丈夫」と言ったのだから私が何時までもナヨナヨしている訳にはいかない。
表情を悟られない様に俯いた顔を上げ勇者達を見据えると大分近付いてきた彼らの反応は様々だった。私の事に気付き驚きやら、何かを企んでいるかの様な視線を向けたり、私を見ずに師匠を見ている人がいたりと反応は様々だった。彼方も立ち止まり向かい合うようにしている状況で最初に一歩進み出て話し掛けたのは”勇者”の職を授かった天野輝だった。
「久し振りだね。桜城さん。」




