4-9 ノレイア
「沈没……。それがあなたの異能力なのね。」
これから同じパーティーメンバーになる以上、隠す必要はないと判断してカヤは自身の異能力を明かした。
「ああ、そうだ。いざとなれば、発動した異能力そのものを消し去ることもできる。ノレイアが立ち直れなくなる未来は絶対に来ないから安心してくれ。」
カヤはそう言って、異能力を行使する。
ノレイアから発せられる異能力に対して、漏れ出る為の出入り口を沈めていく。
「んぅっ、んっ!なんだか苦しいわよ!」
「常に発散させていたノレイアの異能力が出口を失って、体の中に溜まっていってるからだよ。手の平周りは塞いでいない。これなら、ノレイアが狙った方向にしか異能力は発生しないはずだ。」
事実、強大すぎる異能力がノレイアの中で出口を失って膨らみ始めていた。
「分かったわ。撃つわよ!」
カヤの言葉を聞いたノレイアは、みんなを背にして反対側へと手を向ける。味方が近くにいる時は異能力を発動しないように決めていた誓いを振り払う。
「ウォーターボールッ!!」
去年、一つのパーティーを崩壊させたノレイアの技。その際は、ノレイアを中心に出現した巨大な水球が、味方ごと包み込んで暴れまわったのだ。
一瞬、その時の光景を思い出してしまうノレイアであったが、今度は違う結果を巻き起こしていた。
直径にして数十メートルほどの水球がノレイアの眼前に発生した。水が無い空間で出現させるには、あまりにも馬鹿げた大きさの水球。トレーニングルームの半分ほどを埋め尽くすサイズで、ノレイアの前方に発生した水球は漂っている。水球の中では、グルグルと渦巻く水流が縦横無尽に駆け抜けている。
「みんなっ!」
ハッとして振り返るノレイア。
以前は、自身の意思とは関係なしに周囲すらも巻き込んだ水球であった。
「問題ない、だろ?」
自信たっぷりの表情で答えるカヤ。クライブもメルもベルも、誰一人としてノレイアの異能力で被害を被っていなかった。
「すごい…。これほどの規模の【水使い】は初めて見たよ。」
「うん…。すごい。」
「へー、やるじゃん。ノレイア!」
クライブもメルもベルも、『暴れ姫』と揶揄されていたノレイアの実力を目の当たりにして驚愕していた。これほどの規模で異能力を行使できる人物が目の前にいる可憐な少女であると、事実を知らない者が見れば嘘と鼻で笑っていただろう。
「異能力を発動させる時、いつもと違う感覚になったのは自分でも分かっただろう。この感覚を忘れないようにすれば、俺の異能力なしでも普通に制御できるようになると思うよ。」
「……これが、私の異能力…!」
どこに発生してしまうか分からずにびくびくと怯えながら異能力を発動させていた今までと違って、今はノレイアの前方にしか異能力は発生しない。ノレイアは生まれて初めて異能力を操る実感を得て、はしゃいだ。
「ウォーターショット、ウォーターショットッ!!」
巨大な水球を消し去ると、トレーニングルームの壁に向かって水の弾丸を発射させる。
「すごいっ……!!こんな自由に異能力が出せるなんてっ!」
飛び回りながら異能力を発動させて喜びを露わにするノレイア。
先ほどまでの他人を避けていたノレイアとは、もはや全くの別人と言っても過言ではなかった。小さな子供のように喜びを表現して、無邪気に異能力を発動させまくる。
ハァ、ハァ
疲れるまで異能力を行使し続けたノレイア。肩で息をして、呼吸を整える。
「あなたの言う通りだったわね。私の抱えている悩みは、あなたたちのパーティーに限っていえば、なんの問題にもならない。ここまでのことを見抜いていて、あなたは私をパーティーに誘ったの?」
「俺がノレイアを誘ったのは単純に、君が寂しそうだったからだよ。誰かとパーティーを組みたそうにしている顔を見て、声をかけようって決めたんだ。」
話しかける前からノレイアの周囲に漂う異様な異能力の気配には気づいてはいたが、ノレイアの過去を全く知らなかったカヤにとって、ノレイアの悩みなんて知る由もなかった。
だから、ノレイアに話しかけたのはカヤが言うように至極単純なことであった。
「クライブ、メル、ベル、俺はこれからノレイアをパーティーに誘うつもりだけど、良いよね?」
カヤは三人の顔を見て問いかける。講堂では、ノレイアに話しかけようとするカヤに対して微妙な反応を示した三人。だけど、今度は笑顔で頷いた。
「僕は良いと思うよ。」
「私も…、賛成。」
「うんっ!!」
ノレイアに対する怯えは綺麗さっぱりなくなっていた。子供のようにはしゃいで楽しむノレイアを見た後では、ノレイアに対するイメージはすっかり変わってしまっていたのだ。
三人の返答を聞いて、カヤはノレイアの方を向く。
講堂で誘った時には断られた。
それでも、カヤはノレイアを諦めなかった。
「ノレイア、俺たちと一緒にパーティーを組まないか?」




