4-幕間3 助太刀
「そんなっ……!?」
ガラルンバの言葉にクリューが崩れ落ちる。背後から駆け寄るミノタウロスを気にする素振りもなく、地面に座り込んでしまったクリュー。
巨体からは想像もつかない速さでクリューに接近する三体のミノタウロス。
トニーが必死に土壁を作るも、ミノタウロスは止まらない。
「ヴォォー!!」
斧を振り上げて接近するミノタウロス。
最後まで諦めなかったのはトニーだけだった。
「これ以上、俺の仲間を傷つけさせねぇ!」
土壁では止まらないと判断したトニーは、クリューに近づくミノタウロスの前に飛び出る。
「土壁っ!!」
ただの土壁ではなく、自分の体を核とした土壁を発生させる。土壁の中に埋もれる自身の体。直接、核となることで何倍もの硬度を誇る土壁を出現させた。
「みんな…、俺が時間稼ぐから、その間に逃げてくれっ!」
命を捨てる覚悟でミノタウロスの前で土壁となるトニー。少しばかり、仲間が逃げる時間だけでもと考えての行動であったが、無意味であった。
ダンッ、
ミノタウロスのタックルを受けて、トニー共々壊される土壁。全身から血を噴き出して吹っ飛ぶトニー。
「うーん、……ここまでかな。」
そんな自分たちのパーティーを見つめ、ミーニャはボソッと呟いた。
だがその時、吹っ飛ばされるトニーを受け止める人物が現れたのだ。
「大丈夫か!?」
冒険者ギルドから連絡を受けて、すぐさま≪カナル樹海≫の深層へと駆けつけたヴァルアだったが現在の惨状を目にしてグッと歯を食いしばる。
明らかに満身創痍。ボロボロの新人冒険者たちが目に入る。
「ガラルンバ、急げっ!トニーはまだ間に合う!!」
トニーを地面に寝かしつけ、ヴァルアはガラルンバに声をかける。サイハを腕に抱いたまま茫然自失としていたガラルンバは、ヴァルアの声にハッとしてトニーを見る。全身ボロボロであるが、サイハほどの大怪我ではなかった。
「トニー!!」
ガラルンバはサイハを地面に寝かせて、トニーに駆け寄る。まだ息のある仲間に安堵して、【治癒士】の異能力を発動させた。
(ガラルンバの治癒があれば、トニーは助かる。問題は三体のミノタウロスを同時に相手にしなくてはいけないことか…。)
ヴァルアはすぐさまミノタウロスに視線を向け、駆け寄った。
ぐったりとしているクリューから意識を逸らさせるために、大剣を出現させる。
「修羅っ!!」
ヴァルアの体から湯気が立ち昇る。ふんっと鼻息を荒くして、出現させた大剣を両手で掴むと、ミノタウロスに向かって切りつける。
ガキィイイッ―
甲高い音が聞こえ、ミノタウロスの斧が飛ぶ。
ヴァルアの一振りに対して、三体のミノタウロスが同時に斧を使ってなんとか攻撃を防いだのだ。
「オオォッ!!」
ミノタウロスがヴァルアのことを敵として認識した。
ヴァルアを囲むように三方向へとミノタウロスが散らばる。
ヴァルアは一体に向けて剣を構えながらも、残りの二体へも意識を向ける。
(威力は落ちるが、刀を増やすか…。)
鋼鉄のように固いミノタウロスの皮膚を突き破る為にも、一本で相手をしたかったが散らばられては仕方がない。そう思って新しく刀を出現させようとしたヴァルアであったが、その必要はなくなった。
ヴァルアの右に立つミノタウロスに何かが落下してきたのだ。
ミノタウロスの頭から地面へと突き刺さる一本の刀。三体の内、一体のミノタウロスが今の一撃で絶命した。
「ヴァルア教官、手伝いましょうか?」
ミノタウロスの頭部に降り立った人影がヴァルアへ向かって声をかける。塵となって消えていくミノタウロスの頭から地面へとぴょんと降りるその人物はヴァルアが良く知る人物であった。
「ジョウッ!丁度いいところに来てくれた。ミノタウロス二体なら問題はない。こっちは任せて、ジョウは、あの子たちを連れ帰ってくれんか。」
これ以上ない実力の持ち主。王都を拠点として活動しているS級冒険者ジョウの助太刀であった。
「あの子たちですねっ!承りました、ヴァルア教官もお気を付けてっ!!」
ジョウはヴァルアの視線の先にいる冒険者を確認して頷いた。
ミノタウロスを貫いた刀を、刀身よりも小さい鞘に納めたジョウはその場で刀を腰にして構える。
「ハァッ!!」
少し腰を下ろして、目の前に向かって居合抜きをするジョウ。
その一撃は空間を切り裂いた。ジョウの前方にある樹木が消し飛んだのだ。≪カナル樹海≫の外まで続く道が出来上がる。
「これは一時的なものです。しばらくしたら元に戻ってしまうので、今の内に急いでください!!」
≪グッドラック≫の面々に声をかけるジョウ。
ジョウの声を聞いて、ガラルンバが治癒中のトニーを背負って立ち上がる。
「クリュー立てるか…?」
サイハが死んでから呆然と座り込んでいたクリューだったが、ガラルンバの声になんとか反応して立ち上がる。クリューの目を見る限り冒険者に戻ってくることは無いだろうな、と思いつつもガラルンバは安堵した。
トニーを背負ったまま、サイハを抱きかかえるガラルンバ。
「ミーニャも行けるな。」
「……ごめんなさい、なんだかホッとしたら体の力が抜けちゃったみたいです。立ち上がれそうにありません。」
だが、ここでミーニャがへなへなと地面に座り込む。怪我とかではなく、極度の緊張感から解放されたことによる影響だろう。
「でしたら、彼女は私が背負っていきます!皆さん、急いで避難をっ!!」
座り込んだミーニャを背負うジョウ。
ガラルンバやクリューの後を一緒についていく形で、ジョウはミーニャを背負ったまま≪カナル樹海≫の外まで続く道へと足を向ける。
「では、ヴァルア教官!お気を付けて!!」
最後にヴァルアに手を振ってから、ジョウは自らが作った道へと侵入した。
前を歩くガラルンバとクリュー、そしてジョウが通り過ぎたところから消え去っていたはずの樹木が元に戻っていく。
「あの、ありがとうございます。……とても、助かりました。」
ジョウの背中で、ミーニャは体を密着させる。そして、ジョウの耳元で吐息を吹きかけるようにお礼を告げるミーニャ。
男であるジョウがドキッとしてしまうのも仕方のないことであっただろう。
(ふふっ…。バーカ。)




