4-幕間2 ≪グッドラック≫
冒険者ギルドでの話し合いが行われてから数日後、ヴァルアはギルドでとある連絡を受けていた。
「ヴァルアさん、先ほど≪カナル樹海≫から戻られた方から教えていただいた情報があります。若い数人の冒険者が深層に入っていったようです。注意はしたようですが、聞く耳を持たなかったようでして……。」
ギルドの受付嬢が悲しそうな表情でヴァルアに伝える。
≪カナル樹海≫が腕試しに丁度良いと言われているのは突撃ボアと吸血フラワーしか出現しない表層まで。日の光が届かない深層まで行けば、そこからは一気にレベルが跳ね上がる。だから、表層で自分たちのことを過大評価してしまった若い冒険者たちが深層に挑戦して≪カナル樹海≫で命を落とすというのは良く聞く話であった。
ギルドは依頼を斡旋する立場であって、身の程知らずの冒険者を救う立場にはない。
「分かった、俺が様子を見に行こう。」
だが、冒険者の死を悲しむ受付嬢を前にしてヴァルアはギルド職員として救出に向かう。もしかしたら、本当に実力があって問題ない可能性もある。様子を見て、助けがいるようであれば助けようと判断してヴァルアは冒険者ギルドを後にした。
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「おいおいおい、深層は危ないとか言ってビビらせてくれちゃって。俺たちでも全然余裕じゃんか。」
ギルドに連絡のあった深層に突入した五人組のパーティー。そのパーティーメンバーは、全員が≪学校≫を卒業したばかりの、ルーキーであった。
パーティーリーダーで、バンダナを頭に巻いた赤髪の男が、倒したばかりの魔物を見てそう言った。
「俺の【土使い】で足を止めて、ミーニャのバフを受けたサイハとクリューが魔物を両断。怪我をしても、【治癒士】のガラルンバがいる。深層であったとしても全然問題ないな。」
その横で眼鏡をした青い髪の男が先ほどの戦いを冷静に分析していた。
このパーティーの名は≪グッドラック≫。
リーダーで剣を使う赤髪の男サイハ、戦略を立てる青髪の男トニー、双剣を手に持つ黄色髪の女クリュー、黒いローブに身を包む黒髪の女ミーニャ、柔道着を着る坊主頭の男ガラルンバ。この五名で結成された、できたばかりの冒険者パーティーだ。
≪カナル樹海≫の表層だけで満足できなかった五人は、調子に乗って深層へと足を踏み入れていた。
「…っ、魔物の気配だわ!後方から三体同時に来る!!」
ミーニャが突然、後ろを振り返って身構える。
残りの四人もミーニャの合図で後ろを向くと、戦闘態勢に入った。
すぐに魔物の姿が目に入る。
大男のような体躯に牛の頭を兼ね合わせた魔物。手には斧を持ち、赤く光る目は≪グッドラック≫の五人に狙いを定める。
「ミノタウロスだっ!!このレベルの魔物が三体同時はマズい!一体ずつ減らしていくぞっ!!」
トニーが全員に声をかけ、異能力を発動させる。
地面に触れたトニーは【土使い】の異能力を用いて、三体のミノタウロスの足を土で拘束した。
飛び出したミノタウロスたちは、突然の拘束に前のめりに倒れかける。三体ともなんとか同時に持ちこたえるが、先頭に立つ一体に向かってサイハとクリューが接近する。
「そのまま倒れちまえっ!」
ミノタウロスの頭部と同じ高さまでジャンプして、サイハとクリューは倒れかけたミノタウロスの後頭部に攻撃を仕掛ける。
「はぁっ!」
「そりゃっ!!」
サイハの刀とクリューの双剣による同時攻撃、――そのつもりであった。
ガキッと鈍い音を立てて、クリューの双剣が砕ける。ミノタウロスの固い皮膚を突き破ることができず、双剣自体が損傷してしまったのだ。
「しまった、サイハっ!」
代わりに止めを、そう言おうとしてサイハの方に目をやったクリューは思いがけない光景に目を見開いた。
そもそも二人同時攻撃のはずが、クリューの攻撃しか当たっていない時点でおかしいと感じるべきだったのだ。
飛び掛かってくるサイハとクリューに対して、倒れかけながらミノタウロスは持っていた斧を振り上げて攻撃していたのだ。足を拘束したことで油断していたサイハとクリューはミノタウロスの攻撃に気が付かなかった。
その結果、サイハの両腕が付け根部分から綺麗に無くなっていたのだ。
腕の切断面からブシャーっと大量の血を吐き出しているサイハ。サイハ自身も、何が起きているのか理解できていなかった。
「ヴぉおおおー---!」
ミノタウロスが空中で唖然としているサイハめがけて腕を振り下ろす。斧の平でサイハを地面へと叩きつける。
「ぐぁっ!」
体中の骨が衝撃によって折れる。息をするのもままならない状況に陥ってしまう。
「ガラルンバッ、急いで!!」
クリューは【風使い】の異能力でサイハを仲間の元へと飛ばす。
土の拘束を壊して抜け出たミノタウロスの標的がクリューへと移った。瞬時に体を浮かせて、後方へ下がるクリュー。
「こんな大怪我…、それでもやるしかないか。」
意識のないサイハを受け取ったガラルンバは治癒の光を発動させて、サイハを治す。だが、ガラルンバの治癒ではサイハを治すには至らなかった。
「サイハッ!!頼む、目を開けてくれ!!頼むっ………。」
自分の実力ではサイハを治せないことを感じ取ってしまったガラルンバ。自分の腕の中で急速に冷えていくサイハの体をゆすって声をかける。
「くそっ、クリュー一旦引くぞ!!サイハを連れて逃げる!!」
トニーは自分たちではどうしようもないと判断して、クリューとミノタウロスの間に大きな土壁を出現させる。
「分かったわ!」
トニーの土壁を見て、仲間の元へ戻るクリュー。明らかな格上との戦闘によって、いつ死んでもおかしくない緊張感が生まれていたクリューはわずかばかりの時間で大量の汗をかいていた。
「ガラルンバ、治癒しながらサイハを抱えて逃げれるか?」
トニーの呼びかけにガラルンバは答えない。土壁を容易に壊しているミノタウロスがこちらに迫っている為に、猶予がなく怒鳴るトニー。
「ガラルンバッ!!逃げるぞっ!!」
ガラルンバは、静かにサイハを抱いて立ち上がった。
「サイハは、死んだ……。」
自分たちのリーダーの死を、そっと仲間たちに伝えたのだった。




