4-3 シーベルとのいざこざ
『170』という驚異的な数値を叩き出した彼女の名はノレイア=ガードニック。
現在の学生の中でもトップレベルの実力を持つエクス=ガードニックの妹であり、また去年唯一の留年を言い渡された者である。
「シーベル様、彼女が例の『暴れ姫』と呼ばれているガードニック家の問題児です。」
テッドが誰にも聞こえないようにシーベルの耳元で小声で話す。
「噂には聞いていたが、まさかこれほどまでに濃密な異能力を保有しているとは…。これで異能力の制御が出来ているのであれば、是非とも俺のパーティーに加えたかったところだが、噂通りだとするならば、彼女はあまりにも危険すぎるな。」
シーベルや他の学生達に見つめられる中、ノレイアは測定機から降りると隅っこの席で座る。誰とも話す気がないというのが嫌でも伝わってくる雰囲気だ。
少しの間、ノレイアの数値に呆然としていた講堂内であったが徐々に落ち着きを取り戻し、再度測定機の上に順番に乗り始めた。
測定機に表示される数値はやはり七十前後を平均としており、そこから大きく逸脱した数値はそれ以降現れていない。カヤとアンジュとアレスとミレア、四人で固まって測定機の方を見ていたがアンジュが口を開いた。
「……それで、いつ行く?パーティーメンバー最大で五人みたいだけど、別に四人だって問題ないわけでしょ。後は、リーダーを決めるだけだけど……。」
「ミレアはカヤさんが良いと思いますっ!!」
「俺は俺以外なら誰でも良い。」
アンジュが言うようにパーティーメンバーは最大で五人というだけで、五人以下なら何人でも問題ない。極論を言えば、一人であってもパーティーとして認められるのだ。
「カヤはどう思う?」
アンジュがカヤに対してそう聞いた瞬間、四人の前にシーベルが立ちふさがった。シーベルの背後にテッドとカナが並ぶ。
「すまない。少し聞こえてしまったんだが、もしかして君たちは四人でパーティーを組もうとしているのかい?」
「ええそのつもりですけど、何か?」
突然のシーベルの問いかけに不機嫌な態度を隠しもせずアンジュが答える。
≪カルソト村≫で育ったカヤたち四人は、シーベルが王子だということを知らなかった。見る人が見れば、シーベルへのアンジュの態度は不敬に当たると思われる可能性が高かったが、アンジュからしてみれば、いきなり話に割って入ってきた無礼者でしかない。幸いにして、先ほどシーベルが自身で言ったように≪学校≫において身分というものは関係ない。スイレンの指示で、≪学校≫全体にそういった校則が広まっているのだ。
「そうか。同郷なのだろうが、それは感心しないな。ここは≪学校≫だ。皆が皆、自身の異能力を鍛えるために入学する場であって、仲良しこよしをする場じゃない。申し訳ないが、名前を調べさせてもらった。アンジュとミレア、二人ともちゃんと考えるんだ。パーティーを組む以上、メンバー同士の実力は近い方が良い。そこの二人は測定機に乗るのも憚れるほどに低い異能力の持ち主なのだろう。」
「何が言いたいの…!」
シーベルの口調から仲間の実力が侮られていることを感じ取り、怒りを露わにするアンジュ。
「はっきりと言おう。仲が良いのかもしれんが、実力の合わない者同士でパーティーを組むことはお勧めしない。アンジュとミレア、二人は俺のパーティーに加われ。」
手をこちらに差し出すような仕草で、最後は命令口調になるシーベル。
「いい加減にっ……!」
ヒュッ――
シーベルの手を払いのけようとしたアンジュの首筋にいつの間にか、鞘に収まったままの剣が突き付けられていた。
「先ほどからのシーベル様への態度、この私も我慢の限界だ。」
シーベルの背後に控えていたはずのカナが、瞬時にしてアンジュの目の前まで移動していたのだ。鞘に入ったままの剣を首筋に当てられているアンジュだが、慌てる様子は微塵もない。
「へぇ、それで勝ったつもり?」
アンジュの体がゆらりと揺らめく。
鍛錬を積んだ【属性使い】にのみ許された技、同化。アンジュは自身の体を炎へと変化させ、首筋に当てられた剣を避ける。
「同化までだと…!?」
滅多に見ることのない技に冷や汗をかくカナ。同化を使える相手とあっては、剣で対処できなくなる。
「やめろ、カナ。」
アンジュへの対処として、どのような攻撃が有効的かを瞬時に脳内でシミュレーションしていたカナであったが、シーベルの言葉にハッとする。
「はっ、申し訳ありません。」
カナの姿が一瞬にしてシーベルの背後に戻った。
(【瞬間移動】の異能力だな。)
カナが高速移動しているわけではない。異能力の発動を感じ取ったカヤは声には出さなかったが、正解を見抜いていた。
「二人とも俺のパーティーに入る実力は充分ある。もう一度言おう。アンジュとミレア、二人は俺のパーティーに加われ。」
アンジュとカナの一連の騒動があったにも関わらず、同じ口調でアンジュとミレアをパーティーへと誘うシーベル。講堂にいる他の学生たちもなんの騒ぎかと注視するようになってきていた。
(このままじゃ、いつまで経っても会話が終わらないな…。)




