3-14 入学試験:カヤ
トレーニングルームの前で一人ぼっちで待っていたカヤにもついに声がかかる。
ベティに連れられて、トレーニングルームに入るカヤ。
カヤはそこで、三人が受けた説明と同様の説明を聞いた。
しかし本来であれば、今からカヤの入学試験が始まろうというタイミングであるにも関わらずスイレンは異能力の操作を切り、ゴーレムを土へと戻す。
「今度はどうしたんですか。まだ試験前ですよ。」
説明が終わると同時にゴーレムを解除したスイレンにベティが慌てて詰め寄る。先ほどから少しずつ自分勝手になってきているのは理解していたが、まさか試験前にアドリブを入れてくるなんて思いもしなかったのだ。
「いやはや、先ほどまでの三名の試験内容を見ていてベティ先生も認識したであろう。この者たちに、あの程度の入学試験は意味を成さないと。」
詰め寄るベティに対して、落ち着いた表情でスイレンは返す。
「分かっていますよ。それでも、だからといって入学試験を免除したなんてことがバレたら後で色々とうるさいんですから。校長も我慢して、もう少しだけ付き合ってくださいよ!」
「ふふふ、私は何も入学試験を無くそうとしているわけではないよベティ先生。」
スイレンはベティに対してそう言うと、今度はカヤの方を見て話し始めた。
「カヤ君といったね。なに、警戒しないでくれ。私は少々ハイベルさんと長い付き合いでね、君のことも聞いている。それで聞きたいのだが、カヤ君は強い相手と戦うのが好きみたいだね?」
スイレンに見つめられたまま、カヤは首を縦に動かす。
「そうかそうか。ということだベティ先生。カヤ君の試験内容を変更する。ベティ先生との一対一で、私たちに実力を示してもらおうではないか。」
わははは、と楽しそうに笑うスイレンの言葉にキョトンとするベティ。少し間を置いてから、スイレンの言葉の意味を理解して、「えーっ!」と大きな声をあげる。
「本気ですか、校長!」
「私はいつだって本気だよ、ベティ先生。そして、これは校長権限によって決定事項だ。今更内容を覆すことはできない。」
ベティに対して、真面目な顔で返事をするスイレン。校長権限と言われればベティにはそれを否定することなんてできなかった。
「分かりました。」
ベティは心を落ち着かせると、スイレンから離れカヤと相対する。
「申し訳ありません。カヤさん、先ほどまでの試験内容は全て変更となりました。私と一対一での模擬戦闘を行い、その結果によって合否を判断させていただきます。」
スイレンと騒いでいた時とは纏う雰囲気が変化している。
「その試験内容で問題ありません。俺がベティ先生に勝てば合格ということですよね。」
相手が≪学校≫の先生であろうと、もちろん戦うからには勝つ気で挑むカヤ。純粋に合格の条件を聞いただけだった。
その瞬間、ブワァッッとベティを中心に闘気が立ち昇った。
「ええ、私に勝てば文句なく合格です。しかし、私もそう簡単に負けるわけにはいきません。多少、痛い目を見てもらうことになりますが、大丈夫でしょうか?」
お互いに負けず嫌い。
カヤが当たり前のように自分に勝つ気でいることを理解して、ベティも本気になる。
「…はい、大丈夫です。」
ベティの本気を感じ取り、カヤも戦闘態勢へと移行する。全方位、どこから攻撃が来ようとも受けきれるように身構える。
「先に説明しておきます。私の異能力は【追撃】。その名の通り私の攻撃には全て、追撃が発生します。避けることは出来ないとお考え下さい。」
ベティもかつては≪学校≫に通う学生であった。
当時は【追撃】の異能力に対応できる者がおらず、成績もトップ。学生同士での模擬戦闘をすれば、負けなしであった。それだけに、プライドもある。勝負の前に異能力をバラしたとしてもなお、勝利するというプライドが。
「こちらから行きますよ。」
深く体を沈ませたベティが、地を蹴ってカヤへと瞬時に肉薄する。まずは小手調べというように、身を捻るとカヤの足元めがけて足払いをかける。
ベティの足払いを跳んでかわすカヤ。しかし、跳んだカヤの足元に見えない攻撃が飛来した。
空中で足払いをかけられたカヤの体が傾く。
「うぉっと。」
瞬時に後方へ上体を反らして、バク転の要領でベティから距離を取る。
「なるほど。今のが【追撃】ということですか。躱した攻撃であったとしても、躱した先で同じ攻撃が発生するから避けることが不可能と。面白い異能力ですね。」
今までに見たことのない異能力に興奮するカヤ。
「面白がるのはけっこうですけど、これは入学試験ですよ。ちゃんとカヤさんの実力も示してください。」
避けられない【追撃】を理解して、そのうえで戦闘を楽しむカヤの様子にベティの戦意も高まってくる。
再び、地面を駆けてカヤへと接近するベティ。
「今度はこっちのターンね。」
しかし、ベティの眼前から突如カヤの姿が消えたのだ。
そして、耳元から聞こえてくるカヤの声に驚きその場で立ち止まる。その時、自身の体が浮いているのに気付いたのだ。
(いつの間に…!)
先ほどのお返しと言わんばかりにベティの背後から足払いをかけるカヤ。ベティが気づいた時には、既にベティの足は地面から離れていた。
上から体を押さえつけようとしているカヤを目にして、ベティは背後に倒れたまま両手を地面につけると上に向かって蹴りを放った。
「ふんっ!」
避けるカヤの顎に【追撃】がヒットする。わずかにできたカヤの隙をついてベティは体制を立て直した。
「今のは危なかったかしら。」
戦闘を行うつもりで来ていなかったベティの服装はスーツ姿である。ピッチリとしたタイトスカートでさっきのような攻撃をすれば、動体視力が良いカヤの目にはスカートの中が見えてしまっているわけで。なんだか気まずいなと思いながらも、カヤは頭を振ると戦闘に意識を向けた。
「ここからは【追撃】の真髄を見せてあげる。」




