3-12 入学試験:アレス
「お待たせしました。次にアレスさん、お願いします。」
トレーニングルームの外に待っていた三人の前に姿を見せたベティがアレスに声をかける。もちろんだが、アンジュの合否については話すことはない。
「よいしょ、と。んじゃ、お先。」
柱に寄りかかって寝ていたアレスは目を覚ますと、トレーニングルームへと入っていった。
中ではアンジュの時と同様にスイレンが一人いるだけ。試験について、同様の説明が行われる。
「……、試験については以上になります。何か質問はありますか?」
「なるほどねぇ…。」
スイレンの後ろに作り出された二十体のゴーレムを見て、アンジュの合格を確信するアレス。あの程度のゴーレムに負けるアンジュの姿が想像できなかったからだ。
「問題ない。いつでも始めてくれ。」
ズボンのポケットに両手を突っ込んだまま、アレスは眠たそうにそう言った。
「…っ、分かりました!それでは、アレスさん試験開始です!」
アレスの態度に少々イラつきながらも試験の開始を宣言するベティ。
ベティはアンジュの試験が終わってから、アレスの試験が始まるまでの間にスイレンから聞かされていた。この四人には、今までの考えで接しない方が良いと。
(校長の知人からの紹介でやってきた四人ですか…。先ほどのアンジュさんは確かに私の想像を超えるほどの実力の持ち主でしたが、アレスさんは明らかにやる気なさそうですし、態度もあまり好ましいものではありませんね…。)
ベティの目に映るアレスには覇気というものが一切感じられなかったのだ。
だが、校長であるスイレンはアンジュの時と同様に十体のゴーレムを同時に襲わせる。
杖の守りにつく十体とアレスを襲う十体。
大きな口を開けて、眠たそうに欠伸をするアレスに十体のゴーレムが肉薄する。
左右と正面、逃げ場のない攻撃によってアレスを中心に大きく砂埃が舞う。十体のゴーレム同士が大きく衝突したのだ。
「あれ…?今、アレスさんまともに攻撃くらいませんでしたか……。」
アンジュの時は未然にゴーレムを倒すことで、ゴーレムの攻撃を防いだ。だが、アレスは避ける動作もガードする動作も何もなくただ欠伸をしていただけだ。
明らかにまずいと思った。
だが、砂埃が収まったそこには何事もなく突っ立っているアレスがいたのだ。
(いや、おかしい…。おかしすぎる。今も絶え間なくゴーレムは攻撃しているのに、そのどれもが当たっていない…!?)
ベティの目に映るのはただ杖に向かって歩くアレスの姿と、アレスを止めようと攻撃を続けるゴーレムの姿。しかし、アレスを狙ったパンチや体当たりがことごとく外れているのだ。アレスの足を止めようと、足を掴もうとするゴーレムも実際には掴めていない。
「まさか…、アレスさんの体が少しブレて見えるのは、ものすごい速さで攻撃を避けているからっ!?速すぎて残像と実体が二重になって見えているの!?」
目をこらしてアレスを見るベティが驚愕の声をあげる。ゴーレムの攻撃と同時に素早く避けて、また同じ位置に戻っているだけ。速すぎてアレスの体がブレて見えているのだと気づいたのだ。
「厳密には、超短距離瞬間移動でしょうね。これほどまでに洗練された異能力の行使もさることながら、杖の場所まで瞬時に移動しない理由も彼の態度から見当がつきますね。」
「我々に力を誇示したいからでしょうか…。」
「ふふふ、彼がそんなことをわざわざすると思いますか。恐らく、どちらにしろ彼にとって大差ないことだからでしょう。杖の場所まで瞬時に移動することも、ゴーレムの攻撃を精密に避けることも、彼にとってはどちらも同じ労力と思えるくらいなのでしょうね。」
スイレンの予測は、ベティにとって信じられないものであった。あれほどの動きをしておきながら、普通に瞬間移動するのと大差ない労力だと思えてしまうことが理解不能であった。
「ベティ先生、一応ですが彼の異能力は発動してますよね。」
「え、ええ…。先ほどから常に測定機が反応していますので。」
こうしている今も悠々とアレスは杖に近づいてく。ポケットに手を突っ込んだまま、障害物など無いような雰囲気で歩いているだけのアレス。実際には、アレスを止めようと二十体のゴーレムが攻撃を仕掛け続けているのだが、そのどれもがアレスに当たっていないのだ。
(あれが瞬間移動だけで説明がつくような現象なのか…。私には、もっととんでもない異能力に見えてしまう……。)
【瞬間移動】の異能力を見たことがあるベティにとって、アレスの動きは全くの別物。アレスを見るベティの目に畏怖が混ざる。
そんな風に見られているとは知らずにアレスは地面に刺されている杖へとたどり着く。杖は地面に固く埋め込まれているようであるが、杖に触れるなりアレスは異能力を発動させた。
その瞬間抜くのに一切の苦労を見せずに、アレスの手中に杖が収まっていた。
杖が抜かれたことを確認すると同時にゴーレムの動きも止まる。
試験の合格条件を満たしたからだ。
「お、おめでとうございます。アレスさん、試験は合格です。」
なんのやる気も見せずにただただ平然と試験をクリアしたアレスにベティが恐る恐る声をかける。
「ん、ありがと。」
杖をベティに返した後、アレスは軽くお礼を言った。
「それじゃ、アンジュさんと同じく他の二人が終わるまで別室で待っていてくれるかしら。それから、二人を見た後だから言えるけど、残りの二人もこのくらいの試験なら余裕なんでしょ。」
悪戯めいた表情でアレスに聞くスイレン。
「まぁ、そうだろうな。」
試験の内容を思い浮かべ、ミレアもカヤも簡単にクリアするだろうなと思ったアレスは素直にそう答えた。




