3-5 ≪カナル樹海≫
カヤは目の前を走る二頭の突撃ボアを視界に入れたところで、走るスピードを緩める。後方にヴァルア、さらにその後方にクライブがついて来れるように調整しながら走っていたカヤは、ヴァルアとクライブが追い付くのを待ちながら、突撃ボアの後を追う。
しばらくして、カヤが潜む茂みの中にヴァルアが追い付いた。
「なるほど、二頭か。」
突撃ボアは普段から走っているわけではない。標的を捉えた時に凄まじいスピードで走り出すため、現在はゆっくりと移動をしている。
「どうしますか?」
カヤからしてみれば初めて見る魔物である。冒険者の教育をしているヴァルアに意見を求めるが、見た限り目の前の魔物に対して脅威は感じていなかった。
「カヤ君、一頭を任せてもいいかい?」
「おそらく、問題はないと思います。」
ヴァルアに問われ、素直に答えるカヤ。実際に、カヤにとって突撃ボアも吸血フラワーも恐れるに足りない魔物である。
「ならば、お願いしよう。クライブが追い付いたら、私とカヤ君の魔物との戦闘を見てもらうつもりだ。」
「分かりました。」
突撃ボアに気づかれないように尾行をするカヤとヴァルア。それから少し経ち、クライブがようやく二人に追いついた。
「ハァハァ、ちょっと異能力を使いすぎた。父さんもだけど、カヤも速すぎやしないか。ついていくのに精一杯で、ハァハァ、かなり疲れた。」
「ついてこられただけでも充分だ。…だが、今日の目的である魔物との戦闘はこれからだ。目の前に突撃ボアが見えるだろう。俺とカヤ君で一頭ずつ討伐してくるから、魔物との戦い方をよく見ておくんだぞ。」
「分かったよ、父さん。カヤもよろしくね。」
疲労により息が上がっているクライブをその場に残し、ヴァルアとカヤはバレないように突撃ボアに近づいてく。
「カヤ君、まずは俺が一頭の注意を引き付ける。そしたら、カヤ君の好きなタイミングで構わないからもう一頭と戦闘を始めてくれ。倒し方も何も全て自由にやっていいし、無理だと判断した場合は逃げてもいい。」
カヤにそっと声をかけるヴァルア。カヤが頷いたのを確認したヴァルアは戦闘態勢に入ると、茂みの中から飛び出し、樹上の枝に足をかけて空中を移動し始めた。洗練された身のこなしによって、音を出さずに突撃ボアへと急接近するヴァルア。二頭の突撃ボアが離れ、それぞれが違う方向を向いているタイミングにヴァルアは一頭の突撃ボアの前へと姿を見せた。
「さて、やるか。」
スタッと地面に降り立つヴァルアを見た突撃ボアがすぐさま臨戦態勢に入る。ボールのように丸い巨体とは裏腹に短い足が素早く大地を蹴る。
「ギャアッ!!」
一声、雄たけびをあげて突撃ボアがヴァルアに向かって突撃する。当たればひとたまりもないだろう、そう思わせるスピードでの突撃。
「危ないっ、父さん!!」
離れて見ていたクライブが思わず声をあげる。
「クライブよ。最初は危なく感じることもあるだろうが、冒険者を目指すならこれくらいで慌ててもらっては困るぞ。突撃ボアは初心者向けとも言われているだけあって、そんな大したスピードは出せないからな。ほらっ。」
ヴァルアが突撃ボアの動きに合わせて、ギリギリで横に跳ぶ。突然標的を見失った突撃ボアは、ヴァルアの背後にあった岩へと頭から激突する。
ドッ、
鈍い音がして岩が凹む。岩との激突による突撃ボアへのダメージはないが、その隙にヴァルアの一撃が炸裂する。
「剛腕一刀≪瓦割≫!!」
どこからか取り出したのか、自身の体よりも三倍は大きい刀を一気に振り下ろすヴァルア。突撃ボアの背後から振り下ろした一刀は、振り下ろされている時も大きくなり続けていった。そして、みるみる内に突撃ボアよりも刀身の方が大きくなる。
振り下ろされた刀。地面に刀身が付いた時には突撃ボアの体は真っ二つになっていた。
「いいかクライブ、魔物には核となる魔石が体のどこかに存在している。それを見つけて取り出すか破壊することで、魔物の肉体は滅びる。今の一撃はわざと魔石を避けておいた。このように完全に真っ二つにしたとしても、魔石が残っていれば数日後には復活するのが魔物だ。」
真っ二つになった突撃ボアに近づいて体内から魔石を取り出すヴァルア。魔石が離れたことで真っ二つになった突撃ボアの体が塵となって消えていく。
「魔石の多くはこのように黒く澄んでいる。魔石の中には魔力と呼ばれる魔人族や魔物が扱う力が凝縮されており、我々にとっても貴重なエネルギー源でもある。冒険者ギルドでも買い取ってくれるから、魔物を討伐した際には証拠として魔石を持ち帰るのが定番だ。覚えておけ。」
突撃ボアから取り出した魔石をクライブに見せながら説明するヴァルア。
冒険者ギルドに持ち帰った魔石は、鑑定されることでどの魔物の核となっていたかが判明する。その結果に基づいて冒険者たちには報酬が支払われるのだ。
手に持った魔石をズボンのポケットにしまいながら、ヴァルアはもう一頭の突撃ボアとカヤとの戦闘がどうなったかを確認する。予定通りにヴァルアが一頭の突撃ボアの前に姿を見せた後にカヤがもう一頭に向かっていったところまでは確認していた。
「さて、カヤ君のほうはどうなったかな。…………え?」
何度も突撃ボアの討伐をしているヴァルアでさえ見たことがない光景。
逃げる突撃ボアと、申し訳なさそうに追いかけるカヤの姿がそこにはあった。
「突撃ボアが怖れを抱いて逃げているのか!?そんなこと、聞いたことがないぞ。」
申し訳なさそうに追いかけるカヤの下へとヴァルアは駆け付けた。




