3-3 試験に向けて
王都にあるハイベルの家の廊下で、カヤとヨミは話をしていた。
「試験まで日があるから鍛錬も兼ねて近くで魔物と戦おうかと思うんだけど、近くで良い場所知らないですか?」
試験に向けて、魔物との戦闘を行うとするカヤの問い。
「うーん、そうですね。王都の周囲は常に冒険者さんの方々が魔物の討伐を行ってくれていますからね。それなら少し離れていますけど、北にまっすぐ行ったところにある≪ガウレア山≫、もしくは≪ガウレア山≫から東に少し移動したところにある≪妖艶洞窟≫でしょうか。さらに離れて良ければ、南へと行けば≪魔の森≫、南東の位置には≪無限湖≫がありますよ。」
「へぇー、色々あるんですね。それなら試験までの間に順番に回ってみようかな。」
「っ!?……なんでですか!!」
「え?」
「今のは『その場所どれも危険領域に認定されている場所じゃないですかっ!』ってツッコむところじゃないですか!なに順番に回ろうとしているんですか、…もう!ヨミの冗談が通じるくらいには常識も勉強してくださいよ!」
「…あ、そうなんだ。そうだよね、気が付かなかった。ごめんね。」
≪魔の森≫が危険領域になっていることは知っていたので、以前のカヤであればヨミの言う不自然さに気づけたかもしれなかった。だが、つい最近≪魔の森≫の内部に入っていたこともあり、カヤの中から≪魔の森≫が危険領域だという認識が薄れてしまっていたのだった。
「ヨミのせいで試験前のカヤさんに何かあったら怒られるだけじゃ済まないですからね。まぁ、現実的なところで言ったら西側に広がる≪カナル樹海≫でしょうか。あそこは学生さんも鍛錬に利用するみたいですし、なりたての冒険者たちの修練の場所としても有名ですからね。奥に進み過ぎなければ迷うこともないでしょう。」
「分かりました。そこに行ってみようかと思います。わざわざ朝早くからありがとうございました、ヨミさん。」
ヨミにお礼を言って去っていくカヤ。よほど戦うことが好きなんだろうな、とヨミはカヤについてそう考える。
「とりあえずハイベルさんには伝えておきますか。」
≪カナル樹海≫であれば冒険者の方も多くうろついているはずだし、相当なことは起きないと思うが魔物が出現する場所には違いない。ハイベルからカヤたちのことを聞いているヨミは心配ないと判断しつつも、もしもの際に怒られたくないから先ほどの話をハイベルへと伝えにいく。
■
「アレス、おーい、起きろって。」
カヤはアレスの部屋へと行き、ベッドで眠るアレスに声をかける。
「まだ眠いからやめろ。」
「ちょっと、近くの森まで一緒に鍛錬に行こうぜ。ヨミさんから色々聞いてきたからさ。」
「眠いからパス。」
アレスはそう言うと、布団を頭まで被る。話は終わりだと言うように再び眠り始めた。
「本当にめんどくさがり屋だな。仕方ない、アレスの≪瞬間移動≫を使えばみんなで行けたんだが、今回は俺一人で行くか。」
念のため、アレスの部屋の窓から外に出たカヤは人目のつかない場所へと移動する。
「頼むよ、ヴォイド。」
そして一瞬にして、カヤはその場から姿を消した。
そこは、何もない空間。魔物であるヴォイドによって形成されている時空。
「……どこ、行く?」
見た目はただの女の子。ただし、背丈は人間ではありえないくらい低く、空を飛んで移動している。
「王都の外壁の外側に出たいんだ。目的地の≪カナル樹海≫は俺もヴォイドも知らないところだから移動できないよね。」
「うん…。知らない場所には、出入口を作れない…。」
悲しそうにするヴォイドの顔を見てカヤは慌てたように手をブンブンと振る。
「責めているわけじゃないよ!確認しただけだからね。むしろ本当に感謝しているんだから。」
「カヤ、いつも…優しい。ヴォイド、もっと力になりたい。」
「ありがとう。次は時間見つけて、二人でもっとお話しようか。」
「うん!……いつでも、ヴォイド頼っていいよ、カヤ。」
そしてカヤの体がヴォイドの時空から本来の時空へと移動する。王都に入る前に見た景色、高くそびえる外壁がカヤの視界に映りこむ。
本来であれば、王都の出入りは厳重な管理のもと行われている。カヤも父であるハイベルから王都の出入りには色々と手続きが必要だと聞いていた。少し外に出るだけのためにそれらの手続きを行うのもめんどくさく感じたうえに、王都周辺の魔物とも戦ってみたい欲に負けこのような手段での移動をとったのであった。
(そもそも【瞬間移動】の異能力を持つ者への対策がされていないのはどうなんだ…。)
カヤが感じたように、そもそもとしてアレスのように瞬間移動を行える者にとっては、外壁を超えての移動など容易いものである。そのような異能力がある時点で管理体制が完璧ではないことがうかがえる。
「ま、いいか。そこら辺のことは俺の考えることじゃない。」
そう結論づけるとカヤはヨミに教えてもらった≪カナル樹海≫を目指し、西側へと移動する。遠くからでも広大な森が広がっているのが分かるため、進む方向に迷うことはなかった。
■
≪カナル樹海≫の前に広がる草原には、荷物の確認を行っていたり休憩をしていたりする人たちがちらほらと存在する。
ヨミの言うように、なりたての冒険者や学生たちが大半なのだろうと思いながらカヤはその人たちを横切って樹海の中に入ろうとした。
「おぉーっと、そこの坊や。まさか一人で≪カナル樹海≫に入る気かい?」
その時、後ろから声をかけられカヤは立ち止まる。自分に近づく気配に気づいてはいたが声をかけられるとは思っていなかったので、少し驚きながらカヤは振り返った。
「そのつもりです。おじさんは誰でしょうか?」
カヤを呼び止めたのは筋骨隆々の逞しい上半身を露わにした半裸の男性だった。日焼けしたその体に浮き出る筋肉はその男性がそれなりの実力者であることを示している。
「んー、さすがにそれは見過ごせないなぁ。見た目からして、君はまだ学生だろう?一人で≪カナル樹海≫に入るのは危険すぎるっ!!」
喋るたびに筋肉を見せびらかすようなポージングを取る男性にカヤは後ずさる。
「もう少ししたら、俺も息子と一緒に≪カナル樹海≫に入る。鍛錬なのだろう、俺たちと一緒にどうだい?」
「はぁ…。いいですけど…。」
目の前の男性がある程度の実力を持っていることは見れば分かる。手合わせするのも悪くないだろう。だが、毎回ポージングを取ってくる煩わしさにカヤは少し引いていた。
そんな時、カヤは目の前の男性から視線をずらす。遠くから走って近づいてくる者がいたからだ。
「ああ、やっと追いついたか。アイツが俺の息子だ。今年入学試験を受けるんでな。落ちる心配はしていないが、戦闘経験を積んでおいた方がいいだろうと思ってね。すまないが、到着するまでもう少しだけ待っていてくれ。」
「へぇ、それは奇遇ですね。俺も入学試験を受けるんですよ。」
「なんだ、まだ学生でもなかったのか。よく一人で≪カナル樹海≫に入ろうとしたな。表層は危険度が低いとは言っても、それは冒険者の視点での話だ。良かったよ、俺が止めていなければ君は死んでいたかもしれないぞ。」
「ははは…。すみません。」
自分のことを心配してくれる男性に、カヤは苦笑いを浮かべながら素直に謝った。




