3-2 ≪学校≫
王都≪カナル≫の中央にそびえたつ≪カナル城≫。王都を囲む外壁と同じように周囲を高い城壁で囲われている堅牢な城。人族のトップである王族の住まう場所であり、警備も当たり前のことであるが厳重である。
その≪カナル城≫から西へと真っすぐに進んだところに、異能力育成施設、通称≪学校≫が存在する。冒険者になることを夢見る者たちにとって最初の難関。≪学校≫を卒業したとあれば、冒険者の登録にも大きく影響するために冒険者を志す者はまず《学校》への入学を目指す。また冒険者を志す者でなくとも、腕っぷしに自身のある者たちが自然と集う場所である。
十五歳を迎えた者であれば入学する権利が得られる。そして見事、入学試験に合格した者たちが一年生として冒険者見習いを名乗ることが許されるようになるのだ。毎年毎年≪学校≫が課す単位を取得し、二年生三年生へと進級を続け、最後には卒業試験を合格することで《学校》を卒業し、ようやく冒険者を目指すスタート地点に立つことができる。
≪学校≫は王都にしかない。故に、試験の前には毎年各地から大勢の若者が入学のためにと王都へ訪れる。
入学試験を一週間後に控えた≪学校≫では、学生たちを指導する立場にある教師たちの間にも緊張が生まれていた。
「ニューワールド校長、これが今年の入学希望者のリストをまとめたものになります。およそ例年と同じような人数ですが、対戦ゴーレムの操作については例年のようにニューワールド校長自らの操作ということでよろしいでしょうか。」
「もちろんです。入学希望者に怪我を負わせることなく実力を測らなくてはいけない試験ですからね。こればかりは、私と同等に異能力を扱える者にしか頼めません。そして現状、教師たちの中にも私と並べるようなものは残念ながらおりませんから。」
「承知しました。早くあなた様に認めてもらえるように私も精進を続けてまいります。」
「良い心がけです。この世界には私なんかが手も足も出ない者もたくさんいます。今の自分の実力に満足することなく、頑張ってください。ベティ先生。」
ベティと呼ばれた女性教師は頭を下げて校長室を後にする。まだ若く、人一倍責任感の強いベティに校長であるニューワールドも期待を抱いていた。
「失礼します。ニューワールド様へと手紙が届いています。」
ベティと入れ違いになるように校長室へと一人の女性が入る。
「ちゃんとノックをしてから入ってくださいといつも言っているでしょう、ソフィ。それで、誰からの手紙ですか。どうせどこかの貴族からの入学願書でしょう。こんな試験日ギリギリになって送ってくるなんて程度が知れてますけども。」
「いえ……、それが貴族からの手紙ではなく校門の前まで直接やってきた男が守衛に渡していったみたいです。封筒に差出人の名前もなく、男の話し方に違和感を覚えた守衛が私へと手紙を持ってきた次第です。」
「ほぉ、それでもあなたのことだから私に渡る物のチェックは怠らないはず。手紙の中身も読んでいるのでしょう。そのうえで私が読む必要があると判断して、ここまで持ってきたってことよね。」
「はい、その通りです。手紙の内容は先ほどニューワールド様の言われた通りに入学希望を伝える旨の内容となっておりました。手紙の最後にはハイベルと書かれておりましたので、差出人もおそらくこのハイベルという方でしょう。」
「………っ、ハイベル!!」
興味なさそうに聞いていたニューワールドの目が見開く。ハイベルという者の名前に反応したことは分かるが、ニューワールドの秘書として付き添ってきたソフィにとっても初めて見るほど、今のニューワールドは興奮している様子だった。普段であれば、たとえ同じように興奮していたとしても決して表情には出さないニューワールドである。ソフィの中で、この手紙に対する重要度が大きく膨れ上がる。
「はっ、はい。それで、手紙を受け取った守衛からの話ですが、「スイレンにこの手紙を渡して欲しい。」とやって来た男から言われたとのこと。ニューワールド様のことを下の名前で呼ぶ男に違和感を覚えたため、このことを伝えるべきかと思い手紙を持ってきました。」
「渡しなさい!手紙を読むわ!」
興奮冷めやらぬニューワールドは椅子から立ち上がり、ソフィから手紙を受け取る。ニューワールドは包みを風刃で切り、中の手紙を取り出す。
『久しぶりだな、スイレン。いきなりだが、私とリアの子を含めて四人の子供を入学させようと王都へとやってきた。ただ試験を受ける際の手続きが分からないうえに、試験までの日がないのでそっちで手続きとかはなんとかして欲しい。試験さえ受けられれば四人とも実力は保証しよう。男二人と女二人で、名前はカヤ、アレス、アンジュ、ミレアだ。というわけでよろしく頼む。ハイベルより
――追伸 ゼンも一緒に来ているぞ』
手紙を読み終わったニューワールドはもう一度内容を見返し、開いた手紙をくるくると丸める。筒状にした手紙を片手でギュッと握ると、その手紙を床にたたきつけた。
「最後の追伸は余計だっ!!それに、色々とこっちに丸投げしているしっ!ハイベルさんの頼みだったら断れないけどさっ!!」
顔を赤くして虚空を睨みつける美女の姿。いつも見せることのない姿にソフィもどうしてよいか分からず、ジッとその場でニューワールドの興奮が収まるのを待っていた。
「………ふぅ、少し恥ずかしい姿を見せました。ソフィ、今すぐ記憶を消去しなさい。」
「ニューワールド様がそれほどまでに感情を表に出すところを初めて見ました。ハイベルという者は何者なのですか。」
「……、ハイベルさんは昔お世話になった方よ。レイストン博士といえばソフィでも分かるでしょ。」
「レイストン博士…、ですか。なるほど、異能石研究の第一人者で有名なあのお方ですか。ニューワールド様にあのような失礼な文章をお送りになるなど、どうしてくれようかと思いましたが…、仕方ないですね。ニューワールド様がお世話になった方であるならば下手なことはできません。」
妖しく光っていたソフィの目が元に戻る。
「賢明な判断ね。ソフィの実力では何を企もうとも何をしようともハイベルさんに手出しなんてできないわ。」
「……っ、それは買い被り過ぎというものでは。私がニューワールド様の秘書になる前になんと呼ばれていたかお忘れになりましたか。」
「『暗澹の死神』でしょ。忘れるわけないじゃない。国から私に直接ソフィの捕縛要請が来たんだもの。」
「……嘘、ではないようですね。ハイベルという方はそれほどの実力者でありましたか、失礼を申し上げました。」
「気にしなくてもいいわよ。だけど、覚えておきなさい。ハイベルさんに手を出そうものなら私はもちろん、私よりも厄介な人たちを相手にすることになることをね。それよりもベティ先生にこの四人を入学希望のリストに加えるように言っておいてくれる?」
「……はい、かしこまりました。」
一瞬、ニューワールドの冷酷な気配を感じ取ったソフィは動揺を隠すように校長室から出ていく。
一人になった校長室でスイレン=ニューワールドは窓の外に広がる空を見上げながら、昔のことを思い返していた。
「ハイベルさんにリアさんに久しぶりに会えるんだ。おまけにゼンもいるみたいだし、懐かしいなぁ。あの人達も来ればいいのに。」
決して人前では見せない頬を膨らませてプンプンと怒る様子のスイレン。自由人すぎて消息が掴めない者たちの姿を思い返し、たまには私に会いに来いと怒る。
ふぅと一息ついた後、今度は先ほどの手紙にあった四人の名前を思い返す。
「カヤとアレスとアンジュにミレアね。ハイベルさんのお墨付きの子たちか。」
荒れるだろうな、とスイレンは考える。ハイベルが連れてきた子たちが只者なわけがない。
「ふふふ、いい楽しみができたわ。」




