3-1 出立
3章開始です。
王都にある《学校》と呼ばれる異能力育成施設への入学。登場キャラもたくさん増えます。
「さて、いいかなみんな。≪学校≫に入学するとなると、しばらくは王都≪カナル≫での生活となる。また学生たちは冒険者見習いと呼ばれ、活動内容はほとんど冒険者と同じようなものになる。君たちの強さなら心配することはないだろうが、くれぐれも無茶をして命を落とすなんてことはないようにしてくれ。」
≪カルソト村≫出発直前にカヤの父であるハイベルがカヤとアンジュとアレスとミレアを見渡してそう忠告する。ハイベルが用意した馬車に乗っているのはハイベルの妻であるリア、そして馬の手綱を握るのは≪カルソト村≫の病院長であったゼンだ。
「元気でねアンジュ、レイストンさんの言うことをちゃんと聞いて過ごすのよ。」
「うん。行ってくるねお母さん。お父さん。」
アンジュの両親が別れを惜しむように手を振っている。
王都まで馬車で三日。護衛もつけずに魔物に襲われた時のことを不安に思う村人たちもいたが、出発するメンバーの中にはそんなことに不安を抱く者はいなかった。
そして実際にその通りであった。生半可な強さの魔物たちはわざわざ馬車に近づくこともなく、また臆することなく近づいてきた魔物はアンジュの炎により一掃されていた。
「ふぅ、手応えのない魔物しか出てこないわね。ま、王都までの整備されている道の周囲だし、こんなものなのかな。」
十を超える魔物の群れを一掃しておいて、涼しい顔をしているアンジュ。カヤたちはアンジュが倒した魔物に近づき魔石を回収していく。
「はっはっは、頼もしいな。回収した魔石は王都で換金すると良い。学生になれば寮での生活になるし、これからの冒険にもお金は必要だ。」
馬車から顔を出したハイベルは周囲の安全を確認しつつ、カヤたちが魔石を回収するのを眺めていた。
なんの危なげもない旅路はあっという間に過ぎ去り、カヤたちの前方には王都を囲む外壁が見えてきた。
「父さん、あれが…。」
「ああ、アンジュのおかげで順調すぎるくらい順調な旅だったな。あれが王都≪カナル≫だ。」
初めて王都を見るカヤたちはその大きさに目を見張る。≪カルソト村≫と比較することなんてできるほどもない建造物の大きさ。≪カルソト村≫で育った少年少女たちは初めて感じる広大さに感動し、大人組は懐かしの王都に浸っていた。
周囲の魔物たちの脅威から身を守るために王都の周りは高い外壁で囲われている。王都の中へと入るには、その外壁の数か所に用意されている門を潜って中へ入るしかなく、もちろんそこを潜るには衛兵たちの許可が必要であった。
カヤたちのように入学に向けて王都に来る者や、商売をしにやって来る者、観光をしに来る者たちが門の前に列を作っている。
「次の者、前へ。」
門の前にできている長蛇の人の列に並ぶこと数分、いよいよカヤたちが乗る馬車が衛兵たちに呼ばれる。
「衛兵たちへの対応は私たちの方でするから、子供たちは馬車の中で待っていなさい。」
ハイベルがリアを連れて、馬車の外へと出る。
「王都へは何の目的で来られましたか。」
「村の子供たちが≪学校≫へと入学するために。私たちはその保護者です。」
「なるほど、分かりました。ではこれから馬車内の荷物や身に着けている物の検査を行いたいと思います。もしくは何か身分を証明できるものを私に見せていただいてもよろしいでしょうか。」
「あぁ、すまない久しぶりの王都で忘れていた。これでいいかな。」
そう言うと、ハイベルは自身の首にかけているネックレスに手をかけた。チェーンの先は服の中へと隠れていたが、服の中から取り出したそこには1枚のメダルがかけられている。
ハイベルはそのメダルを見やすいように衛兵の顔の前へと手で持ち上げる。
「少しすみません。」
衛兵はハイベルが取り出したメダルの存在に冷や汗をかきながら、確認のためにメダルに顔を近づける。見た瞬間にそのメダルがとても貴重な代物だと理解できたために決して手で触れるようなことはしない。そしてメダルに書かれている模様、それが指し示す意味をしっかりと理解して衛兵は頭を下げた。
「確認が取れました。それはまさしく今代の国王ガルガ=アメジスト様が製造された≪国信のメダル≫。お連れ様ともども、どうぞ中へお進みください。お手を煩わせてしまい申し訳ございませんでした。王都に滞在中、何かありましたら遠慮なく我々に声をかけてください。」
その場に居合わせた衛兵たちが揃ってハイベルに頭を下げる。
後ろに並ぶ商人たちが何事かと騒ぐなか、ハイベルとリアを再び乗せた馬車は王都≪カナル≫へと進みだした。
「王都にも家があるのでしばらくはそこで全員に住んでもらう。ただ入学したあとは学生寮があるので、それまでの一週間ほどの期間だけになるけどな。入学試験は実技によるものだけなので、入学試験で落ちるようなことはないと思うが、くれぐれも油断のないようにしてくれ。今年落ちたら、来年まで入学試験は行われないからな。」
カヤたちの実力を知っているハイベルからすればなんの心配もない入学試験ではあるが、カヤたちの中には少しだけ試験に対して緊張感が生まれていた。
■
王都にあるハイベルの家は周囲の家と比較して一回り大きかった。大きな木がポツンと生えている広い庭に馬車を止め、家の中へと入る。すると、ハイベルたちを出迎えるように一人の女性が慌てて家の奥から走ってきた。
「ちょっとレイストンさん、来るなら来るって先に伝えといてくださいよ。急に玄関前に馬車が止まったと思ったらレイストンさんが出てきてびっくりですよっ!満足な出迎えもできずに、これじゃヨミがメイドとしてダメダメだと思われちゃうじゃないですかっ。」
「いやいや、そんなことはないよ。私たちが留守にしている間もこの家の管理を完璧にこなしていることは見れば分かる。君にお願いしておいて良かったよ、ヨミ。しばらくは王都で生活することになるが、これからも我が家のメイドとして雇われてもらえないだろうか。」
メイド服に身を包んだヨミと呼ばれた女性はハイベルの言葉に顔を喜ばせる。
「ヨミは、幸せ者です…。」
感激のあまり目尻に涙を浮かべるヨミであった。
「はいはいヨミちゃん、大袈裟すぎよ。私とゼンのことは分かるわよね。今回≪カルソト村≫からこっちへやって来た理由は、異能石関係でのトラブル防止のためと、子供たちが≪学校≫に入学するため。悪いんだけどヨミちゃん、いくつか開いている部屋へとこの子たちを案内してもらってもいいかしら?」
「任せてくださいリアさん。ヨミはできるメイドですから何でも言ってください!空いている部屋だらけなので、これから案内するところで気に入ったところがあればそこを使ってくださいね。」
カヤたちを連れて、家の中の案内を始めるヨミ。
「さて、私たちはあの異能石の置き場所を考えないとな。」
「そうね。いつ襲撃されてもいいように厳重に保管しときましょう。《カルソト村》の時とは違って、この場所なら遠慮なく襲撃者を撃退できるもの。」
家にかけられている防御機能が稼働していることを確認するリア。
「それでは、私も隣にある診療所の方へと荷物を下ろしてきます。」
ハイベルの家の隣に立つ白くて丸い家が王都でのゼンの診療所だ。この家も、ゼンが留守の間はヨミが管理を行っていた。
「異能石を保管したら、スイレンへの手紙を書かなくてはいけないか。あの子たちが入学してスイレンが驚く様子が目に浮かぶな。はっはっは、いつの間にか私にも気づかない速度で成長していく。」
冒険者のレベルを知っているハイベルやリア、ゼンにとってはカヤたちの実力が既にトップレベルであることは理解していた。それ故に、ギルド関係者の知り合いに紹介すれば《学校》への入学を飛ばして冒険者になることも可能であっただろう。
「だが、世界は広い。知識をつけ、交友関係を広めることは悪いことじゃない。」
ふっと独り言のように呟くハイベルのことをリアとゼンは微笑ましく見つめていた。




