2-19 目覚め
≪ミュール村≫の村人たちによる宴会も終わり、カヤは壊れかけてしまった家にてガルーダとベイとともに一晩を過ごしていた。
このことについてガルーダとベイはともかく、半壊してしまった家にカヤを泊めることに村人たちからは大きな反対が上がった。ただ当事者であるカヤの希望ということもあり、村人たちはそれ以上強く言うことはできなかった。
カヤとガルーダの戦闘の余波を受けて半壊してしまった家は多い。村長であるララロワの家である集会所もまた壁が崩れ家の中がむき出しになってしまっていた。ララロワのように無事な家を利用させてもらうもの、酒の飲みすぎでそのまま地面の上で眠るもの、様々であったがその表情はみな笑みを浮かべて幸せそうに眠っていた。
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翌日、朝日が昇るとともにカヤは出立の準備をする。アレスに置き手紙を残してきたとはいえ、さすがにそろそろミレアあたりが心配しだすだろうとカヤは考えていた。
「カヤさん、村のみんなが見送りにきてますぜ。」
ガルーダが壊れた家の隙間から外を指さす。朝早い時間だというのに、村人たちが揃って見送りにきていた。
「もう帰るのかの。」
先頭に立つララロワがカヤに声をかける。カヤも家の中から外へと出て、村人たちの前に進み出る。
「ああ。ちょっと村のみんなが心配しだすかもしれないから、そろそろ俺は帰るよ。≪魔の森≫に入れたことや、ザワロワと出会えたことは良い経験になった。もしまた俺の力が必要になったらいつでも呼んでくれ。」
カヤの言葉に村人たちから安堵の声が漏れる。カヤほどの男が助けてくれることに、村人たちには安心感が生まれていたのだ。
「嬉しい言葉じゃが、カヤ殿は人族だ。人魔戦争が勃発すれば、おのずとカヤ殿は人族のために戦うことになるであろう。ただこれだけは覚えていて欲しい。我らはカヤ殿に対してこの先、敵意を向けることは断じてない。≪ミュール村≫を救ってくれた英雄として、我らには一生かかっても返せないほどの恩がある。何度でも言うが、助かった。本当にありがとう。」
ララロワの言う人魔戦争とは、その名の通り人族と魔人族との対立による争いのこと。魔王がいない今は休戦状態であるが、魔王が誕生すれば魔人族は魔王の意思に従い人族へと争いを仕掛けるのだ。魔王が誕生する度に、争いは確実に起こり、長い歴史の中で幾度となく人族と魔人族はお互いを殺し合ってきていた。
故にもしまた人魔戦争が勃発すれば、カヤほどの実力者であれば戦争に参加させられることになるであろうとララロワは思い、先ほどの決意を口にしたのだ。
「カヤ、私からもいいかな。最初にあった時からカヤは私が魔人族だとか一切気にせずに私に接してくれた。ううん、それどころか命を助けてもらってる。それに、≪ミュール村≫もカヤに救われた。………、ねぇ…、図々しいことだとは分かってるんだけど、それでもさ、もし私が人族と戦うことになったらさ、…カヤは、私をまた助けてくれますか?」
ララロワの隣に立つザワロワの目から涙が零れた。あまりにも自分勝手な物言いだとザワロワ自身は理解していながらも、それでも考えてしまう。種族が違うからという理由だけでカヤとの関係を終わらされたくはないから。
「何があろうと俺は俺の守りたいもののために戦う。以前にも言っただろう。俺の望む未来にザワロワの悲しみは不要なんだ。もしこの村が、ザワロワが、人族のせいでピンチに陥るというのなら俺は躊躇せず、ザワロワの助けになるよ。でも、人族の中にも守りたい人はいるから、その人と対立するのはできるだけ避けて欲しいけど。」
「……それって、あの赤い髪の女の子?」
目に涙を浮かべながらザワロワの視線が強いものへと変化する。ジロリ、と睨むような視線にカヤも困惑してしまう。
「そ、そうだね。なんで俺睨まれてるの?」
両手を上げて敵意がないことを示すカヤだがザワロワの視線がどんどん鋭いものへと変化していく。
「むむむむむ……。」
「えっと、ザワロワ?」
涙を浮かべながら睨んでくるザワロワの意図が分からず、どうしようかと思っていたところで助けが入る。
パチンッ
ザワロワの頭を隣にいたキュールがひっぱたいたのだ。
「ザワロワいつまで唸っているのよ。カヤさんも困っているじゃない。」
「…キュール?」
キュールに叩かれ落ち着いたザワロワは先ほどのカヤとのやり取りを思い出し、顔を真っ赤にすると、「ごめんなさい!」と大きな声で謝りその場にうずくまってしまった。
「いつから急にこんな乙女チックな女の子になっちゃったのかしら。ごめんなさいね、カヤさん。でも、さっきの言葉を聞けて嬉しかったわ。ザワロワがこうなっちゃうのも分かるくらいに私にもキュンときたから。」
「そうじゃの。できれば戦争など起きることなく平和に過ごせるのが一番なのじゃがな。カヤ殿、いつでも遊びに来てくれて構わないからの。」
「カヤさん、俺とベイもこの村できっちりと鍛錬を積んでおく。次会う時を楽しみにしていてくれ。」
ガルーダも家から顔だけ出し、カヤへと声をかける。
「じゃあね。昨日の夜は色々な物まで貰ったし、美味しい料理もありがとう。また来るよ。」
一通り挨拶も済んだということで、カヤはヴォイドに≪カルソト村≫の近くまで時空移動をしてもらうようにお願いする。
「うん、…任せて。」
実際に聞こえるわけではないが、ヴォイドが頷く。
ヴォイドがカヤを別時空へと引っ張る直前に、うずくまっていたザワロワが立ち上がりカヤへと手を振った。
「ありがとねカヤ!!大好きっ!!」
ニッコリと歯を見せて笑うザワロワの笑顔を最後にカヤの体はヴォイドの作り出した時空へと移動した。ヴォイドによる時空を介しての移動は、≪ミュール村≫と≪カルソト村≫の間にある距離をほとんど無視して移動できる。ヴォイドによって≪カルソト草原≫へと移動してきたカヤは空を見つめ大きく伸びをしたのだった。
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「っ!!お目覚めでございますか、アウローラ様。」
窓のない真っ暗な部屋の中央に鎮座する宝珠。部屋の掃除を行っていたサイカが宝珠に意思が宿ったことに気づき、その場に跪いた。
「サイカか、久しいな。余の体に見合う器が発現したようだ。余が眠りについてから、何年が経った?」
「十七年と三か月です。」
「そうか。となれば、前回余を倒したあ奴らも生きておるであろうな。それは良い、この前の借りを返すチャンスというわけだな。」
「次は私たちも同行いたしましょうか?」
「必要ない。これは余の遊びだ。お前たちの役目は余の体が戻った時にこそ発揮してもらう。それで、他の者はどうした。」
「はっ、アナシアは引き続き森の管理を。レオンはアウローラ様のお体を探して各地を転々としております。シエレについても、…おそらくレオンと同様にアウローラ様のお体を探しているかと思われます。」
「そうか。苦労をかけるが引き続きよろしく頼む。器が完全に成すまでもうしばらく。次の遊びが始まるまで、しばらくここでゆっくりさせてもらおう。」
2章終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございました。
章の途中途中で更新が止まるのもあまり良くないので、3章も途中くらいまで書いてから投稿するようにいたします。
3章は、王都に場面変わって学校での話になります。




