2-17 ≪ミュール村≫のもてなし
「弟子にしてくれ。」
契約を終えた後、拘束を解かれたガルーダとベイはカヤの前に土下座していた。
困惑するカヤに向かって、再度同じことを口にする。
「弟子にしてくれ。」
「そう言われても、さっきも言ったけど俺は人族だし、自分の村にも戻らないといけない。…うーん、そうだな。たまにここに来た時だけ、稽古をつけるとかでもいいなら。」
「それで構わない。カヤさんに言われたように異能力に頼らなくても戦えるように鍛錬をしていくつもりだ。」
いきなり口調が変わったガルーダに戸惑いつつも、カヤは「まぁ、それならいいよ。」と承諾する。
「おお、そうか。よし、ベイ。これからの俺たちはこの村のために働きつつ、カヤさんに少しでも近づけるように今まで以上の鍛錬をこなすぞ。」
「はっ。」
自分以上の強者を求めていたガルーダにとって、カヤとの出会いは今までの自分の価値観を大きく変える出来事であった。強者と思いあがっていた頃の態度を改め、カヤへと憧れを抱く。
ガルーダのそんな様子を眺めているカヤに近づく気配。それを感知してカヤは後ろを振り返った。
「いやはや、本当にどれだけ感謝しても、し足りない。カヤ殿、この村にとって貴方様は救世主であり英雄じゃ。本当にありがとうございます。今日は泊まっていってくれんかの、村で最高のもてなしをさせて頂きたい。」
日の光を通さない霧で覆われた≪魔の森≫内部では時間の感覚が分かりにくいが、カヤにもなんとなく夜が近づいているのが分かる。
ただでさえ危険領域である≪魔の森≫を夜に移動するとなれば、それ相応の覚悟が求められる。カヤは少しばかり疲れたことを自覚すると、ララロワの提案に素直に頷いた。
「じゃ、そうさせてもらおうかな。」
うぉおおお!!
カヤの承諾の返事に盛り上がるのは村人たち。それぞれがカヤに最高のもてなしをするために気合を入れる。
「そうと決まれば、まずは料理だ。腕がなるぜ。」
「武器や防具も必要な物があれば、好きなだけ持って行ってくれ。」
「今まで踊りの練習なんて、なんの意味があるのだろうと思っていたけど、この日のためだったのね。カヤ様に最高の踊りを提供しなくては。」
「ふぉふぉ、この村にある数少ない過去の文献もカヤ殿が必要とあれば好きに貸し出そう。」
「お土産もたくさん用意しなくては。今、用意できるだけの全ての品をかき集めるぞ。」
「合唱隊。カヤ様に最高の唄声を。」
「≪魔の森≫特有と言われている薬草もいくらかある。人族であるカヤ殿に珍しいものであろう。是非持って行ってくれ。」
「この≪マッジクバッグ≫も持って行ってくれ。冒険には役立つこと間違いなしだ。」
「カヤ様は十五歳なのですね。でしたら、同年代の私たちが一生懸命、夜のお相手をさせていただきます。」
「カヤの兄ちゃんすげぇな。あんな怖いやつ相手にびびらずに立ち向かうなんて。特別に俺たちの秘密基地を教えてやるぜ。」
「いつでもまた来てもらえるように、この村にカヤ様の家を建てよう。村長の家よりも立派に豪華に盛大に。」
「人族なら≪魔王城≫も気になるのではないですか。現在は≪魔王なき魔王城≫ですが、見たいというのであれば、拙者が案内しよう。歩いて六日はかかりますが。」
「この村で採れるとびきり美味いフルーツ、≪カキナシ≫だ。是非食べてくれないか。」
「この村で治癒院を経営している者です。もし怪我などがあるようでしたら、治癒させていただけませんか。もちろん無料です。」
「この村の近くにある≪ユアの泉≫の水も最高に美味しいのです。村にある分でしたら、好きなだけ持ち帰ってください。」
それは感謝の洪水。
今までの絶望から解き放たれた反動からか、村人たちは我先にとカヤに対して話しかける。村人たちに囲まれ四方八方から話しかけられるカヤは、困ったように笑うのだった。
「ほらほら、そんな一気に話しかけても聞き取れないわよ。まだ時間はあるのだから、みんな落ち着いて。」
カヤに話しかける村人たち、特に若い女性たちとの間に入るとザワロワがパンパンと手を叩きながらみんなを落ち着かせる。
それを機に順番に話しかけ始める村人たち。カヤは村人たちから贈られる感謝の品を順々に受け取っていった。この時に役立ったのが、村人の一人から渡された≪マジックバッグ≫だった。カヤが背負える大きさのバッグでありながら、その容量は見た目と一致していない。≪ミュール村≫を丸ごと収納しても余裕のある容量を持つ≪マジックバッグ≫であった。
順番にカヤへと感謝を伝えていく村人たちだが、その中で若い女性の集団だけがザワロワによって動きを封じられていた。
「ちょっとザワロワ私たちもカヤ様にお礼をしたいのだけど。」
「お礼するだけならいいけど、さっき余計なこと言ってたでしょ。」
「あら、顔を赤くしてどうしたの?ザワロワも混ざりたいなら混ざればいいじゃない。ザワロワを含めても五人なら、いけるわよ。あの強さなら精力だって底なしのはず。私たちが果てるのが先か、カヤ様が尽きるのが先か、そういうのも楽しそうじゃない、うふふ。」
「ななんあな、ま、待て。待って、ダメ、絶対ダメーーッ!!」
カヤの知らないところで繰り広げられる女の戦い。
なんとか力業で盛んな女性たちを気絶させたザワロワは静かに安堵するのだった。




