2-16 静かに生まれる魔王候補
ガルーダが敗北を認めたことで、激しかった戦いも終わった。
≪ミュール村≫からの要求は、村の復旧の手伝い。それから主従契約であった。
「…あぁ、分かった。俺たちは敗者だ、好きに使ってくれ。」
ボロボロの体でガルーダは要求を受け入れた。
そして現在、村の中で村人たちにガルーダとベイは囲まれていた。一応、抵抗できないようにロープで体を縛られているが、二人が本気で抜け出そうと思えば意味の無いものであろう。
故に、おとなしく縛られたままでいる現状こそが二人に抵抗の意思が無いことを示していた。
「へぇ、【治癒士】だったんだ。」
縛られながらも、ベイの異能力がガルーダに向かって発動される。ボロボロだった体に向かって、ベイの手から放たれた光が吸い込まれていく。
ガルーダを担いで村まで戻ってきたベイが、村人たちに土下座して頼み込んだことがガルーダに対する治癒の行使であった。自らの異能力が【治癒士】であることを明かし、いつまでも主が傷ついたままでいるのを見ていられないと。
縛った後ならということで、ララロワがこれを了承した。
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「すまんなベイ。助かった。」
「いえ、先ほどの戦いでは私は何の役にも立てませんでしたから。これくらいのことは。」
治癒を終えた二人。
おとなしく様子を見ていたララロワもついに口を開いた。
「それではいいかの。おぬしらからは既に戦意は感じられないが念のためじゃ。悪いようにはせんから、素直に契約を受け入れてもらうぞ。」
「ああ。」
カヤも村人たちに混ざって様子を見ていたが、ガルーダとベイからは確かに戦意が感じられなかった。素直に負けを認めている様子だ。
ララロワが次いでザワロワに視線を向ける。
「ザワロワ、頼んでもいいかの。」
「え、私!?おばあちゃんがやった方がいいじゃん。」
ララロワからの頼み。それは、主従契約の発動を任すという意を含んでいる。ザワロワもてっきりララロワが主従契約を発動するものばかりだと思い込んでいたために驚き、声をあげる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺たちはそこの男に負けたんだ。あまり文句を言うつもりはないが、できればそこの男と契約を結ばせてほしい。」
これに異を唱えたのがもう一人。おとなしく縛られていたガルーダがカヤの方に顔を向けてまくしたてた。
「ん…?なんじゃ、おぬし戦っていて気付かなかったのか。」
「どういうことだ。」
ララロワの態度に疑問を感じるガルーダ。
そんなガルーダにカヤははっきりと事実を口にした。
「悪いね、俺は人族なんだ。だから、主従契約の発動もできない。」
「……、は?」
カヤの言葉をすぐには受け入れらず、ガルーダとベイは困惑する。そもそも≪魔の森≫内部に魔人族以外の種族が侵入することはできない、という前提条件があるので二人の反応は当然の反応であった。
そして、カヤの言葉を受け入れた時、ガルーダは面白おかしく笑い始めた。
「アハハハハッ、信じられるかっ!信じたくねぇけど、なるほど、それが真実だってのか。アハハハハハ、ひでぇな。これが笑わずにいられるかっての。なんだ、じゃ俺は人族相手に純粋な殴り合いで負けたってのかよ。アッハッハ。なぁベイ、俺たちが最強だなんて考えていた世界は、とっても小さな世界だったようだ。あーひでぇ、これは本当に笑えない。」
「いや、そもそも人族がここにいることこそが不可思議。ですが、そうですね。ガルーダ様を上回るほどの人族など、こちらの常識で考えられる存在ではないということですか。」
ガルーダとベイは、痛感していた。
計り知れないカヤを目の前にして、最強だと信じていた自分たちがいかに狭い世界で驕っていたのかと。
「そういうわけじゃ。そして、この人族の男カヤ殿を連れてきてくれたのがザワロワじゃ。おぬしらと主従契約を結ぶものとしては適任じゃろう。」
ガルーダはザワロワに視線を向けた。
「そういうことか、なるほどな。ザワロワといったか、構わねぇ、俺たちは契約を受け入れる。」
ガルーダがザワロワに向ける視線には敬意が少なからず含まれていた。
「分かったわ。主従契約は私が行うわよ、後から文句言わないでね。」
こうして、ザワロワはガルーダ、ベイの順で主従契約を結んだ。
「安心してね。また村を襲おうとかしない限りは意味もなくチカラを吸い取ったりしないから。」
「ああ。」
そしてこの時、魔王候補でもあったガルーダを従者に加えたことでザワロワの魔力は大きく増加した。
ザワロワ本人は気づいていないが、この日各地で活動を続けていた他の魔王候補たちが静かに生まれた魔王候補の存在を確信する。その大きく膨れ上がった魔力の大きさだけで見れば、既に他の魔王候補を上回っていたのだから。




