2-14 圧倒
「くそがっ、なぜだ!?なぜ俺様の攻撃を受けて無傷でいられる!?」
「落ち着いてください、ガルーダ様!きっと村人の中に腕のたつ【治癒士】がいたのでしょう。先ほどの攻撃で無傷などありえません!!」
怒りと焦り。渾身の一撃をくらわせたはずのカヤが何食わぬ顔で復帰したことにガルーダとベイの表情が曇る。今までの余裕の態度は微塵もなくなっていた。
「あ、ああ。そうだな、それもそうか。…まぁいい、やつが倒れるまで殴り続ければいいだけだろっ!」
不安をかき消すように強気な言葉で自らを奮い立たせるガルーダ。崩れた集会場の中から出てきたカヤに向かって全力で突進する。
「ベイッ!!俺様の攻撃に合わせろ!」
「ええ、もちろんですとも。」
異能力を封じられているせいで爆発を利用した突進はできなくても、ガルーダの鍛え上げられた肉体は弾丸の如くカヤへと突進する。右手を振り上げたまま鬼気迫る表情でガルーダは目の前で佇むカヤに最大限の警戒を向ける。
(避ける気がないのか!?なぜ一歩もうごかねえ。)
カヤの態度に疑問を覚えつつも、ガルーダにとって油断はない。
「ベイッ!!」
後方に控えるベイへと声をかけるガルーダ。ガルーダの合図を受け取ったベイは待機させていた術を発動させた。
「影流れ、倍。」
ベイの足元から黒い影が地面にじわりと広がる。その影は次の瞬間、ガルーダへと向かって真っすぐに伸び始めた。そのスピードやすさまじく、瞬く間にガルーダの影へと合流した。
ギュインッ!!
その瞬間、ガルーダの体が空気を切り裂くほどの異様なスピードへと変化した。まるでその場から消えたかのようなスピードになったガルーダは勢いそのままにカヤへと突進する。
「くたばりやがれぇぇ!!」
もはやガルーダにも制御できないスピード。ただひたすらに真っすぐカヤへと向かって突き進むその巨体だが、
ズシンッ
「…………ッ!?」
ガルーダは自らに襲い来る衝撃で自らが停止していることに気づいた。
「は?」
ガルーダの顔に驚愕が浮かぶ。目に移りこむ景色が信じられず、体中にゾワッと寒気が走る。
何事もないかのように平然とガルーダの突進はカヤによって受け止められていた。
「何が起こって…る?……てめぇは【不許可者】じゃねぇのか?なのに、なぜ俺様の突進をそんな簡単に受け止められる!!」
ガルーダの中に恐れが広がっていく。今まで出会ってきた猛者とは比べようもないほどに異様な存在を前にして魔王候補者であることも忘れ、逃げ出したい衝動に駆られていた。
「いや、だから【不許可者】じゃないんだけどね。…まぁそれはそれとして、あれくらいの突進だったら受け止められるよ。さっきと違って無防備ってわけでもないんだし。」
ガルーダの巨体をたった二つの腕で抑え込んだカヤ。カヤにとっては当たり前の出来事であったとしても、相対する魔人は戦慄しているのだった。
(この俺様が圧倒されている…だと!?ふざけるな、ふざけるなよっ!!)
「うおぉぉおおおっ!!」
自らを襲う恐怖を誤魔化すようにガルーダは雄たけびをあげる。後ろへとジャンプし、カヤからいったん距離をとる。
「ベイ、全力で行くぞ。コイツは今まで戦ってきたやつとはレベルが違う。」
「はっ。かしこまりました。」
ベイの体から高濃度の魔力が発せられる。
その魔力を手に纏わりつかせながら、その場でしゃがむと手のひらを地面につける。
「影分身。」
地面からゆらりと、ベイの形をした黒い影が浮かび上がってくる。そして、影に色がつき始め、ベイの姿が二つになった。
「へぇ、面白いな。異能力じゃなくて魔力による芸当でそこまでできるんだ。」
目の前で起きている現象を興味深そうに見つめながら、カヤはベイの術が魔力によるものであると見抜いていた。人族と魔人族の大きな違いの一つでもある魔力の有無。ガルーダは魔力によって身体強化を施してあり、ベイは魔力によって影を自在に操るようになっていた。
「ガルーダ様、私がヤツの隙を作ります。」
「ああ、頼むぜベイ。」
ガルーダの返事と同時に、ベイと分身がカヤに向かって跳躍する。カヤを挟むように左右に位置取ったベイは懐からクナイを取り出すや2人同時にカヤへと迫る。
「いくらお前が強くても、逃げ場のないクナイ攻撃は避けきれないだろう。」
左右から怒涛の攻撃がカヤを襲う。右から来るベイの攻撃を躱そうとすれば左から来るベイの攻撃は躱せない。緻密に計算されているであろうベイの攻撃。
だがその攻撃は、カヤの前では無意味だった。
左側からカヤへと迫るベイの分身が突如として姿を消したのだ。それを確認したカヤが右から来る本物のベイのクナイを体をひねって避ける。
いきなりのことに状況を理解できないベイは、カヤの反撃に対して回避が間に合わなかった。
「そんな馬鹿な、私の分身は異能力ではありません。【不許可者】で対処できないはずですっ!」
「だから言っているだろう。俺は【不許可者】じゃないって。ま、どう考えるかはお前たちの勝手だが、ザワロワを悲しめた報いはしっかりと受けてもらうよ。」
回避行動が間に合わないベイに向かって、ひねっていた体を元に戻す勢いで右手を突き出した。目を見開いているベイの顔面めがけて迫るカヤの拳は、しかし頭上から落ちてきた者によって遮られた。
「ぐふぁっ!」
カヤとベイの間に巨大の図体を割り込ませ、ベイを守った代わりに自らの腹へともろにパンチをくらってしまうガルーダ。
「ガルーダ様っ!!」
ベイが悲痛な叫びをあげる。
「安心しろ、無事だ。それより今しかない。行くぞベイ!」
無事であるはずがない。口元から血を流すガルーダを見て、ベイは怒り実行する。ガルーダに傷を負わせてしまった自らの不甲斐なさに激怒しつつ、ガルーダを信じてベイは術を発動する。
「影固定。」
ガルーダの巨体でカヤの視線から逃れるように、ベイは術を完成させる。ベイの手から発生し地面を伸びていく影は、しかし途中で何かに遮られるように消滅した。
「なっ!?ガルーダ様、ダメです!!失敗です。」
慌てふためくベイであったが、ガルーダは既にカヤへと向かって動いてしまっていた。もうここから別の行動に移ることはできない。ベイはガルーダと相対するカヤへと視線を向ける。
(こっちを見てる……?)
ベイの目に映ったのは興味深そうに自分のことを見つめている敵に姿だった。
カヤはベイが何かしたのには気づいていた。今まさに殴りかからんとするガルーダをよそに視線はベイの方へと向いていた。
(んー、さっきやれらた動けなくなるやつかな。それにしても本当に色々できるんだな。俺の中にも今じゃザワロワの魔力が流れているし、鍛えれば俺も魔力を操れるようになるのかな。)
ドンッ
カヤがそんなことを考えている間に、ガルーダの拳はカヤの体を殴り飛ばした。




