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昇る沈没者  作者: 安来 光
第2章 魔の森突撃編
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2-12 村の願い

ズドンッ


 ザワロワや村人たちが見つめているなか、カヤの体は集会場である建物の壁を突き破る勢いで吹き飛ばされた。あまりにも突然の決着に息を呑む村人たち。


「カヤッ!!」


 ザワロワは自身の拘束が解けたことに気づき、体を起こす。あのキメラを圧倒してみせたカヤが吹き飛ばされる光景に驚きを隠せないまま。


「ギャハハハハハ、結果的に二対一になっちまったが卑怯だなんて野暮なことは言ってくれるなよ。強さってのは勝ってこそだ!勝利こそ俺様の強さの証明になる。」


「その通りでございます。ガルーダ様は強く、負けることなどありえません。」


 最も脅威であったカヤの排除に気分を良くするガルーダとベイ。ザワロワやララロワも弱くはないが、それでもガルーダにとってカヤほどの脅威は感じられなかった。それゆえザワロワやキュール、村のみんながカヤの安否を確かめるために集会場へと駆けているさまを笑って眺める余裕が生まれていた。ガルーダの渾(・)身(・)の一撃を無防備で受けて無事でいられる者などいるわけがないと。


■


 散乱している集会場の中でカヤは先ほどのことを思い返していた。カヤの動きを拘束したベイという魔人の能力。


(あれは異能力じゃないな。異能力とはまた別の何か。厄介だが、対処はできそうだ。)


 自身の異能力である【沈没】の不条理さに苦笑いしながらもカヤは拳を握る。あ(・)の(・)程(・)度(・)の一撃で助かった。傷は負ったが、大したものではない。これならまだ戦える。


「カヤッ!!」


 壊れた壁の隙間からザワロワが中へと飛び込む。次いで、キュールにララロワ、村人たち。


 心配そうな顔で勢いよく抱き着いてきたザワロワをカヤは受け止める。


「ごめん、俺は大丈夫だから。」


「当り前よ!!キメラの時も今も、カヤは私に一回は心配かけないといけない病気にでもかかっているの!」


 あはははは、と頬を指でかくカヤ。ザワロワの最もな言葉に返す言葉がなかった。どちらもカヤの油断からくる失態であったのだから。


「カヤ殿、であったか。少し話がしたいのだがいいだろうか?ザワロワも少し落ち着きなさい。」


 そんな時、カヤとザワロワを見つめる集団の中から一歩踏み出す者が一人。


 『≪ミュール村≫村長』ララロワ=ミュルム


 その強い目にカヤも自然と緩めた気を張りなおす。抱き着いてきたザワロワをそっと体から離し、カヤはララロワと相対した。


「はい、なんでしょうか。」


「私の名はララロワ。この小さな村の村長をしている者です。まずは、私たちの村の戦いに巻き込んでしまったことへの謝罪を。そして、ザワロワとキュールを助けてくれたことへの感謝を。村を代表して私からあなたへ贈らせていただきたい。」


 頭を下げるララロワ。それに倣うように村人たちもカヤへ向かって頭を下げた。キュールもザワロワも、村長であるララロワに従ってカヤへと頭を下げる。


「いや、別にそこまでしてもらわなくても。俺はただ俺のやりたいようにいやっただけですから。」


 ララロワは頭をあげる。ジッとカヤを見つめるその目は、カヤを見定めているかのようであった。


「カヤ殿、あなたは人族ですね。」


 不意に告げられるララロワの確信めいた呟き。その呟きに村人たちの中から困惑が生じる。

 人族が≪魔の森≫内部にいることもそうだが、その困惑の大部分は人族が魔人族である自分たちを助けてくれたことに対してだった。


「そう…ですね。確かに俺は人族です。ですが今、この状況で種族など関係ないでしょう。俺がここに来た目的は魔人族と争いたかったからではありません。ザワロワを助けたかったから。初めて会った時からザワロワは悲しそうな顔をしていたんです。大切なものの為に、ザワロワはとても全力だった。俺はザワロワの優しさを知り、悲しみの理由も知った。だから、ここに来たんです。」


 カヤの言葉を聞き、村人たちから困惑の表情が少しずつ消えていく。


「私はただ確認をしたかっただけです。最初からあなたを疑ってなどおりませんよ。中にはあなたを人族と知り、狼狽えた者もいたでしょうがご容赦下さい。なにせ人族と魔人族の間には大きな溝がある。簡単には埋めることのできない大きな大きな溝です。それゆえ、」


 ララロワが一旦言葉を区切る。息を吸い、カヤを見つめる両目に力が込められる。


「それゆえ、人族であるあなたに託すのはおかしな話でもございますが、ザワロワからの願いを。村の願いとして受け取ってはもらえないだろうか。どうか、この村を助けてはいただけないでしょうか。」


 再び頭を下げるララロワ。震えながらカヤに願いを託すその声はザワロワにとても良く似ていて。


「今さらですよ、ララロワさん。ザワロワとも約束してますし、ここまでやっておきながら途中で逃げるなんてマネできないですよ。」


「感謝を。」


 村人たちがさらに深く頭を下げる。ザワロワから託された願いは今、≪ミュール村≫の村人全員へ膨れ上がり、そして――


 カヤはしっかりと受け止めた。

 村の願いを。


 

ザワロワは頭に角が生えているのでパッと見で魔人族と判断できましたが、魔人族であっても角が生えていない者もいます。人族と魔人族は見た目だけでは簡単に判断できない場合もあり、ガルーダもカヤが人族であることには気づいていませんでした。

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