2-幕間2 優秀者と留年者
「二年生、エクス=ガードニック。前へ。」
「はい!」
ニューワールドの挨拶が一通り済んだところで、一人の男子生徒の名が呼ばれた。この学校の生徒で彼のことを知らない者はいないだろう。この学校で最も成績の優れている生徒、それがエクス=ガードニックだった。
静まり帰る会場にエクスの足音がコツコツと鳴り響く。生徒たちの中をゆっくりと歩く彼の姿には羨望の眼差しや嫉妬、憧れ、といった様々な感情が向けられていた。
整った顔つきに短く切りそろえられた金髪。全てを見通すかのような透き通った碧眼を壇上にいるニューワールドに向けたままエクスは歩を進める。周りからの感情に構っている余裕もなく、目の前に佇む彼の目標と呼べる人物へと真っすぐに視線を注いで。
登壇するエクスの動きからは緊張している様子は見られない。それだけで、見る者には彼の凄さを理解できただろう。≪英雄≫の一人、ニューワールドを前にして平然とした動きができる者はそう多くなかった。
エクスとニューワールドが向かい合う。一方は真剣な眼差しで、一方は柔和な面持ちで。そして、柔和な面持ちであるニューワールドが口を開く。
「この一年、あなたは素晴らしい成績を修めました。これからも、より一層異能力の鍛錬を怠ることなく、輝かしい栄光を掴むことを私は期待していますよ。エクス=ガードニック、あなたへの祝福としてこれを。」
ニューワールドが差し出す手の中には綺麗な緑色の煌めきを放つ石が握られていた。ただの石であるはずもなく、その石からはまさにニューワールドその者と似たような力が発せられていた。
「校長…、これは。まさか異能石ですか!?」
「ええ、その通りです。これは私の知人から頂いた≪貯蔵≫の異能石。それに私の異能力を少し注ぎ込んだものです。割れば、一時的にあなたに私の異能力が付与される代物です。これまで成されたあなたの行いに、私はこの異能石を渡すに足りると判断いたしました。先ほどの言葉通り、あなたの活躍をこれからも期待しています。」
「あぁぁ…、なんとありがたきお言葉。エクス・ガードニック、誠心誠意あなた様の期待に添えるよう努力してまいります。」
エクスがニューワールドの前で跪く。そして、静かに両の手のひらを上へと掲げた。
フッと、ニューワールドは一呼吸置くと、差し出されたエクスの手のひらに異能石を静かに置いたのだった。
生徒だけでなく、講師や来賓達にとっても羨ましいと感じる光景は進級式が終わるまで皆の脳裏から離れることはなかった。
■
閉会式が終われば、それぞれパーティーメンバーで新たな依頼に出向く者、異能力の鍛錬に打ち込む者といつもの学校の日常に戻っていく。
校舎内を歩くエクスのパーティーも、新たな依頼を求めていた。クエストボードが置いてある部屋へと向かって歩く。
「なぁエクス、やっぱそれかなりの代物だよな。」
「あ、私も気になっていたんだよね。異能石ってめっちゃ高いからそうそう手に入らないし。」
「おいおい、そんな詰め寄ってくるなって。まぁそうだね、すごい…、と思うよ。だけど、これは校長からの贈り物だ。使わずにちゃんと保存しとかないと。」
「ははは、そう言うだろうとは思ったけどよ。まぁ、いざという時には使えるようにだけはしといてくれよ。」
「何を言っているんだケイヤ。使えるわけがないじゃないか。これは俺の宝物だ。」
「ちょっとー、私たちの命と宝物を天秤にかけるのはやめてよねー。」
エクスのパーティーメンバーであるケイヤとサンナ。緊張から解放されたエクスは、最も気の許せる仲間とさきほど頂いた異能石の話題で盛り上がっていた。
「そもそも、これを使うようなことにならないように、俺たちが普段から鍛錬を―――。」
盛り上がる三人を見つめる一人の少女。銀髪碧眼、少し幼さを残した顔つきからは考えられないほどの威圧が放たれている。廊下の角から現れたその姿にエクスが途中で言葉を切る。
「おめでとう、兄さん。私も見ていたよ。」
エクスたちを見つめるその少女は表情を崩すことなく口を開いた。
「ノレイアか。俺も聞いたぞ、留年だってな。お前が去年パーティーを組んだ人たちはどうなった。怪我だけで済めばまだマシ、中には学校を辞めていった者もいるそうじゃないか。」
「そうだね。力の弱い人たちは簡単に壊れちゃうから…。」
エクスの表情が険しいものへと変化する。エクスだけでなく、ケイヤとサンナの表情もノレイアを睨みつけるものへと変化していた。
「…それで今年も同じことを繰り返すのか。あまり家の名前を汚すようなら、俺の手でお前をこの学校から追い出すぞ。」
「………。うんうん、安心して兄さん。私はもう他人に期待するのをやめたから。私は一人でやっていく。」
「っ!!…そうか。勝手にしろ。」
ノレイアへと向けていた視線をはずすと、エクスはそのままノレイアを通り過ぎて去っていく。ケイヤとサンナも慌てたようにエクスの後を追いかけた。
「おいおい、いいのかよエクス。ノレイアちゃん、あのままにしといて。」
「そうよ。いっそのこと私たちのパーティーに入れちゃうとか。」
ケイヤとサンナがエクスの後ろから声をかける。遥か後ろに残してきたノレイアの最後の言葉、泣きそうな顔で悲しいことを話す一人の少女の顔を思い出して。
「ありがとな、ケイヤ、サンナ。だけど、俺たちじゃダメなんだよ。俺たちのパーティーに入っても、ノレイアが一緒に戦うことはできない。俺たちじゃせいぜいノレイアに抵抗するくらいしかできないんだ。…ノレイアにとって本当に必要なのは、俺にとってのケイヤやサンナであるように、一緒に協力しあえる仲間なんだよ。俺にはまだ、それだけの力はない。」
「「エクス…。」」
「っああ、クソッ!!」
沈んだ気持ちを吹っ切るように声を出すエクス。成績最優秀者と表彰されたところで、自分の妹一人救えない自分の弱さにいら立つ。
「行くぞ、ケイヤ、サンナ。少し手応えのある魔物と戦いたい。」
「おうよ。」
「りょーかい。リーダー。」
幕間終わって、カヤとザワロワの場面に戻ります。




