2-10 希望の登場
ザワロワの気配だけを頼りに≪魔の森≫を疾走するカヤ。進めば進むほど濃くなっていく殺気に加え、遠くからは爆発音すら轟いている。
「くそっ、間に合えよっ!!」
戦わなくても、目で見なくても、伝わる強者の波動。高速で駆けるカヤたち以外の全生命が静かにただじっと嵐が過ぎ去るのを待つかのように気配を消していた。
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キュールは目の前で優しくこちらを見つめてくれている親友の顔を見て、安堵し謝罪した。
「……ザワロワ、ごめん。」
せめて一人だけでも戦闘不能にしてしまえば、そう決意したキュールは異能力【透明化】を発動しガルーダの傍に控える白い忍装束のベイという男に向かって包丁を持って近づいて行った。しかし、キュールの決死の行動はガルーダが放った殺気を浴びただけで無残にも砕け散ったのだ。自らの体から力が抜けていく脱力感、自らの意思とは裏腹に動かなくなっていく体。異能力の維持すら不可能となったキュールの体は【透明化】が解けたことでその場に姿を現し、脱力しきったまま倒れこんだのだ。【透明化】の際に衣服を全て脱いでいたキュールは裸体を晒し、ベイに面白いように遊ばれた。助けに飛び込んできたザワロワの迷惑にしかなっていない現状にキュールは悔しい表情で謝ったのだ。
「キュールは何も悪くない。私はいつだってキュールに助けられているんだから。」
自らの腕の中で悔しそうに涙ぐむ親友の姿。若き乙女が衆目の面前で裸体を晒している羞恥よりも、足手まといになってしまっている悔しさに泣いているのだ。
村のために、一番の親友であるザワロワのために――
ザワロワは少しでもキュールの体を皆の目から隠そうとより強く抱きしめる。シャドーウルフの背から落ち、地面にたたきつけられたザワロワはその時感じ取っていたのだ。
もう一つのシャドーウルフの存在を。
(決して無駄なんかじゃない…っ!あなたの、村を思って動いたその行動は、決して!!)
腕の中で声を押し殺して泣く親友に声をかける。
「あなたのおかげよキュール。村のみんなが無事なのは全てあなたのおかげ。だから、ここから先は私を信じて。偶然出会えた希望を。」
「……?」
困惑するキュールであったが、ザワロワの言葉の意味を理解するより先に訪れる死の恐怖。ガルーダの放つ一撃必殺のパンチにキュールは自身の死を確信した。
―――ッ
刹那ともとれる時間の中でカヤはザワロワに迫る拳を受け止めた。
≪ミュール村≫に到着したカヤはシャドーウルフから飛び降りるとすぐに状況を理解し、そして躊躇うことなく自身の何倍もあろうかという大男の前に立ちふさがったのだ。
自身の背丈と同等程度の大きさもある拳であったが、カヤが前に突き出した両手はその拳をピタッと受け止めたのだ。あまりの大質量であるが故にカヤの周囲を風が突き抜ける。
カヤ自身とザワロワを除いて、この場にいる誰もがあり得ない光景に息をすることすら忘れて驚愕に目を見開いていた。
「遅すぎよ、カヤ。」
「ああ、ほんとギリギリとはいえ間に合って良かった。」
ガルーダもベイも、さらにはララロワたち村のみんなも状況を呑み込めない中、ザワロワとカヤの二人の間でだけ、今まで緊迫していたとは思えないほどのゆったりとした空気が流れていた。
受け止められらたガルーダ本人すらあまりの事態に驚愕し体が硬直してしまっているというのに、さも当然の結果だとでもいうザワロワの様子を理解できる者はこの場にはいなかった。
それでも、ザワロワのことを良く知るキュールはそんな異常事態の中でも、ザワロワが見せる穏やかな表情を見て気が抜けていくのが分かった。
(ああ、もう大丈夫なんだ……。)
ありえない現状の光景に加え、誰よりも信頼している親友に希望とまで言わしめるその男の登場に――。
ザワロワとキュールの年齢はカヤと同じ十五歳です。ちなみにアンジュとアレスも十五歳。ミレアだけ一つ下の十四歳になります。カヤ、アンジュ、ミレア、ザワロワは歳相応の見た目をしていますが、アレスとキュールに関しては他の人よりも成長速度が速く、二十歳前後のような見た目となっています。
さらに余談ですが、キュールは非常にスタイルも良いため平和を取り戻した後の≪ミュール村≫に住むキュールと同年代の男たちによって今回の裸体騒動が語り継がれていくことになってしまいました。




