2-9 道中
久しぶりの更新です。
――ザワロワが≪ミュール村≫へと到着する少し前
「それにしても本当に速い。すごいな、疲れることもなくこのスピードのまま走り続けるなんて。」
シャドーウルフの速さに対して改めて感心したカヤはシャドーウルフの毛並みをそっと撫でた。
「そうね。ただ駆けているだけでも速いわね。でも、シャドーウルフにとっての最速はこんなものじゃないわよ。カヤにはまだ出来ないだろうけど。」
「へぇ…、それは興味深い。」
速さだけでみれば既に今でもカヤを優に超えているシャドーウルフ。しかし、シャドーウルフにはその速さよりも上の速さが存在する。もはや速さというワードで一括りにするのもどうかという速さであるが。
カヤにとって未知の領域ともいえるスピードの持ち主。
カヤをわくわくさせるには十分であった。
そんな時――
少しの緊張感を持ちながらも、楽しく会話をしていたカヤとザワロワであったが、突然大気を震わす殺気に見舞われた。
ドッ
周囲の木々をも怯えさせる程の凄まじい殺気。カヤとザワロワの表情が瞬時にして一変する。木々の一本一本が、根本から葉先までみな一様に押し黙る、それほどまでにこの場に存在する生命に対して圧倒的なまでの殺気。
「近いな…。おそらく、この殺気を放った人物がザワロワの言ってた候補者のひと…り……?」
これほどまでの殺気を放つのは容易ではない。カヤの中でこれから敵対するであろう人物への警戒度が急激に上昇するなか、隣を走るザワロワの異変に気付いた。
ザワロワの体が地面に沈み始めたのだ。水面に沈むかのようにゆったりと、シャドーウルフごとザワロワの体が地面に沈んでいく。
「なにを…!?」
そう問うカヤの目に入ってきたのはひどく不安げな表情のザワロワ。カヤのことには目もくれず、ただただ前だけを一心に見つめていた。
(おそらく村にその候補者が到着したんだろう。あの慌てぶり、一刻の猶予もなさそうだな。)
シャドーウルフに跨ったままザワロワの体が完全に地面に沈み込むと同時にザワロワの気配が一瞬にして遠く離れた場所へと移動した。
カヤは知らなかったが、これこそがシャドーウルフにとっての最速である。
≪潜影≫と呼ばれるシャドーウルフの固有能力。影がある場所であれば、シャドーウルフは自らを影の中に文字通り潜ませる。影の中でシャドーウルフの障害となるものはなく、その速さは優に音を超えていた。
「はぁ、どうしたものかな。ザワロワのようにシャドーウルフごと地面に潜るなんて真似は俺にはできないし。」
ヴォイドによる時空移動にも明確な弱点が存在する。それは移動の全てをヴォイドが担っているという点である。対象者をヴォイドがいる時空へと招き入れる入り口を作り出し、任意の位置へと出口を作ることで可能にする瞬間移動にも似た芸当。
もしこの時、超スピードで移動するザワロワの動きを知覚できるほどの技量があれば――否、知覚しなおかつ動きを先読みすることがヴォイドに可能であったならば、時空移動によってカヤはザワロワの下へと瞬時に移動できたであろう。
「それもそうだけど、せっかくここまで一緒に来たのにコイツをここに置いてくのもなんかなぁ。だから、頑張ってくれよ。」
自身を乗せ高速で駆けるシャドーウルフに声をかけると、ザワロワの気配を頼りにカヤは一人≪ミュール村≫へと向かって≪魔の森≫を駆け抜けるのだった。
余談ですがザワロワの異能力【魔物召喚】によって召喚された魔物は基本的にその時点で、ザワロワの支配下に置かれます。ただし、ザワロワは自らの意思でその繋がりを絶つことができます。ザワロワとの繋がりを断たれた魔物は野生へと戻っていくわけですが、ヴォイドに関してはザワロワとの繋がりが絶たれた後ヴォイド自身の判断でカヤから離れないようにしています(別時空であるが)。
また、ヴォイドの召喚場所がキメラとの戦闘場所でなく≪ミュール村≫であったならば、ヴォイド自身が場所を知っているので出口を≪ミュール村≫に作り出すことが可能でした。




