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昇る沈没者  作者: 安来 光
第2章 魔の森突撃編
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2-8 ザワロワの戦い

「ザワロワっ!!」


 つい今しがたまでガルーダに凌辱されるのを覚悟していたキュールだが、親友の帰還に顔を喜ばせる。ララロワも、村人全員も彼女が無事であったことにホッと胸をなでおろした。

 「村を救う希望を見つけた」と言って飛び出していったザワロワ。集会所でザワロワの言葉を聞いていた村人たちは、そして期待した。ザワロワなら本当にどうにかしてくれるのではないか、と。実際ガルーダに相対してもその表情に絶望はなく、いつもの明るいザワロワそのものであったのだから。


 そのことを一番強く感じ取っていたのはやはり親友であるキュールだった。ザワロワと長い付き合いであるキュールは、ザワロワの性格を知っている。

 ――優しい彼女は決して村人が傷つくような行動はとらないことを。

 ゆえに、理解する。ザワロワがガルーダに対して敵対している現状そのものに。


(ザワロワには村人たちを守れる確信がある。それがきっとザワロワの言っていた希望なのだとしたら……、絶望なんてしていられないっ!!)


 先ほどまでの恐怖を頭から振り払う。そして、信じる。


「ザワロワ、助けてくれてありがとう!」


 手を挙げて答える親友の姿をそっと見守るキュール。ザワロワの魔力が村を飛び出す前よりも桁違いに増えていることもキュールを安心させる大きな要因でもあった。


 ザワロワの膨大な魔力はもちろん相対しているガルーダにも感じ取れた。自身に追いつかんとするほどの魔力量は後ろに控えているベイ以上だと。


「なんだなんだ、いるじゃねぇか。面白そうな奴がっ!!そうでなくちゃなぁ、こんなことをする意味がねぇ。俺様はただ戦いたいだけなんだよ。ほれ、見せてみろ。守りたいなら強さを示せ。」


「お前は確かに強いのだろう。だが、あれほどの戦闘を経た今、お前ごときに恐れをなす道理がない。――【魔物召喚】。」


 ガルーダは言い終わると同時に地面を軽く蹴る。それだけで、村人たちの目から巨体の姿が消えた。ザワロワに向かって目にもとまらぬ速さで駆けるガルーダ。足先から後方に向かって小さな爆発を起こすことで可能にする人ならざるスピード。ザワロワとガルーダの間にあった距離が一瞬でなくなっていった。

 そのスピードとその巨体。ぶつかるだけで人体など簡単に吹き飛ぶほどのパワーが発生する。だが、ガルーダの突進はそれだけに留まらない。触れると同時に爆発を巻き起こし、確実に対象者の息の根を止める。


「ふん、俺様を前にしてあの自身たっぷりな目が気に入らねぇ。怯えのかけらもねぇ、てめぇとの力量差を理解できねぇのか。」


 ガルーダに映るのはザワロワの顔。大抵の奴はこの一撃に為す術なく死んでいった。ガルーダをただパワーが強いだけと思い込みそのスピードに驚愕しながら呆気なく、いとも簡単に死んでいく。

 ガルーダにとってこの一撃は言うなれば試しである。この程度の攻撃で死んでいくような奴であるならば、楽しめる戦闘など望めるはずもなく。


「っ…………!?ほぉ、言うだけはあるな。」


 ザワロワとガルーダの目が合う。


 それはつまり、ザワロワには高速で動くガルーダが見えているということだ。


「忘れたの?私は、シャドーウルフに乗ってきたのよ。その程度のスピードで私が驚くとでも。」


 ザワロワがそう告げると同時、ガルーダの前に突如として壁が出現した。


「っがは!!」


 突然の出来事にガルーダは避けることもできず衝突する。体全身に襲う衝撃に戸惑いながらも、出現した壁を蹴るとすぐさま後ろへと飛びのく。


「なんだ、何を……!?」


 不意を突かれたとはいえ、ガルーダは自身が押し返されたことに驚きを隠せなかった。そして、目に映った光景に息をのむ。


「魔物、か?」


 ガルーダの巨体に匹敵するほどの図体。二足歩行をする大きなゴリラのような魔物。特徴的なのは、鍛え上げられた肉体を隠すほどに伸ばされたその白い体毛。胸元から足先まで、体をグルっと全方位から見ても同じように伸ばされた体毛が見えるだけ。

 ガルーダの突進を受けたにも関わらず、何事もなかったかのように平然としている。


「ホワイティリラはそもそも頑丈な魔物だけど、さらに硬度を増した≪上位種≫のホワイティリラには生半可な攻撃は通用しないわよ。」


「それが、てめぇの異能力か。――ベイっ!!」


 ガルーダの背後に控えていたもう一人の魔人がサッと動く。

 主であるガルーダの前に障害が立ち塞がることは許されない。ベイがホワイティリラに近づいた瞬間、触れることもなくホワイティリラは地に伏した。ホワイティリラ自身もなぜ自分が倒れたのか理解できない表情で。

 ズシンッ、と大きな地響きを立てて倒れこむホワイティリラ。ガルーダとベイ以外、その光景を見ていた誰もが目を疑う。――何をした、と。


「終わりです。ガルーダ様の覇道に汚れはいらない。この村ともども消えてください。」


 忍装束に覆われた顔から覗く目は怒りに満ちている。主であるガルーダが押し負けたという事実自体が許されざることなのだ。ベイの中で、この事実をなくすことは決定された。

 ――目撃者全てを消すことが。


「ホワイティリラに何したかは分からないけど、黙って頷くとでも!!」


 ザワロワの雄たけびと同時にブラックハウンドが出現する。ブラックハウンドはベイを視界に捉えると、その爪で切り裂こうと飛び掛かる。


「さっきのお返しだっ!!」


 だが、横から飛び出してきたガルーダが腕を一振りしたことで召喚された全てのブラックハウンドが消し飛んだのだ。ガルーダの攻撃に当たる当たらないに関わらず、飛び掛かった全てのブラックハウンドが内側から爆ぜてその身を散らした。


「悪いな。楽しい時間はここまでだ。ここから先は蹂躙だっ!」


「なっ!?」


 ザワロワだけでなく村人たちに向かって放たれた宣言。そこに込められた殺気は今までがお遊びだったとでもいうかのように膨れ上がっていた。

 ガルーダの殺気にあてられた村人たちの意識が飛んでいく。それほどまでに濃い殺気は、ザワロワの援護をしようと近づいていたキュールにとっても耐えられるものではなかった。


 キュールの異能力は【透明化】。読んで字の如く自身の体を不可視状態にすることで透明になれるといった異能力。ガルーダたちがザワロワに集中している間に透明化になったキュールは刃物を忍ばせそろそろとベイの背後に近づいていたのだ。

 余談だが、現在のキュールの異能力ではせいぜい自身と自身に触れている小物程度までしか透明にできない。衣服全てを透明にできるほどのチカラはないので、目につかないところに衣服は投げ出している。手に持っている包丁程度であればキュール自身と一緒に透明にできる。


 ザワロワが戦ってくれているのに、見ているだけなんてできなかった。せめて二人の内一人だけでも戦闘不能にすることができれば…、そう考えての行動だった。

 しかし、キュールの決死のその行動もガルーダの放った殺気で無駄に終わる。そもそもとして、姿は隠せても気配を隠せていない時点でバレていたのかもしれないが。


 ベイの背後へと近づいていたキュールはガルーダの殺気をもろに受けてしまったのだ。ガクンと体に力が入らなくなり、その場に倒れる。意識を保てているだけでも大したものであったが、そのような状態で異能力を行使することは不可能だった。


 衣服を全て脱いでいたキュールは全裸でその場に横たわる。


「っ……キュール!!」


 ザワロワが倒れたキュールに近づくよりも早く、ベイがキュールの髪を鷲掴みにして持ち上げた。キュールの手から刃物が滑り落ちる。


「これはこれは、ガルーダ様の殺気を至近距離で受けて意識があるとは。大したものですが、そのような恰好では示しがつきませんね。」


「ぅあ………、っ………。」


 薄れゆく意識を必死に繋ぎ止めながらキュールはベイを睨む。少しでも抵抗しようと手を動かすが、指先がかすかに動くだけだ。


「ガルーダ様どうしましょうか。この女、確かに良いものを持っていますが。」


 ベイがキュールの髪を掴んだまま左右に揺らす。それにつられてキュールの胸元で揺れる二つの果実を面白そうに眺めながら。


「そんなものにもう興味はない。捨てておけ。」


 ガルーダとベイによって弄ばれるキュールの姿にザワロワの怒りが頂点に達した。ララロワたちを含め意識のある村人もキュールを助けようと必死にガルーダの殺気に抗っていた。


 そんな村人たちを嘲笑うかのようにベイはキュールの胸を鷲掴みにして楽しんでいた。


「お前ら、よくも……、キュールを。」


 ベイに持ち上げられ、女性としての尊厳を踏みにじられている親友の姿にザワロワは我を忘れて突撃した。シャドーウルフに跨ったまま憎き襲撃者のもとへと。


「くたばれっ!!」


 未だキュールを持ち上げているベイの顔面目掛けて飛び掛かる。


「怖い顔だ。気を付けてくださいね、これお返しします。」


 迫りくるザワロワに向かってベイはキュールを放り投げる。いきなりのことであったが、なんとかキュールを受け止めたザワロワは、しかし体勢を崩してしまいシャドーウルフの上から落ちた。


「くっ。」


 キュールを庇うように抱きかかえると自身の体を下にして地面と激突した。


「かはっ。」


 肺の中にある空気が押し出される。思うように呼吸ができない苦しさに顔をしかめながら、それでも腕の中にいるキュールが無事なのを確認して安堵する。


「……ザワロワ、ごめん。」


 ザワロワの胸の中で涙で顔をくしゃくしゃにしながら、キュールはザワロワに謝ったのだ。自分のせいでザワロワに迷惑をかけたと。


「キュールは何も悪くない。私はいつだってキュールに助けられてるんだから。」


 胸の中で泣くキュールの顔をそっと撫でる。裸のキュールを守るようにザワロワはさらにぎゅっと抱きしめた。


「ザワロワ……?」


「もう大丈夫。すぐ近くに気配を感じるの。」


「何のこと?」


「………希望よ。」


 ザワロワはキュールを抱きしめたままニコッと笑った。


 その次の瞬間、未だ地面に横たわる二人にガルーダが飛び掛かった。


「ギャハハハ、最期の会話は終わったか。二人仲良くぶっ飛んで死になっ!!」


 異能力である爆発を右手に込めて、ガルーダの拳が二人を襲う。逃れようともがくザワロワであったが、不思議なことに体が動かない。


(ベイとかいう男のチカラか。)


 ホワイティリラを触ることなく倒れさせたベイの異能力は未だ不明。充分に警戒していたつもりであったが、こうも容易く身動きを封じられるとなるとかなり厄介だ。


「言ったでしょう。これから行われるのは蹂躙です。あなた方にはもはや抵抗さえ許しません。」


 ガルーダの拳が迫る。


 キュールの顔に浮かぶ諦めの表情。

 その剛腕に加え、爆発すら巻き起こす一撃を耐えられるはずもない。


 ブゥンッ

 鋭い風切り音が聞こえると同時にキュールを目を閉じた。


「………?」


 死を覚悟したはずの一撃が来ない。すぐ目前にまで迫っていたあの攻撃はどうなったのか。


 おそるおそる目を開けるキュール。

 そこには自分たちを守るために、間に割って入った男がいた。こちらに背を向けながら、驚くべきことに何倍もの体格差のあるガルーダの一撃を受け止めている。


「だれ…?」


 キュールがそう思うのは自然のことであった。そして、それと同時に身を寄せ合っていたザワロワが安心したかのように張りつめていた気を緩める。


「遅すぎよ、カヤ。」


「ああ、ほんとギリギリとはいえ間に合って良かった。」


 親友であるザワロワが男に向ける眼差しを見てキュールも不思議と気が抜けていった。

人族と魔人族では見た目は多少の違いしかありません。一番の違いは魔力の有無です。魔力量はそのまま肉体の強化にもなり、魔力を用いたチカラなんかもあったりしますので、基本的に単体でみれば魔人族が圧倒的に強いです。

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