2-5 契約発動
「怖い?」
主従契約はお互いの同意さえあれば他に細かい手順はない。必要なのはカヤとザワロワの気持ちのみ。逆に言えば、どちらかに主従契約を拒否する気持ちがあれば絶対に契約は成り立たない。
また、契約の発動自体を行うことができるのは魔人族であるザワロワのみ。カヤはザワロワを信じて身を任せるしかなかった。
「そうだね。でも、いいよ。俺もザワロワを信じよう。」
「ありがとう。大丈夫、一瞬で終わると思うから。」
主従契約は強力である。先ほどまでその契約の恐ろしさを聞いていたカヤも、受け入れる覚悟を決める。
(万が一の場合でも契約そのものを沈めてしまえばいい。そう考えると、いくらか気楽だな。)
そう思いながらも、ザワロワがカヤの生命力を根こそぎ奪うような万が一の事態が起こるなどとカヤは考えていなかった。
ザワロワがそっとカヤの手を両手で包み込んだ。
「このまま受け入れて。私たちの気持ちに偽りがなければ、自然と契約は結ばれる。」
ザワロワに間近で見つめられながらカヤは頷く。
「受け入れるよ。俺とザワロワの主従契約を――。」
カヤの言葉を聞いてザワロワが契約を開始する。自然と目をつむる二人。
それと同時にカヤとザワロワの二人の体から発せられたエネルギーが周囲を覆い始めた。人族であるカヤには感知できない主従契約のチカラ。もし契約を拒否する気持ちが少しでもあればチカラはその場に留まり、相手の体には移動しない。
二人の間を行き交うチカラがすんなりとお互いの体へと吸い込まれていくさまは、カヤにもザワロワにも拒否する気持ちがないということを示していた。
「いい感じ、もう少し。お互いをもっと感じて。…もっと深く。」
「なんか変な気分だ。俺とザワロワが一つになっていくような、そんな感じ。」
二人の間を行き交うチカラがその勢いを増していく。
いくら感知できないとはいえ、カヤにもその異様さをうかがわせるほどに。また、契約を発動しているザワロワにとっては感覚を狂わせられるほどの勢い。
(初めての契約だったけど、こんなにもすんなりいくなんてっ!感じるっ、カヤのチカラが私の中に入ってくるっ……!!)
カヤの体から発せられるチカラが増す。ザワロワの体を襲うような勢いで貫いていくカヤのチカラに、ザワロワの体も昂っていった。
(やっぱり…、私とカヤとじゃこんなにもチカラの差があったのね。カヤなら、……あなたなら主としての器も充分。このまま、いくわよ。あなたを主としての主従契約をっ!!)
「もう少しっ、カヤ、私のチカラを引きずり出してっ!!」
「ああっ、いいんだな、引っ張るぞ!!」
感覚に任せてカヤはザワロワから発せられるチカラを引っ張る。ザワロワのチカラはカヤに従順に、その流れに乗っかった。
「ああっん、っぁアアッーー!!」
心臓を引っ張られるような感覚に声を荒げるザワロワ。
「ンッ、ンンンンッ~~!!」
身を反らして口を必死に閉じるが、その隙間から漏れ出る嬌声。生命力を引きずり出される感覚にザワロワは声を我慢できなかった。
「おいっ、大丈夫なのか!?」
「いいから、このままぁ、もう少しで完了するッ、からっ!!」
ザワロワの必死な声に心配するカヤだが、ザワロワは止めない。感じているのだ、――主従契約が完了する瞬間を。
カヤも心配するのをやめて、契約に集中する。
ラストスパートを突っ切るかのように、カヤとザワロワの雄たけびが重なっていく。
「うぉぉぉぉおおおおお……」
「んぁああああっ~~~!!」
二人の間を行き交うチカラもそれに応えるように激しさを増していく。
その次の瞬間、目まぐるしく行き交うチカラの流れが突然二人の間で弾け飛んだ。目には見えないが、綺麗なチカラの粒子がカヤとザワロワの上からゆらゆらと降り注いでいった。
「はぁはぁ、終わったみたい。」
契約が無事に完了したことを告げるザワロワ。
自らの胸の昂りを抑えるように、肩で息をしながら体を落ち着かせる。
「思っていたより、疲れた。大変なんだな、主従契約って。」
「ええ、思っていたよりも大変だったわ。カヤを主にするのが。」
カヤを向いてペロッと舌を出すザワロワ。すぐに言葉の意味を理解できなかったカヤだが、自らがザワロワの主とされたことに気づくと、
「はぁーーーっ!!」
空高く、驚愕の声を上げるのだった。




