2-4 ザワロワの策
話を続けている内に気づけばカヤは≪魔の森≫の目の前までやってきていた。
視界いっぱいに広がる樹木。身の丈の何倍もあろうかという木々がその森の大きさを表している。そして、最も目を引くのが森を覆うようにして立ち込める深い霧。
魔人族や魔物以外の命を奪う凶悪な霧は、他種族が森に入りこむのを遮っていた。
そんな≪魔の森≫を目の前にして身震いするカヤ。すでにそこは人族にとって危険領域に認定されている土地であった。
「これが≪魔の森≫…。恐れられているわけが分かるな。この霧を見ているだけで鳥肌が立つ。」
いくら鍛えようとどうにもならないことはある。命を奪う霧を目の当たりにして、カヤは珍しく恐怖を抱いていた。
「それはカヤが人族だから。私たち魔人族にとっては何ともないわ。」
「それはそうかもしれないけど。どうするんだ?何か策があるようだったけど。」
このままカヤが森に入れば霧の効果で即死である。
ためしに霧を【沈没】で沈めようとしてみるが、霧自体に意思があるかのようにカヤの異能力に抗ったのだ。
(なっ…!?)
霧を沈められない事実に驚愕するカヤ。そんなカヤに気づいたザワロワは納得したような表情で頷いた。
「もしかしたらと思ったけど、カヤでも無理みたいね。それは、この霧を発生させている存在がカヤよりもチカラが上ということ。『四高』の一人である『死』によって、この霧は発生していると言われているわ。」
「『四高』か…。キメラの時にも少し話に出たけど、気を付けるべき存在であるのは確かみたいだな。」
カヤが異能力に目覚めたばかりといっても【沈没】の効果は強力なものである。その異能力を完全に無視されるほどの実力差がある相手がいるということをカヤは認識した。
【沈没】が効かないのであれば、カヤに霧をどうこうすることはできない。お手上げという表情でザワロワを見つめる。
「この霧は魔人族のチカラを持つ者にとっては何ともない。簡単な話よ、カヤが魔人族のチカラを持てばいいだけなんだから。」
ザワロワは得意気な表情でカヤに話す。
「俺に、魔人族のチカラ…?」
「そう、今から行うわよ。――主従契約を。」
ザワロワはカヤの目を見つめる。魔人族と人族の間で行われたことなどない主従契約、それを行う決意をもって。
「……主従、契約。」
カヤも驚きを隠せない。ここに来るまでに聞いていた主従契約。ザワロワの村を困らせるその契約の名をカヤは呟いた。
「主従契約は魔人族以外の種族が≪魔の森≫に入る唯一の方法。人族であるカヤにこの方法を教えるのはカヤを信じているから。絶対に他にしゃべっちゃダメなんだからね。」
カヤの口にそっと人差し指を当てて、ザワロワはニッコリとウインクするのだった。




