2-1 王都へと
常に深い霧が立ち込める≪魔の森≫。しかし、それが日常である魔人族にとってはいつもと変わらない光景である。目的地である≪ミュール村≫へと向かって、屈強な魔人ガルーダは歩く。目の前に木があれば押し通し、岩があれば粉砕する。障害となるものがあれば壊して進む男である。
血気盛んな魔物たちもガルーダには決して近づかない。一目見ただけで分かる圧倒的なパワーに、恐れおののき姿を隠す。
「ガルーダ様、もうそろそろかと。このまま進めば今日中には。」
ガルーダの後ろに控えるように続く一人の男の魔人。決して背が小さいわけではないが、ガルーダと並ぶとまるで子供のようである。
「そうか、前の村じゃ何人か殺しちまった。次はもっと上手にやらんとな。ベイもそう思うだろう。」
ベイと呼ばれた男の魔人はガルーダの言葉にうなずく。
(主人であるガルーダ様を魔王にするためには契約できる者を殺していては意味がない。前の村では私も何人か殺してしまった。注意しないとな。)
二人の魔人が≪ミュール村≫へと到着するのはこの会話から少し後のことである。
■
場所は変わって、≪カルソト村≫にある異能石研究所。
そこでは、カヤの異能力開花祝いが行われていた。カヤの父親にして研究所所長のハイベルを筆頭に、カヤの母親のリア、病院長のゼン、親友のアンジュ、アレス、ミレアにカヤは囲まれていた。
「この異能石によって、異能力に目覚めた…か。もし、カヤと同じような症状で困ってる人がいるならば、調べてみる価値は大いにあるな。」
ハイベルがうなる。ハイベルも、カヤが異能力に目覚めないことに長年悩んでいたのは知っている。だが、聞いたことのない症状にどうすることもできず、時間が経つのを待つしかないと思っていたのだ。
(分からないことが多すぎるな。そもそも異能力に目覚めない症状など他に聞いたことがない。それに加え未知なる異能石。これを狙ってまた襲われる可能性も考えられる。久しぶりに王都に行くか、あそこなら警備も充分だ。カヤも異能力に目覚めた今タイミングもちょうどいい。冒険者を目指すなら、入学はしておいた方がいいだろう。)
「今回の件もあって私はまた王都へと戻ろうと思う。いい機会だ、みんな入学の意志があるのなら一緒に行くかい。」
ハイベルの言葉にカヤとアンジュとミレアが目を輝かせる。アレスはいつものようにどうでもよさそうな顔をしているが、気持ちは四人全員同じだった。
「私もいいんですか、おじさん。」
アンジュが心配そうにハイベルに聞く。
「構わないよ。ただし出発前にちゃんとご家族と話し合うこと。≪学校≫は絶対に安全というわけでもないからね。」
「はい!ありがとうございます。」
アンジュに続いてみんなの意志を確認するハイベル。
「行くよ、父さん。」
「私も行きたいです。カヤさんのように強く…、一緒にいても恥ずかしくないくらい強くなりたいですから!」
「俺も、お願いします。」
カヤ、ミレア、アレスが返事をする。
ハイベルはみんなの返事にうなずくと、リアの方へと目を向けた。
「どうする?残るというのなら、止めはしないが。」
ハイベルの言葉にリアはフッと笑う。
「なに言っているのよ。あなたが他の女に手を出さないかちゃんと見張りに行かないと。」
「む、そんなことは…、」
「フフ、冗談よ冗談。でも、置いてくなんて許さない。あなたのいる場所が私の居場所なんだから。」
「そうか、それは照れるが嬉しいな。」
リアの言葉に顔を赤くしながら答えるハイベル。
最後にゼンの方へ向いて問う。ついてくるかどうか、と。
「そうですね。では、私も一緒に。懐かしい顔にも一目会いたいですし。」
「そうだな、スイレンに会うのも久しぶりだ。」
みんなの意志を確認し、それぞれが出発へ向けて準備を始める。
研究員たちには引き続きこの地で調査を続けてもらうようお願いするハイベル。異能石の発見が多いこの地での研究は続けていく必要があると判断したからだ。
王都への出発は二週間後。
引継ぎや話し合いなど、それぞれがその日に向けて必要なことを進めていく。
(二週間か…。)
その中で一人、ザワロワとの約束を思い出し、急いでカヤは行動に移すのだった。
あの日から、カヤのそばに居るヴォイド。別時空の二人ではあるが、それでもある程度の意思疎通はできるようにはなっていた。部屋で一人、空を見つめるカヤ。
「こっちもあまり時間の余裕がなくなった。急ごう、ヴォイド。」
その言葉とともに、跡形もなくカヤはその場所から姿を消した。




