1-20 ひと時の別れ
ザワロワが語る内容は魔人族の問題であり、人族であるカヤに話すようなことではない。それでも、ザワロワは話し続ける。カヤのことを信じて、助けてくれると期待して、その瞳はまるで救世主に出会ったとでもいうかのように輝いていた。
(私の間違った判断によって出会えた運命。カヤとめぐり合わせたこの幸運を絶対に無駄にはしない。絶望の象徴でもあるキメラさえ難なく倒したカヤなら、私の村ごと救ってくれる。)
「村のみんなは未来に希望を持てていないの。この時期に、魔王候補に狙われた村は決して良くない末路をたどるわ。私の村だっていつもはあんなに明るいのに、最近はみんな暗い表情ばかり。毎日毎日話し合っていても何も変わらない。対抗するための力がなくちゃ何も変わらない。だから、」
そこでいったん言葉を止めたザワロワはカヤを真っすぐと見つめ、そして深く頭を下げた。
「だから、あなたの村で発見された異能石を手に入れようと、あんな真似をした。私の勝手な理由であなたたちを傷つけた。関係のない人々を巻き込んで、私は許されないことをした。いくら謝っても許してもらえないだろうけど、本当にごめんなさい!!」
ザワロワの偽らざる思い。
カヤはザワロワの顔を上げさせ、答える。
「それでもザワロワは誰も傷つけなかった。それが事実だ。ザワロワが村を襲ったことで、俺は異能力に目覚めることができたし、俺は怒っていない。」
「…な、そんな自分勝手な。私がどれだけ後悔したか。カヤが許してくれたところで、あの村が許してくれたわけじゃない。」
「ここにいるのは俺とザワロワだけだ。それでいいじゃないか。」
「……勝手すぎる。」
カヤの言い分に呆気にとられながらも、ザワロワの中で燻っていた後悔の念は晴れていった。自由気ままなカヤに対して自然と笑みがこぼれてきたのだ。
「じゃあ、あなたの村を襲った件はこれでおしまい。ここから先は私の村に案内しながら話したいのだけど、良い?」
スッキリとした表情になったザワロワが、魔人族領域の方向を指さして問いかける。
「ん~、まぁ大丈夫かな。だけどそもそも≪魔の森≫って、人族は入れないよね?」
カヤの素直な疑問。魔人族領域である≪魔の森≫。そこは、魔人族以外の種族は決して立ち入ることが許されていなかった。森全体を覆う霧は魔人族以外の命を奪うという恐ろしい性質を持っている。いくら鍛錬を積んだからといって、どうにかできるものではないのだ。
しかし、ザワロワの中にはカヤを誘うにあたってその問題を解決する方法があった。今まで前例のない方法ではあるが、ザワロワはその手段をとることに対して不安はなかった。
「一つだけ方法があるの。人族であるカヤにこのことを言うのは本来はダメなんだろうけど、それでもカヤを信じているから。」
カヤを信じて話し出そうとするザワロワ。しかし、そこに待ったをかけるように大きな声が聞こえてきた。
「カーーーヤーーーーー!!」
遠くから聞こえるカヤを呼ぶ声。キメラとの戦闘によって発生していた衝撃波。その出所を頼りにアンジュはカヤを追っていたのだ。
「うおっ!!さすがに追いつかれたか。まずいな、たぶん村で一番ザワロワのことを許さない人物だよ、アンジュは。」
「あの赤髪の女の子ね。彼女が発する殺気はすさまじかったから覚えているわ。で、どうするの?」
「ここはいったん別れよう。ザワロワは逃げたことにして話しておくよ。ほら、アンジュが来る前に早く。」
カヤに背中を押されるザワロワ。
「ちょっと、私との約束はどうなるのよ。こっちだってそんなに時間もないのよ。」
これからカヤを村まで案内しようとしていた矢先での出来事。素直に退くわけにもいかず、カヤに詰め寄る。
「ヴォイドを通じて後でまた会おう。村に戻ったらすぐに、約束は必ず守るから。」
アンジュの迫る速度はすさまじく、カヤにもゆっくり話している時間はない。無駄な戦闘は避けさせようと無理にでもザワロワをこの場から遠ざける。
「待ってるからね。もう完全に信じてるんだからね!!」
召喚した魔物に乗りながら、カヤを見つめるザワロワ。少しばかりの別れだと思っても、それすらも惜しい。村のためだけでなく、自身が気づかない部分でカヤとの別れに悲しんでいるのだ。何度も助けてくれたその逞しい男との別れに。
「俺の望む未来にザワロワの悲しみは要らない。俺の力でザワロワが助かるなら、絶対に助けるよ。」
カヤの確固たる表情。それを見て安心したザワロワはこの場を離れる。
すぐに会えると信じて。




