1-17 決着
自傷攻撃を躱され、キメラにも余裕が無くなっていた。強者と認めた者のみに使用する精神攻撃も効かず、また敵であるカヤの動きを追うことも不可能。まさに一世一代のチャンスとなった先ほどの攻撃を逃したキメラが取れる手段は多くなかった。
――逃走
キメラは所持している異能力【土使い】をここになって初めて使用した。
腐敗している足元の大地に体を沈み込ませると同時に自身の周囲を土の壁で覆ったのだ。
キメラの巨体を覆うほどの土のドーム。
数々の奥の手を残してきたキメラだが、これ以上の手は残っていなかった。体勢を整えるためにもここは一旦退くことに決めたキメラ。闘争本能のみで動くキメラが逃走を選ぶこと自体あり得ないことであったが、それを理解する者はこの場にいなかった。
「ギャッ、ギャクァ……。」
土の中を潜って移動するキメラの口から漏れ出る悲鳴。
生まれたばかりのキメラにとって、カヤのような強者と戦うことになったのは不幸そのものに違いなかった。
本来であれば大混乱を招く恐怖の魔物。腕のたつ冒険者であっても戦うことを拒み、出会った瞬間に死を受け入れる。
ここにいたのがカヤでなければ、世界中に災厄となって襲い掛かっていたであろう。
そんなキメラの必死の逃走を意にも介さずカヤはキメラの胴体を掴む。自身の何千倍もあろうかというその巨体をカヤは腕一本で押さえつけたのだ。
「悪ぃな。いきなり逃げられた時は不意をつかれたけど、今の俺には頼もしい味方がいてね。どこに逃げようと意味ないんだよ。」
驚愕するキメラはカヤの腕から逃れようと体をじたばたとのたうち回す。もはやそこに戦意はなく、生きるために逃げることで必死だった。
土の中にポッカリとできた空洞。キメラが暴れると同時に周囲の土がカヤに襲い掛かるが、カヤに触れることはなかった。
ここまで何回も痛い目を見てきたカヤは警戒を解かなかった。≪沈没フィールド≫を展開したまま、キメラの動きを観察する。
(お前もあの石の被害者だ。無理やり生み出されて…、もう楽にさせてやるよ。)
キメラの戦意がすでになくなっていることに気づいたカヤは掴んでいる手とは反対の腕に力をこめる。
「じゃあな。」
ボソッと、本気を出させてくれた魔物に別れを告げる。
ブウゥンッと、カヤの腕が振り下ろされた箇所に発生する衝撃。カヤの本気の一撃はキメラを体内から爆散させた。
「ゲグッ、アッガァアーーーーー!!」
最期までおぞましい悲鳴をあげながら、キメラの体は腐敗効果のある体液をまき散らしながら粉々に砕け散った。
キメラが消滅するのに充分となる敗北感を与え、その強大な魔物は塵となって今度こそ還っていった。
■
「うわー、すっごい!!」
キメラの死を見届け、行きと同じようにヴォイドの力を借りて時空移動で帰るカヤ。そして、カヤは帰ってくるなり魔人族の少女に抱き着かれていた。
「えっと…、いきなりだね。」
「キメラの気配がなくなったんだもの。あなたの勝ちでしょ。すでに何回も助けられているんだから、もうあなたに対して警戒なんてしないわよ。」
いきなり慣れ慣れしくなった魔人族の少女にカヤはどうしたものかと思いながらも嫌な気分ではなかった。カヤ一人では勝てなかった。目の前ではしゃぐ少女が一緒にいなければ、キメラには負けていたのだ。一人で戦おうとしていた自身の甘さにカヤは反省していた。
「君がいなくちゃ勝ててなかった。魔物たちも、みんなの力があってこそだよ。ありがとう。」
抱き着いてくる魔人族の少女の肩にそっと手を乗せてカヤはお礼を言う。
「「……。」」
「う、うるひゃいっ!!」
見つめあっていた二人だが、魔人族の少女の顔が赤く染まると同時にカヤは突き飛ばされた。
「あっ、ごめん。突き飛ばすつもりなんてなかったのに、なんでだろう。体が勝手に。」
「いいよ、いいよ。君の異能力も元通りみたいだし、とりあえずこれで一件落着かな。」
カヤの言うように異能石によって無理やり引き上げられていた魔人族の少女の異能力はすっかり元通りに戻っていた。
(私の失態なのに。何もかもあなたのおかげで私は今生きてられる。)
魔人族の少女は決意する。
(我儘かもしれない。これ以上あなたに何かをお願いしようだなんて…。でも、あなたなら。)
「ねぇ、私の話を聞いてくれないかしら?あなたの村を襲った理由も全て話すわ。それで、もしあなたが望むなら私にできることは何だってする。だからお願い。私たちを助けて!!」
カヤに向けられる悲痛な訴え。キメラとの決着に喜んでいた先ほどまでとは打って変わって、魔人族の少女は沈痛な面持ちで語りだした。




