1-15 ヴォイド
「……、ここは?」
闇世界から抜け出したカヤ。
(俺は、失敗したのか?)
全ての色を混ぜ合わせたようなごちゃごちゃとした空間にカヤはいた。闇世界からの脱出には成功しているカヤだが、目の前に広がる景色の異様さに失敗したと思い込んでも不思議ではなかった。
(でも…ここは。寂しくない、闇世界とは違って、ここは暖かい。)
「おはよ…う?起き…た?」
(…っ!?)
突然かけられた声にハッとして振り返る。先ほどまで誰もいなかったその場所にカヤのことを心配そうに見つめる小人の女の子がいた。何もない空間からちょこんと顔を覗かせている。
「……!!…見られる…の、初めて…。でも、…頑張る。」
「驚かせてごめんね。君は?」
「…ヴォイド。カヤ…を助けるため、あの子…に召喚…された。」
怯えながらもカヤの目を見て話すヴォイド。しかし、その目に不安はなく、面白いものを見るような好奇心で満ちていた。
「そっか。じゃ、あっちの闇世界にいる間ヴォイドが俺のことを守ってくれたんだね。ありがとう。」
にっこりと微笑むカヤにヴォイドも笑顔で応える。この頃には、ヴォイドの中でカヤに対する怯えは消えていた。カヤにタタタッと近づくと、ヴォイドはカヤの顔を覗き込んだ。
「…うん!ヴォイドのおかげ…。ヴォイド、すごい…?」
「そうだね。すごいよ、ヴォイドは。」
カヤの言葉に喜ぶヴォイド。
会話という初めての経験にヴォイドは心躍らせていたのだ。羽のない体でヴォイドはカヤの周りを飛び回る。
(楽しい…。ヴォイドとカヤ、お話…できる。…もっと、お話したい、けど…あの子、カヤ待ってる。…そろそろ?)
「……あの子、戦ってる。カヤ、助け…る?」
一人で必死に戦っているであろう魔人族の少女の姿を思い浮かべて、ヴォイドの言葉にカヤは頷いた。
「お願いできるかな、ヴォイド。俺を彼女のもとに。」
「うん。それが…ヴォイドの役目。…でも、カヤともっとお話ししたい……。」
ジッとカヤを見上げるヴォイド。カヤの手のひらに収まるような背丈しかないヴォイドの瞳は涙でにじんでいた。断られる恐怖に怯えながら、ヴォイドは勇気を振り絞ったのだ。
「もちろん。俺でよければ、いつでも話相手になるよ。」
カヤの言葉にパッと表情を明るくするヴォイド。
「…カヤ、言った。また、ヴォイドとお話する…。やった!」
手を上げてカヤの胸に飛び込むヴォイド。カヤはそっとヴォイドを受け止める。
「あぁ、この戦いが終わったらいつだって。ヴォイドが満足いくまでずっと。」
カヤの言葉にヴォイドは嬉しそうに笑った。
静かに目を瞑るカヤ。カヤの体が少しずつ透明になっていく。
そして、カヤの体は戦場へと戻っていった。
「カヤ、すごい…。ヴォイドの家にいても全然平気だった…。」
常人であれば、異なる時空に適応することはできない。長時間、適応できていない時空にいることはそのまま死を意味する。知らない者も多いが、それを知っているヴォイドにとって、自らの時空に自然と適応したカヤとの出会いは運命だと思ったのだ。
魔人族の少女もカヤのことを信じてヴォイドへと託したわけだが、ヴォイドがカヤの前に姿を現すことまでは予想できていなかった。そもそもヴォイドの姿はおろか声を聞いたことすらない魔人族の少女にとってもヴォイドの存在は不確かなものであったのだから。
未だ多くの謎に包まれている魔物ヴォイド。
カヤのことを送り出したヴォイドは、じっとしてられず時空の窓からカヤのことを見つめていた。
「カヤ、約束した。カヤ、死なせない…。」
ヴォイドにとってもキメラという魔物は脅威だと分かる。カヤの力になりたい、ヴォイドは静かにそう思うのであった。




