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昇る沈没者  作者: 安来 光
第1章 カルソト村襲撃編
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1-14 闇の世界

 何もない真っ暗な世界でカヤは佇んでいた。歩いても歩いても景色は変わらず、その場から進んでいないような錯覚に陥るほどの闇。


 カヤ以外に何もおらず、何もなかった…。


 それは、キメラによる精神攻撃。

 攻撃対象を不安、恐怖で押しつぶそうとする凶悪な攻撃。


 ――孤(・)独(・)。


 キメラによるこの攻撃は対象を孤独の闇に誘い込む。自身以外の何も存在せず、長い間そこに居れば自身の存在すらあやふやになり、不安によって精神が崩壊する。

 自分以外の他者が存在しない世界では、自身の存在すら肯定できなくなっていくのだ。


(ちくしょう。これがキメラの本当の恐ろしさってなら、お手上げだな…。こんな攻撃をしてくるなんて、マジで何もできねぇ。)


 ふらふらと歩きながらカヤは考える。

 どうすればここから抜け出せるのか。


 一筋の光すら見えない闇の世界で、カヤは独りだった。


■


 一方、カヤの本体もまた現在、この時空に存在していなかった。


 別時空に存在するとされる魔物。――ヴォイド。


 魔人族の少女が召喚したヴォイドによって別の時空にカヤの体は避難されていた。時空の穴を通って、キメラの衝撃波からカヤの体を逃がしたのだ。

 その時空はヴォイドが自身で作り上げたヴォイドのための場所。そこに住むヴォイド以外、何者であってもその場所に干渉することはできない。


「彼ならきっと戻ってくる…。あなたなら、きっと大丈夫。」


 魔人族の少女はカヤが戻って来るのを信じて、戦う。自身のためだけでなく、カヤの身も守るために。


「でも、私自身に戦う力はない。だから、頼むわよ!みんなっ!!」


ッォォオオオッ!!!!!!


 魔人族の少女の願いに応えるように数百という魔物の群れが雄叫びをあげた。


■


「あっちは、今頃どうなっているんだ…。あの子も闇世界に飛ばされていたらどうしようもないぞ。」


 思いもよらないキメラからの攻撃に未だ困惑を続けるカヤ。

 だが、カヤの頭には一つの可能性が浮かび上がっていた。


(こんだけ歩き回っても何もない…。はぁ、どうなるか分からないから怖かったけど、さっき思いついたアレを試すしかないかな。)


 自身がいる闇世界は本来は存在しないモノである、とカヤは考えていた。


(実体が無いのであれば、有効なハズだ。――この闇世界を沈没させる!!)


 カヤの思いついた可能性。

 世界そのものを消せば、ここから抜け出せるのではないかと。


 昨日までのカヤであれば、その可能性に至ることすらなかった。異能力という新たなチカラを得たことで見いだせたその可能性にカヤは賭ける。


(俺自身の消滅なんていう恐ろしいことにはなってくれるなよ。)


「――沈没。……沈めてやるよ、こんな闇世界。丸ごと全部っ!!」


 意を決してカヤは異能力を発動する。カヤを包む闇世界全てを対象として、とてつもない規模のチカラを。


ピシッ―、


 世界の崩壊。キメラの創り上げた闇世界が崩れ始める。

 鏡が割れたかのように、世界全体にヒビが入る。それは、【沈没】がこの世界に有効であるという証に他ならなかった。


 割れた世界の奥から光が射し込む。「起きろっ!!」、名前も知らない魔人族の少女の声がカヤの頭の中に響き渡る。


 カヤの精神は闇世界の外へと繋がった。


(…っ意識が……。)


 射し込んでくる光に目を細めながら、カヤの意識は本来あるべきはずのところへと戻っていく。

明日には更新します。

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