1-13 キメラとの戦闘
「な…、何が起こっているの…!?」
魔人族の少女は目の前で起きている出来事に驚きを隠せないでいた。
(キメラにダメージを与えた……の!?人族のコイツが!?それに、さっきも攻撃を無力化していたし、本当に何者…!?)
キメラの図体に走った亀裂から黄色い体液が溢れ出す。
ズシンッ、倒れ込んだキメラの図体の下からカヤはさっと飛び出した。
「アッギャッ…、アァッ!!」
キメラから苦痛の叫びが聞こえる。
無数の足で支えられていた図体を地面にのたうちつける。キメラの体液が染み込んだ土地がジュブジュブと腐っていく。
「すごい…。あのキメラがこんなに苦しんでいるなんて。本当に、このキメラはあの『狂気』とは違うんだ………。」
魔人族の少女は目の前の現状に覚悟を決める。
「下ろして。私も戦うわ。」
カヤの背中という安全な場所から戦場に下り立つことを告げる。
(フフフ、この背中が名残惜しいけど彼にずっと守ってもらうわけにはいかない。アレは私のチカラが生み出した存在なのだから。私も一緒に戦わなくちゃ。)
カヤは止めなかった。一人で戦ってみたい気持ちも強かったが、魔人族の少女の覚悟を蔑ろにするような真似はしない。
背中からそっと下ろすと、魔人族の少女の横に並び立つ。
「ずっと震えていたけど、本当に大丈夫か?」
「ふん、バカにしないでよ。さっきまでは少し調子が悪かっただけよ。あなたこそ、さっきまでのやり取りで疲れたりしてないわよね。いいのよ、休んでいても。」
「まさか。」
「そ。」
二人のかけあいは、まるで数々の死線を共にくぐり抜けてきたパートナーであるかのようであった。
(私一人じゃ、ただただ怯えるしかなかった。でも彼と一緒なら…、私でも戦える。)
「ギャァッーーー!!」
キメラの咆哮とともに二人は別れるように左右に飛びのく。
体液が溢れ出す図体を持ち上げることを諦めたキメラは、その場から動くことなく二人を狙い撃つ。
ドォン!ッドォン!
次々と地形をえぐる衝撃波。
二人はそれをかわしながら、背中合わせになる。
「うーん、あのでかい図体から魔石を取り出すのは思ったより困難だな。」
カヤのそんな呟きに魔人族の少女はキメラについて話し出した。
「キメラに魔石は無いはずよ。魔石を失った魔物たちの負の感情のみで出来ている魔物。…そもそも魔物という定義から大きく外れている存在なのだから。」
「そうなのか。じゃ、どうしようか。」
「本当かどうか知らないけど、負の感情を上回るほどの敗北感を与えてやればいい、とは伝えられているわね。」
「つまり、…殴り続けろってこと?」
「ええ、そうね。本来であればそんな簡単な話じゃないのだけど、あなたならそれでいいのかもね。」
「だったら簡単だ。キメラの攻撃は無効化できているし、かわすことも難しい話じゃない。」
背中合わせでの二人によるキメラ攻略の話し合いが終わる。
殴り続けるという、本来とることのない強行手段はキメラにダメージを与えられるカヤのパンチがあったからであった。
(単調な攻撃だ。魔石が無いというのは少しだけやっかいではあるが、思ってたよりも強くはないな。)
キメラのおぞましい見た目にもそろそろ慣れてきたカヤは、キメラをじっと見つめる。
カヤの中でキメラに対する脅威が解けていく同時に、戦闘経験の浅さからカヤは油断してしまった。
――その瞬間、何の前触れもなく、カヤの周囲が闇に包まれた。
「……ッ!?」
カヤにすら知覚できない攻撃。キメラによって、カヤは何もない世界に閉じ込められた。
(何をされた…?ここは何だ!?)
上下左右を黒い靄で覆われた闇。そんな空間にカヤはポツンと立っている。
さきほどまで戦闘をしていたとは思えないほどの静けさ。
「おいっ!!聞こえるか!!魔人族の女!」
叫んでみるが何も反応がない。
(どうしたものか…。)
自身以外の何も存在しない世界、今まで体験したことのない敵の攻撃にカヤは戸惑っていた。。
■
魔人族の少女の目には立ち止まったまま佇むカヤの姿が映っていた。キメラの目の前で、何も警戒することなく突っ立っているカヤに声をかける。
「おいっ!!何をボーッとしているんだ!!」
(反応が無い…?キメラに何かされたか。)
「ちっ、油断しやがって!!――魔物召喚」
魔人族の少女は瞬時に状況を理解すると、カヤを助けるべく動き出す。すでにキメラはカヤに向かって狙いを定めていた。
(間に合えっ!!)
「ゲギャギャッ、ギャ、ギャッ!!」
キメラの大きく裂けている口からカヤに向かって衝撃波が放たれる。
間に合わない。この場に他の誰かがいたのなら、そう思ったであろう。
しかし、衝撃波がカヤに届く直前に、カヤの姿は突如として姿を消したのだ。
ドガァァアンッ!!
まさに間一髪。衝撃波はカヤが立っていた地面を消し飛ばしていた。




