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昇る沈没者  作者: 安来 光
第1章 カルソト村襲撃編
13/72

1-12 強大な魔物

少し今までのサブタイトルを変えました。

「私の異能力は【魔物召喚】。その名の通り、魔物を召喚できる異能力よ。本来であれば、召喚した魔物は私の命令を聞くはずだけど、今回は私のチカラじゃなくて、あの化け物石のチカラだから、きっと私の命令は聞いてくれないと思う。だから…、どうしても勝てないと思ったら素直に逃げてね。」


 魔人族の少女はカヤのことを心配そうに見つめる。


「大丈夫さ。君が思っているより、俺は強いよ。」


 ストレッチをしながら、心配そうに見つめる魔人族の少女と目を合わせるカヤ。

 カヤは自らのチカラを試せる機会に心配などしていなかった。夢見ていた異能力、それがどのようなポテンシャルを秘めているかを知るための戦闘。負けることは想定していなかった。


(こんなところでつまずいているようじゃ、冒険者になるなんて夢のまた夢だ。俺は俺の望む未来を掴む為に――、試させてもらおうか、【沈没】とやらを。)


 発動の準備を始める魔人族の少女。膨大な量のエネルギーがチカラとなって変換されていく。


(すごい。使ってみて、より一層感じる。この異様なほどのチカラを。こんなにやっても全然無くならないなんて…!!)


 魔人族の少女の周囲を濃密なチカラが覆っていく。異能力によって、チカラが魔物へと生まれ変わろうとしているのが、カヤにも分かった。

 今までに感じたことのない強大な気配。未だそこに存在すらしていない魔物が発する膨大な気配はすでにカヤにとって初めての経験だった。


 カヤの口角が自然と吊り上がる。

 退屈だった今までの魔物とは格が違う。気配から漏れる魔物の強大さにカヤの興奮は膨れ上がる。


「来るわよ!!」


 魔人族の少女がそう叫ぶと同時に、周囲の木々を薙ぎ倒すほどの衝撃波が発生した。

 至近距離、二人の目の前の空間に何かが誕生したのだ。魔人族の少女の想定を大きく超える巨体は地形を変えるほどの衝撃を伴って、そこに現れた。


「うぉっ!!」


「キャッ!!」


 びっくりしながらもカヤはその場に踏みとどまる。

 一方、魔人族の少女は発生した衝撃波に驚き、そのまま吹き飛ばされてしまった。


「っと。」

 カヤは飛び上がると、魔人族の少女を空中で受け止め、衝撃波を気にする素振りもなくそのままその場に着地した。


「大丈夫か。」


「ええ。ありがとう。」


 再び抱きかかえられたことに対して、やはり恥ずかしくなってしまう魔人族の少女。それでもさきほどと違い、身を包む逞しい肉体に少しの安心感を抱いているのも確かだった。


(私と同じくらいの背丈なのに、すごく大きく感じる…。それに、何だろう?今まで感じたことのないこの気持ちは。)


 魔人族の少女が戸惑いを見せている一方で、カヤは衝撃波の発生源となる存在をじっくりと見つめていた。

 舞い上がる土煙が徐々に晴れていき、その存在がはっきりと姿を現していく。


「随分とおぞましいな、どういう構造をしているんだ?」


 カヤの言葉に気づき、魔人族の少女も姿を見せた魔物に目を向ける。


「……うそっ!?」


 そ(・)れ(・)はあらゆる魔物を混ぜ合わせた混沌とした姿。

 見る者に嫌悪感を抱かせ、生物として忌避したくなる、そんな姿がそこにはあった。


 ぶよぶよと流動する黄色い胴体をムカデのように何本もの足が支え、胴体の様々な箇所から次から次へと入れ替わるように魔物の顔が浮かび上がる。ブラックハウンド、ミノタウロス、その他にも見たこともない魔物の姿も見え隠れしている。

 カヤが見上げる先には唯一の人間のような胴体もあった。しかし、首から上に顔と呼べるようなものはなく、左右に大きく裂けた口だけがそこにはあった。目や鼻に当たる部分は黄色い皮膚が覆っているだけ。カヤの第一声のように、ただただおぞましい姿をした魔物であった。


「ギイィ、シャーァァッ!!」


 開けた大きな口から透明な唾液がぼたりと落ちてくる。不協和音を発しながら、その魔物はカヤたちの方を向いた。


「私がチカラを制御できなかったせいで、こんな…。コイツは存在してはいけない魔物よ。」


 魔人族の少女の表情が後悔と恐怖でどんどん青ざめていく。


「ダメよ…。やっぱり私の命令も受け付けない。戦ってはいけない!!」


「どうしたんだ、急に。さっきまでの威勢はどうした。」


「キメラよ。魔物同士の合成獣キメラ。戦ってはいけないのよ。」


 青ざめる魔人族の少女を抱えて、カヤはさっと飛び上がった。


ズシンッ!!


 なんの前触れもなく、さきほどまで二人がいた地面が潰れた。大きな隕石が落ちたような窪みが出来上がる。


「グァー、グシャァッーー!!」


 どこから発しているのかも不明である鳴き声が二人の耳をつんざいた。


「衝撃波か。それにしても…、何だかアイツも苦しんでいるみたいじゃないか。」


 原型を留めていない胴体をうねうねとくねらせ見悶えているキメラ。先ほどから上げている咆哮もまた苦しみを紛らわせているかのようだ。


「キメラは還れなかった魔物の集まり。そんな存在を私は生み出してしまった…、かの『狂気』と同じ存在を…。勝てるわけがない…。」


 すっかりと戦意を喪失してしまった魔人族の少女はカヤの腕の中で静かに話し出した。


「現在でも最強と謳われている初代魔王。その魔王の配下、その中でも『四高(しこう)』と呼ばれた強大にして凶悪な四人の幹部。その内の一人である『狂気』が目の前の魔物と同じでキメラだったと言われているわ。現在では生きているのかも分からないけど、絶対に手を出してはいけない存在なのよ。」


「『四高』ねぇ…。良く分からないけど、目の前のコイツはその『狂気』と同じ魔物であっても違う個体だろう。」


 ガタガタと震える魔人族の少女を背負う。

 背中で縮こまる魔人族の少女をかばうように、カヤはそのままキメラと敵対する。


 そんなカヤに向かってキメラから放たれる衝撃波。カヤの逃げ道をなくすように放たれた何十という数の衝撃波は先ほどのようにかわすという選択肢を許さない。


(俺はともかく、衝撃波はこの子にはちとキツイか。仕方ない、ぶっつけだが試してみるか。)


 カヤは自らの異能力を周囲に展開する。


(イメージ通りならできるはず…。)


 微動だにしないカヤに対してキメラは手を緩めなかった。闘争本能のみで動くキメラは、胴体からブラックハウンドの顔を生やすと、その口内から灼熱の炎を放った。

 ≪カルソト村≫を襲った時のブラックハウンドとは比べようもないほどに強大な炎の息吹。衝撃波と炎の合わせ技。次々に迫る脅威に対して、カヤはその場を動かなかった。


(頼むぞ、俺の異能力…。)


 カヤに迫る何十もの衝撃波。目前に迫る衝撃波であったが、それらが突如として何事もなかったかのように消え去った。


 シュパン、シュパン、シュパン――…


 見えない壁に吸い込まれるように次から次へと消えていく衝撃波、それに続く炎までもが消え去っていく。


 カヤの周囲を見れば、確かに発生していた脅威の威力が窺える。元々の地形はもはや跡形もなく、全てを薙ぎ倒されたそこには何も無かった。


「あなた、何をやっているの…!?これほどの攻撃を…。」


(…イメージ通りだな。ずっと展開しておくのは疲れるが、この中でなら邪魔なモノを沈められる。あのでかい図体を丸々沈められれば手っ取り早いんだが、さすがに生命体は沈められないか。)


 攻撃の手が止まったのを感じて、カヤは展開を解く。


 ――その瞬間、キメラはカヤの位置を見失った。


 カヤにとっては素早く移動しただけ。狼狽えるキメラを見て、カヤはキメラの図体の下に潜り込み突きを放った。


「お返しだ。」


 でかい図体と比較するととても小さな拳。ブニョブニョとした皮膚にカヤの拳がめり込んでいく。体内で蠢く無数の魔物の顔がカヤを睨む。


「ブャッ、ブブャバビャバーーッ!!」


 攻撃に気づいたキメラが下に潜り込んだカヤを押しつぶそうと、図体を落とす。蠢く顔はカヤの周りをぐるぐると回りながら、歓喜の表情を見せた。


「ちょっと!!潰されるわよ、あなたなら避けれるでしょ。速くっ!!」


 カヤの背中で魔人族の少女が慌てふためく。


 しかし、カヤは慌てることなく真上に存在するでかい図体を眺めていた。


ボォォンッ!!



 どこからともなく響き渡った破裂音。その音と同時にキメラの図体に亀裂が走った。

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