表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
98/101

98

 狭い家の中で突然怒鳴り散らした私を見てクリスはケタケタと笑い、トワは耳まで真っ赤にして俯き、セターレなどは耳を塞いでいる。


「おっまえ、でっかい声でそんな事まで暴露しなくても! あと、やっぱ僕が選んだのはお前で合ってたんじゃん!」

「う・る・さ・い! どう!? 書くの? 書かないの!?」


 怖い顔をしてフレッドの胸ぐらを掴んだ私に、フレッドは青ざめて頷いた。


「か、書く! 書くから離してくれ! ていうか、そんなの書いたって誤魔化せるのはちょっとの間だぞ?」

「それはほんとそう。その後はどうする気なの? トワ」

「妊娠していようがしていまいが、一度でもそういう診断があれば俺とヒマリはほぼ夫婦と同義ですから何も問題はありません」

「要は責任取るって事だな。って、おい! ヒマリは僕のパートナーだぞ!?」

「仕方ないでしょう!? そうでもしないと俺は聖女に引き渡されるかもしれないんですよ!」

「そんなもん、ルチルじゃないけどきっぱり断らないお前の責任だろ!?」

「そりゃあなたの立場であればそれも許されるでしょうが、俺の立場でそれは出来ないんですよ!」

「と、まぁこんな具合なのよ。だからあなたはさっさと薬を完成させて、一筆書いてちょうだい」


 突然いつも通りの喧嘩を始めたクリスとトワを横目に私が言うと、フレッドはようやく落ち着いたかのように曖昧に頷いた。


「それさ、俺後から虚偽の診断をしたとか何とかで捕まらないよな?」

「さあ? それは分かんないけど、そんなの証明のしようないじゃん」

「まぁ確かに。つったって薬はそんなすぐに出来る訳ないから先に書くわ。薬が出来て成功したら、あんたに一番に手紙出すよ」


 そう言ってフレッドは会った時よりも幾分晴れやかな顔をしておもむろに何かの書類にペンを走らせ、判子を押してそれを私にくれた。


「一応、断言せずに疑いありって事にしといたよ。検査が必要だからって事で、定期的にここに顔見せてくれるか?」

「分かった。ありがとね、フレッド。湿布薬くれただけじゃなくて、こんなのまで頼んじゃって」

「いや、もしこの薬が成功したら、湿布薬とそんな紙切れじゃ礼なんて出来ないぐらいだよ。セターレ様の視た物を信じて俺はこれを完成させる。絶対にだ」


 強い眼差しで言ったフレッドに、私達は頷いた。


「完成したらすぐに知らせてください。それを丸々あなたの功績にします。姫もその事は承知しているので、そうなったらすぐにでも国が動くと思います」

「あ、ああ……でも、本当にそれでいいのか?」

「もちろん。むしろそうしてちょうだい。私の事は! 絶対に! 誰にも! 漏らさないで! いい!? 約束だからね!?」

「分かった! 分かったから胸ぐら掴むなよ!」

「あーあ、ヒマリってばこの功績独り占めしてりゃ、お前の一生なんて安泰だったのにな!」

「かもしれないけど、絶対に忙しくなるもん。私は普通に大人しく暮らしたいの。飛び抜けた生活は面倒なだけよ」

「よっ! 社畜の鏡!」


 何が何でも有名にはなりたくない私にクリスがそんな掛け声をかけてくるが、実際有名人になると休みさえないではないか! そんな生活は絶対に嫌だ。何事も程々が一番良いのである。


 薬の事はフレッドに任せて、私達は意気揚々と宿屋に向かった。


「皆、助かるといいわね」

「そうだな。それにしても死神だなんて、親は一体何考えて預けてんだ」


 それは私も疑問だったのだ。どうして子どもを病院に預けておいて医者の事をそんな風に言うのだろう?


「それは仕方ありませんね。病気の種類が感染症という時点で、どの国からもそういう風に言われてしまうんですよ」


 メガネの奥をキラリと光らせながらセターレが言うと、その隣でトワも神妙な顔をして頷く。


「戦場で一番死亡率が高いのは戦死ではなくて感染症です。戦場にも医者は着いてきますが、一度感染症にかかると彼らでも治す事が出来ません。壊死して崩れ落ちていく傷口を洗い、苦しんで死んでいくのを看取るしかないのです。もちろん感染症にかかった時点で終わりだと兵士達は覚悟していますが、待っている家族からすれば医者が居ながらどうして助けられなかったのだとなる訳です」

「なるほど。それで死神なのね」

「はい……だから余計にあの薬は一刻も早く完成させてほしいですね。しかもさっきのヒマリの言い分だと、あの薬には色々効果があるんだよね?」

「そうよ。結核に効くのはストレプトマイセスだけど、元々はパンとかにつく青カビから作られたペニシリンって薬が先なの。他にも色んな細菌が研究されてたけど、大体はこの2つのどっちかを処方されてたよ。私の世界では」

「ペニシリン……そっちもフレッドには教えておいた方が良さそうですね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ