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 フレッドが落とした荷物も拾おうともせずに私の肩を掴んできた。そんなフレッドをトワがグイっと押しのける。


「俺の婚約者です。気安く触らないでください。それからヒマリ、もしかして何か良い薬を知ってるの?」

「知ってるっていうか、抗生物質って私の世界じゃもう当たり前だったから。むしろこっちにはまだ無いんだ?」

「そ、それ! ちょ、ちょっと詳しく聞かせてくれ! ここじゃ駄目だな。とりあえず病院に来てくれるか!?」

「もちろん。それ渡してあげないとでしょ? 早くしないと冷めちゃうわよ」

「ま、待ってちょうだい! そ、その流行ってるの……結核なのよね?」

「そうだぞ! お前、結核って言ったら大抵死ぬやつだぞ!? そんな所にのこのこ行ってどうすんだよ!?」

「怖いけど、子どもが待ってんのよ。それに抵抗力のある大人なら滅多な事ではかからないわよ。抵抗力の無い年寄りとか乳幼児とかは危ないけどね」

「ど、どうしてそんなに詳しいの? ヒマリ」


 びっくりしたような顔をしてルチルはそんな事を言うが、私は薬剤師の調剤補助員もやっていた事がある。だから地味に薬には詳しいだけだ。


「うーん、説明すると長くなるけど、あっちでそういう仕事もしてたから。偉い人がね、教えてくれたのよ。お薬の成り立ちを」


 というよりも、薬剤の専門書が教えてくれたのだが。


「遠方の人間って聞いてはいたけど本当だったんだな! 聖女とはえらい違いだ!」


 そう言ってフレッドは顔を輝かせた。ん? 聖女?


「ねぇ、あなたもしかして最近、お城に行った?」


 ふとセターレの鏡に映ったという男の話を思い出して私が尋ねると、今度はフレッドが青ざめる。


「な、なんで知ってるんだ?」

「セターレさんって城の占星術師が言ってたからだけど」

「ああ、なるほど。行ったよ。でもあっさり聖女に断られたんだよ」

「聖女に会いに行ったのですか? 何をしに?」


 怪訝な顔をしたトワに、何かを思い出すかのようにフレッドは顔をしかめた。


「そりゃ子どもたちの病気を治してほしくてだよ。聖女はこっちに来てから王都のあらゆる病院で病気を治したって聞いたからさ」

「ああ、知名度上げよう作戦の奴ね。それで断られた、と」

「そうだよ。何か訳分かんない事言って追い出されたんだ」

「訳分からない事?」

「ああ。味方だったら喜んで手伝ったけど、魔王の手先に力を使う義理はないわって。俺、魔王なんて会った事もないのに」


 そう言って唇を噛み締めたフレッドが何だか不憫である。聖女が一体何のつもりでそんな事を言ったのかは分からないが、フレッドは少なくともだだっ広い荒野で倒れていた私を助けてくれた恩人だ。


「それじゃあ私が手を貸してあげる。聖女のせいで異世界も含めて遠くから来た人は鬼だとか思われても嫌だし」

「いや、でも既にお前見てると鬼だって思うことたまにあるぞ……」

「……ですね」

「それはあんた達だけよ。手は貸すけど交換条件があるの。それを飲んでくれる?」


 私がにっこり微笑んで言うと、身内は顔をしかめ、フレッドはキョトンとしている。


「お、俺に出来る事なら何でも」

「出来るわ! 簡単な事だもん。ペンが一本あればそれで済む事よ。ねぇ? そうでしょ?」


 そう言ってトワとクリスを見ると、ようやく二人は何かに気づいたようにハッとして頷く。そんな二人を見てフレッドはゴクリと息を呑んで何かを考え込み、しばらくして頷いた。


「交渉成立だ。ただ、出来ない事は無理だからな!?」

「もちろん。それじゃあルチル、あんたは先に宿に戻りなさい。トワ、護衛をお願い」

「え!?」

「ええ!?」

「当たり前でしょ? いくら大人にはかかりにくいって言ったって、万が一って事もあるじゃないの。大丈夫。クリスにパパっと見つけてもらうから」

「はあ!? 僕!?」

「うん。むしろあんたでないと無理だと思う。さ、行こ、フレッド!」

「あ、ああ……え? なぁ、信じて大丈夫なんだよな?」

「大丈夫大丈夫! でも先に言っとくけど、薬の原料は教えられるけど、聖女みたいに全員をすぐに治療するのは無理だからね? 私にはそんな力は無いから。重症の子とかは……もしかしたら厳しいかもしれないわ」


 もしも聖女のような力があればすぐにでも使ってやりたいが、しがない社畜にそんな力はない。持っている知識とチートなクリスの力を駆使するしかないのである。


「そっか。いや、そこらへんは大丈夫。今は重症のやつらは居ないよ。まだ皆、軽症だ……そう、重症だった奴らはもう居ないんだ……」


 そう言って視線を伏せたフレッドを見て、トワがフレッドの肩を叩いた。


「あなたはよくやった。姫、この病院の事は戻ったらすぐに王に進言します。構いませんか?」

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