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ニコーっと笑いながらそんな事を言うトワの顔はとても怖い。ルチルはきっとこうやって何度も何度も騎士団の人たちを苦しめてきたのだろう。
「た、大変だったのね、トワ」
「ははは、でも最近は姫の行き先と言えばヒマリの所一択だったから大分楽だったよ」
乾いた笑いでそんな事を言うトワを見てクリスが悲しげにトワの肩を叩いた。
「お前は本当に苦労してんのな。ルチルは跳ねっ返りだしな」
「全くです。今回の件にしても姫が好き勝手してしょっちゅう城を抜け出すからこそ、かけられた疑いです。普段から品行方正に生きていれば、こんな事にはならなかったでしょうに」
「それはそうよね……疑いをかけられるという事は、つまりそういう事なのよ」
「そうなんです。やってそうだと思われてしまっているという事がそもそもの問題なのですよ」
おまけにこんな事になってもルチルは自重しない。まぁ、その天真爛漫さがルチルの良い所でもあるのだが、せめてしばらくは大人しくしておけよと言いたくもなる騎士団の気持ちは痛いほどよく分かる。
「とは言え今回はルチルのあの性格と権力に私は多大なる期待をしているわ!」
「……それは大好きなビールの為ですよね?」
「それはお前、心を潤わせる魔法の水の為だよな?」
いつも通り同じような事を言うクリスとトワに私はコクリと頷くと、何故か二人から大きなため息を落とされてしまった。
「権力なんてこんな時に使わないでいつ使うのよ?」
「それは権力の使い所を間違えてるんだよなぁ」
「ですね……ヒマリ? 権力は決してビールの為にある訳ではないよ?」
「馬鹿ね。そりゃきっかけは完全に私の私利私欲だけど、結果的に経済の発展に繋がるかもしれないじゃないの。それにあんた達さっきの私の話聞いてたの? 地ビールっていうのは、売れ無さすぎるの。お土産感が強いの。そこに行かなきゃ買えないってだけのブランド力じゃ、大きくなんてなれないの!」
「で、本音は?」
「でも本心は?」
「美味しい物を作る会社は大きくなって、そこに行かなくても買えるようにしてほしい!」
「結局最後までお前の私利私欲じゃねぇか!」
「ほんとですよ! でもまぁヒマリの言う事もあながち間違ってもないんですよ。結局姫が美味しいと言えばそれは国が後ろ盾についたも同じことだからね」
「でしょ? 結果経済の発展に繋がるんだからいいじゃないの!」
地球での私はただのしがない社畜だった訳だが、今の私には強力な超ふっといコネがある。これを利用しない手はない。
「なんだかなぁ。僕には社畜がここで無双する未来しか見えないんだよなぁ」
「それは俺もですね。でもまぁヒマリはがめついだけで悪人ではないので、そこらへんは良かったですよ」
「だな。枕食う変な女なだけだからな。怖いのはどっちかって言うと聖女の方だよな」
「ええ。彼女はなかなか狡猾です。聖女なんて名前ばかりではないかとノーマンは疑っていますよ」
「あいつ疑り深そうだもんな!」
「あんた達やっぱり気が合うわよね?」
大体の意見がいつも一致するトワとクリスに何気なく私が言うと、二人してこっちを睨みつけてくる。
「「全っ然合わない!」」
とうとう今回は一言一句同じ事を叫んだ二人を見て思わず私が吹き出すと、二人は苦い顔をしてお互いそっぽを向いた。
そんな事を言い合っているうちにようやく町に辿り着いた私達は、まずはそこらへんを歩く人達に片っ端から声をかけていくが、誰もフレッドという医者に心当たりが無いという。
しばらく町をぶらついていたが、一向に成果が得られなくてとうとうポツリとクリスが言った。
「なぁ、もしかしてあいつヤブだったんじゃねぇの?」
「……ちょっとだけ私もそんな気がしてきたんだけど……」
「だとしたら、やっぱりあの時切り捨てた方が良かったかもしれませんね」
真顔でそんな事を言いだしたトワをクリスと私で「怖い怖い」と止めつつそれからも探して回ったのだが、誰に聞いても誰も知らない。
「……ねぇ、私達が会ったあのフレッドって、本当に実在してるわよね?」
「……どういう意味だよ?」
「いや、ちゃんと足ついてたかなって……まさかもう死んでる人だって事ないわよね……?」
夏でもないのにふと脳裏を怖い話が過る。青ざめてそんな事を言う私にクリスとトワまでもが青ざめた。
「止めてくださいよ! どうして日が落ちてきてからそんな話するの!?」
「なんだよ、お前幽霊苦手なのか?」
「苦手というか、戦場では結構その手の話がつきまとうんです。夜警なんてしてると、あっちで火の玉が、とか淡く光る亡霊が、とかそんな話ばっかりなんですよ」
「やだ~! これからは戦場帰りにはちゃんと塩振って来てね! って、そんな冗談言ってる場合じゃないのよ。このままじゃ本当に日が暮れるんだけど」
お風呂から出た私はパンフレットを握りしめてスキンケアもそこそこにすぐさまクリス達の居るスイートルームに直行してパンフレットを見せて誘うと、セターレ以外は喜んでついてきた。
宿から屋台会場は目と鼻の先だったので迷うこと無くやってくる事が出来たのだが、はしゃぐ私達とは裏腹にトワとクリスはさっきからずっとコソコソと言い合いをしている。
「お前、絶対に手、出すなよ!?」
「出しませんよ。ていうか、相手にもされてませんよ……」
「え、マジかよ」
「……ええ。悲しいぐらいに……このパンフレットを見てください」
「うおっ! 赤線と注釈びっちりじゃん! これ、あいつ?」




