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上を見上げるとトワが難しい顔をしている。
「何かごめんね、皆。私が本名忘れちゃったばっかりに」
「おう、お前はちゃんと反省しろ。顔が濃いってのとフレッドってだけじゃ砂漠で豆探すぐらい難しいんだからな」
「豆だったら結構大きいじゃん」
「たとえだよ! あと砂漠どんだけ広いと思ってんだ! 豆見つける前にカラカラ死するわ!」
何だかよく分からない死因をあげたクリスに私は苦笑いを浮かべながら謝ると、ふと視線を上げて顔を輝かせた。
「ねぇ、あれ町じゃない!?」
嬉しくて思わず笑顔を浮かべて振り返ると、トワにすぐさま目を逸らされてしまう。なんて失礼な奴だ。
「久しぶりにここまで来たわ! トワ、そろそろ歩いた方が良いんじゃないかしら?」
「そうですね。ではあそこに簡易のテントを張って、そこに馬を繋ぎましょうか」
「え、大丈夫なの? そんな事したらどっかに攫われちゃわない?」
そんな無用心な事が許されるのか? 不思議に思ってトワに問いかけると、トワはさっきとは打って変わってにこやかに馬から下りながら答えてくれた。
「大丈夫です。こいつらは騎士団の馬なので、そんな馬を盗む馬鹿は居ません。それにそういう決まりなんですよ、ヒマリ」
「決まり?」
「ええ。騎士団はその仕事柄、出先で急な連絡が入る事があるんだ。だからたとえただの旅行でも馬で移動するんだけど、その時に皆こうしてテントを持ってて、馬宿が無い場所ではこうやって対処するんだよ」
「なるほど……合法的な路駐みたいなものなのね」
「路駐?」
「うん。路肩駐車。私の居た世界にはそういう違反が相次いでたの。狭い道路に無理やり停めたりとか、駐車場代ケチったりとか」
トワに馬から下ろしてもらいながら私が言うと、途端にトワは顔を引きつらせた。
「こ、今回は確かに町の馬宿は利用しないけど、俺は普段はこんな事しないからね!?」
「分かってるわよ。あんたにそんな事出来ないって」
慌てるトワに私は苦笑いして言う。
それから無事に馬から下りた私たちに、背ターレが疲れた様子で言った。
「ところでトワ、ここからは僕達は別行動をした方がいいのでは?」
「そうですね。俺とヒマリだけの方がいいかもしれません」
「おいちょっと待て。僕も一緒にお前らのチームだからな!」
「ああ、すっかり忘れていました。すみません」
意地悪く微笑むトワを見てクリスは拳を振り上げて怒鳴るが、私はそんな事よりも既に話題のクラフトビールに完全に思考を持っていかれていた。
「ルチル、あんたにお願いがあるの」
「あら、なぁに?」
「私達がフレッドを探している間、とりあえず有名所のクラフトビールを調べておいてちょうだい」
「ええ、分かったわ。時間があれば無名の所も調べてくるわね!」
「ありがとう! さあ、二人とも行くわよ!」
私はそう言ってその場でズボンを脱いで持っていたリュックに詰め込んだ。そんな私を見て全員がギョッとしたような顔をする。
「だから! あなたはどうして突然そんな突拍子もない事をするのですか!」
「そうだぞ、ヒマリ! どこの世界にこんな往来でズボン下ろす社畜がいるんだよ!」
「ちょっと、それは私でしか無いじゃないの。それに他に誰も居ないし隠れる所も無いし時間もないんだから仕方ないでしょ。これぐらいでギャーギャー言わないの」
「ヒマリにはもう少し恥じらいというものを教えた方がいいのかしら……?」
「姫、あなたはあまり他人の事は言えませんよ? 普段ドレスで馬を乗り回すのですから」
「う、うるさいわね! とりあえず私達は先に行くわね! セターレと視察に来たとでも言えばきっと包み隠さず教えてくれるはずだもの!」
「そうね! こういう時の為の権力よね。それじゃあルチル、頼んだわよ」
「ええ! 行きましょう、セターレ」
ルチルはそれだけ言ってウキウキした様子で馬を走らせた。その後をセターレがやれやれと言った感じで追っていく。
「一歩間違えたらあれは俺の役目でした」
そんな二人を見送って三人で歩きだすと、何を思ったか突然トワがポツリと言った。
「でもお前王の騎士団だろ?」
「ええ。ですが、王の警備担当でない時は王妃か姫達の護衛につくので。そしてその中でも一番大変なのがルチル姫の護衛なんです」
「ああ、だからトワは最初にうち来た時ルチルの護衛として来てたの?」
「うん。姫が城から出る時は大抵俺か副団長なんだよ。あの方はお忍びだとか何とか言ってしょっちゅう城を抜け出していたからね」




