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「言い過ぎだなんてとんでもない! たとえばカバンね! 同じ革を使って同じ製法で同じ工場で作ったとしても、そのブランドのロゴがあるのと無いのでは価値が倍以上に跳ね上がるものなの。何故か。それは皆、案外ミーハーだから!」


 そう、同じ材料を使って同じ形で下手をしたら同じ工場で作っていたとしてもブランドのロゴがあるだけで皆、そちらを高くても購入する。


 そのせいでどんなに品質が良くても全く売れない商品のなんと惨めな事か!


 最終的にはそういう商品は知っている人だけ知っていれば良いのだ、などと慰められつつ細々と展開するしかなくなって、最終的には消えていった神商品を死ぬほど見てきた私である。


「それはあくまでも社畜の常識だろ?」


 呆れたようにそんな事を言うクリスは知らない。地球には、日本には社畜ばかりが住んでいた訳ではないということを。


「それがそうでもないのよ。前に言ったジョーイなんかもブランド物は大好きなの。そしてそれを真似するのが社畜という生き物よ。何よりも社畜というのはあなたが思っているよりもずっと悲しい生き物なの。皆同じが良しとされた世界で社畜だった私にはよく分かるの。列から一歩でもはみ出せば一瞬で人生は詰む。常に将来という過剰な不安に心を蝕まれながら泥のように重い戦闘服を纏って毎日仕事に行くの。そんな泥の戦闘服の中で唯一自我を出せるのがブランド物。これを持つ事によって社畜は自分のモチベーションを保てるの。明日からも清く正しい社畜で居られるのよ」

「そ、それは何か間違ってないか?」

「間違っているわ。そんな事皆気づいていたわ。けれどそれを決して大きな声では言わせない社会。それが社畜の世界よ!」

「……お前、ほんとに……本っ当にそこから逃げ出す事が出来て良かったな!」

「まぁ、ちょっと特殊な逃げ出し方をした感は否めないけどね」


 何せまさかの異世界への転移だ。よく小説とかであった死んで転生ではないだけマシかとも思う。


「ヒマリ……君は本当に地獄のような所で生きていたんだね……」


 私の話をずっと黙って聞いていたトワがポツリと言った。振り向くと、何故かその目は少し潤んでいる。


 驚いて周りを見ると、皆が皆そんな顔をしていて私は焦ってしまった。


「いや、まぁ確かに地獄みたいな事もあったけどちゃんと娯楽もあったから。別にあんた達がそんな顔しなくてもいいのよ」


 それにあの世界だってそれなりに楽しく暮らしていけた。


 けれどここの世界の人たちはどうやらそうは思えないようだ。これは完全に私がネガキャンしたからに違いない。


「その娯楽ってのがあの経典だろ? そんな話が流行るなんて、それはもう紛うこと無く地獄だろ」

「その通りよヒマリ。あなたはやっぱりここで天下を取るべきよ」

「大丈夫、ヒマリ。ちゃんと君の面倒は婚約者である俺が一生見るから安心して」

「おい! それは僕の役目だぞ! なんちゃって婚約者には出る幕ねぇんだよ!」

「聞き捨てなりませんね。あなたはただのパートナーでしかないのに、何が出来るんです? あなたと居たら結局ヒマリは毎日働き詰めじゃないですか」

「聞き屋はこいつの趣味みたいなもんだろ! 客に変なあだ名つけて毎日ビール飲んで菓子作って金数えて、これが趣味じゃなきゃ何だってんだ!」


 クリスの一言にトワはじっとを私を見下ろしてきて何かに納得したかのように頷く。


「確かに……そういう意味ではヒマリは自由に好き勝手やっていますね……」

「だろ!? 僕らに枕やら猫の餌食べさせて嬉々としてんだぞ!?」

「それは美味しいんだから良くないですか?」

「あんた達、ちょっと私への認識がズレはじめていない?」


 何だか良くない方に話が流れそうだと判断した私が思わず声をかけると、二人して真顔で首を振った。


「少しもズレていません」

「むしろ精査されてってんだろ」

「……」


 美形二人に真顔で否定されると一瞬そうかなと思ってしまいそうになる私は、やっぱり身も心も社畜に染まっているのかもしれない。


「ま、まぁ何でもいいわ。で、セターレさん何か見えた?」

「そうですね、城が見えましたよ。そこから一人の男性が黒い大きなカバンを持って肩を落として出ていく姿が見えました」


 セターレの言葉に私達は全員が顔を見合わせた。


「それって、元々お城務めしてたって事? だったらルチル何か知ってるんじゃないの?」

「私は何も知らないわ! 私が生まれてから城専属の医者が辞めたなんて話聞いた事ないもの」

「それは僕もありません。ですから僕が見た人とフレッドさんは別人でしょうが、何らかの関係はある、という事なのでは?」

「だとしたら隣町に到着して俺たちが探すべきは、元々城に勤めていた医者でしょうね。フレッドというあだ名はあまりにもありきたり過ぎて探しようがありません」

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