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 そんな訳で、私達はトワの安寧を守るべく隣町に出発したのだった。


 と、いうのは建前で本当は既に私の頭の中では隣町で有名だというビールだ。こういう好きな物への事前リサーチは決して怠らない私である。


「それでね、八百屋のおっちゃん曰く、隣町では今クラフトビールが流行ってるらしいのよ! あ、ここでは地ビールか」

「なぁに? そのクラフトビールって」

「まぁ、ざっくり言えば地ビールみたいなもんよ。城下で作る大規模なビール工場じゃなくって、小さな酒造で作るビールの事。そこの土地の特色活かしたり美味しい水使ったりして独自のビールでうんたらかんたら」


 突然説明が面倒になった私が言うと、そんな私をルチルが白い目をして見つめてくる。


「……その、うんたらかんたらの所が知りたいのだけれど?」

「まぁつまりはほぼ名前を変えた地ビールよ。こっちのが響き良いでしょ?」

「確かに何だかお洒落な感じがするわね。ヒマリの世界にあった物なの?」

「うん。瀕死になった地ビール製造してた所が海外で流行ってたクラフトビールっていう名前に乗っかったって感じ? 何事も印象は大事よ」

「なるほど! だからヒマリはそんなにもイメージを大事にするのね!」

「ま、まぁね」


 悪気は無いのだろうが、何となくこの流れでそんな風に言われると嫌味かと思ってしまう程度には、私の心は狭い。


「こいつらさ、そろそろ馬に乗って2時間ほど経つのにずーっと食い物の話してんのな」

「失礼ね! ちゃんと私達だって真面目な話してるわよ。ねぇ? ルチル」

「そうですクリス様! 一応頭の端っこの方には探すべき人物の名前をメモしていますよ!」

「マジで? ルチル偉いじゃん。で、名前何だった?」

「え? えーっと……フ、フラ、フランク?」

「覚えてねぇじゃねぇか! 誰だよフランクって。フレッドだよ。ったく、社畜は本名覚えてないし、お姫様はあだ名すら覚えてないし、こんなんでほんとに探せんのか?」

「俺も今一気に不安になってきました」

「男チームでどうにかするしかありませんね。少々お待ちを」


 そう言ってセターレがおもむろにポケットからあの古ぼけた鏡を取り出して、それを覗き込む。


「ねぇねぇセターレさん、それって何がどんな風に映るの? パッと見小汚いうちのおばあちゃんの鏡みたいだけど」


 引き出しの奥に仕舞い込んであった年季の入ったおばあちゃんの手鏡は、一体何が映せるのかと思うほど薄汚れていた。


 けれどなにがあっても絶対に捨てたりはしなかったので、何か思い出の品なのだろうと言う事で棺桶に一緒に入れてやったのだが、真相は誰にも分からない。


「……小汚いはともかく、おばあちゃんの鏡は初めて言われましたね。これは私の家に代々受け継がれている鏡で、この中に妖精が住んでいると言われていました。その妖精は未来と過去を見通すのだとか何とかかんとか」

「ふむふむ。どうです? 妖精の元締めの高位妖精さんの見解は?」


 私がマイクを持った振りをしてクリスに問いかけると、クリスもまた鏡を覗き込んで言った。


「そうだなぁ……別に妖精が住んでる感じはしないけど、その鏡の部分だけ何かの歪みが見えるな。おそらくその鏡だけ時空が歪んでて、たまたま映す物が現在以外の事なんだろ」

「それって逆に凄くない?」

「凄いな。僕たち妖精は時を操る事は流石に出来ないんだ。それもまた自然と相反する力だからな。それが出来るのは時の神だろうが、もしかしたらその神の忘れもんか何かなんじゃね?」

「忘れ物ってあんたね。こんな物どっかに置き忘れるなんて事ある?」

「案外あるだろ。魔王が置いてった魔剣とか勇者が残した聖典とか、そんなのゴロゴロしてるだろ?」


 クリスの言葉に私は首を捻った。ゴロゴロ……してるか? 


 いや、日本にも三種の神器なんて物があったぐらいだし、そういう意味ではゴロゴロしているのかもしれない。


「クリスの言う通りで、この世界には神々や魔王、悪竜などが残していったとされる物が結構ありますが、信ぴょう性はあまりないです。ですが、セターレ様の鏡に関しては本物だという事でしょうね」

「それを聞いて僕も安心しました。高位妖精のお墨付きともなれば、さらに僕の価値は上がるでしょうから」


 そう言ってほくそ笑むセターレを見てルチルとトワは顔を引きつらせているが、そんな二人を横目に私は頷いた。


「お墨付きは大事よ。しょうもない物でもブランド力があればそれだけで、たとえそこらへんに落ちてる木でもバカ売れするからね!」

「いやいや、それは流石に言い過ぎだろ?」

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