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そう言ってセターレはお茶をすする。何となく皆がこの人を避けている理由が分かった気がした。
しばらくしてトワが戻ってきた。
「すみません、お待たせしました。明日には手配出来ると思います」
「うん、ありがとう。でもね、トワ。一つ問題があるのよ」
「なんです?」
「私達さ、フレッドの事って名前しか知らないのよね」
「あ」
「マジじゃん! 医者のフレッドって言ったら分かんのか?」
「どうかな……フレッドで良いよってあの人言ってたんだけどさ、本名忘れちゃったんだよね。なんか名乗ってたような気もするんだけどさ」
腰が痛くてそれどころでは無かった私は、フレッドの事をもうぼんやりとしか覚えていない。顔の濃い人だな~ぐらいの印象だ。それを伝えると、クリスとトワがおでこを抑えて全く同じ反応をしている。
「お前、人の名前ぐらいは覚えろよ」
「無理よ、客でもないのに!」
「どうしてヒマリはそんなにもお客さんにしか興味がないのですか……?」
「そりゃお前、コイツには客がコインか札に見えてんだろうよ」
「ああ、なるほど」
「ちょっと! あんた達黙って聞いてればさっきから! それに元々人の名前と顔覚えるの苦手なのよ! 仕方ないでしょ!」
私は立ち上がって拳を握って言うと、二人はキョトンとして首を傾げた。
「そうなのかよ?」
「そうなのですか?」
「そうなのですよ。毎日会う人とかはそのうち覚えるけど、たまに会う人とかはもう本当に駄目。仕方ないから何かに関連付けて覚えるようにしてるの」
しょんぼりして言うと、二人は申し訳無さそうに私の前にお菓子を差し出してくる。
「そうだったんですね。それは仕方ないかもしれませんね」
「だな。でもお前、そんなんでよく接客なんか出来んな。覚えられないんだろ?」
「まぁね。だからこの人は実家が太い金貨二枚のキャサリンさん、とか、この人は姉妹で同じ人好きになった泥沼ルーシーさん、とかそういう覚え方してるよね」
「さ、最低かよ!」
「ひ、酷い……」
「だから! 特徴無いと覚えられないんだってば!」
「何か他の特徴さがせよぉ!」
「そうですよ! せめて髪飾りとか服装とか……何かあるでしょう!?」
「そういうね、しょっちゅう変わるもので覚えたらいつまで経っても覚えられないでしょ!」
相変わらずいつも通りの喧嘩をする私達を見てセターレが吹き出した。
「いや~仲良いですねぇ~。ちなみにトワと姫の事はなんて覚えていたのですか? 僕の事はなんて覚えようとしてます?」
「え、それ正直に言うの?」
「それは是非とも僕も聞きたいな! どうせロクな覚え方してないんだろうけど!」
セターレの言葉にクリスがズイっと身を乗り出した。その隣でトワも真顔で頷いている。
「ルチルはそりゃ姫よ。蜜蝋姫」
「み、蜜蝋姫……何かしら……地味に心にクるわね……」
「セターレさんは占い眼鏡でしょ。トワは残念イケメンって覚えてたよ。ていうかクリスはさ、流石に分かるよね。一人だけ空飛んでんだからさ」
「……残念イケメン……」
「そ、そんな理由で覚えられたのは流石に初めてだな」
「はは! 私も占い眼鏡と呼ばれるのは初めてですね! あなたは面白い方ですね」
「セターレが人を褒めている……ねぇ、あなた今まで浮いた噂一切無かったけど、もしかして趣味がおかしいの?」
ルチルが真顔でセターレに問いかけているが、それは私に相当失礼なのでは? とは言え私も相当失礼なのでお互い様である。
でも何故かそれを聞いてトワとクリスが立ち上がる。
「駄目ですよ!? ヒマリは俺の婚約者なので!」
「駄目だからな! コイツは僕のパートナーなんだから!」
「おやおや、別に僕は何も言っていませんが……そうですね。彼女に関しては未来が全く見えないので、一緒に居ると面白いかもしれませんね」
そう言ってセターレは笑った。
「まぁ覚えられりゃなんでも良いのよ。でね、話の続きなんだけど」
「そうだった! 社畜のヤバい記憶力ですっかり忘れるとこだったけど、あいつ有名な医者なのかな?」
「どうなのでしょう? 俺は顔は覚えてるけど名前までは分からないし……」
「では似顔絵でも描いてみたらどうです?」
何気なくセターレが言うと、トワはそれを聞いて引きつった。
「いえ、俺は絵はちょっと……」
「ああ、な。コイツ基本不器用だから絵もからっきしだぞ」
「何よ、あんたトワの絵見た事あんの?」
「ん? いや、無いけどこういう奴って大抵絵苦手だろ?」
「どんな理屈よ。まぁでもトワは剣よりも軽い物持った事無さそうだもんね」
からかうように言うと、トワは目を丸くして言う。
「あるよ! いっつもフォークとかナイフとか持ってるでしょ!?」




