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「いや、今更敬えっていうのは無理があるわよ」
「なんでだよっ!」
そう言ってクリスは私に掴みかからんばかりの勢いで詰め寄ってくるが、今更無理なものは無理だ。そこはもう諦めて欲しい。
「そんな訳でヒマリ、早速明日にでも出掛けられますか?」
「明日? えーっと……うん、大丈夫。誰からも予約入ってないから」
「珍しいじゃん。そんな日あるんだな」
「あるのよ、これが。ていうか、結構あるのよ?」
「え? でもヒマリ何か毎日ドタバタしてね?」
不思議そうに言うクリスに私も神妙に頷いた。
「そうなのよ。不思議よね。まぁ、それだけ予約して来ない愚か者が多いって事なんだけどね?」
「ヒマリ、お口が乱暴になってるわ」
引きつってそんな事を言うルチルに私は大きなため息を落として言った。
「お口が乱暴にもなるわよ。店閉めようとした途端に駆け込んでくる奴とかね、予約で埋まってるって言ってるのに無理やり割り込んでくる奴とかね! もうね! 待つのが嫌なら予約をしてこいと! あれほど! 何度も何度も! 言ってるでしょうが!」
「お、落ち着いてヒマリ。ほら、甘いもの食べて」
そう言って今にもヒートアップしそうな私を見て、トワが仕事を忘れたかのようにお茶とお菓子を勧めてくる。
「この世界はまだマシよ。だって、説明したら大抵分かってくれるもの。社畜の国では本当に! お客様は神様の振りした悪魔共がウヨウヨしていたからね!」
「神様の振りした悪魔かー。社畜の国は修羅の国だな」
「そうよ! ありがとうは言えない。ごちそうさまも言えない。そのくせ文句だけはいっちょ前! その減らず口縫い付けてやろうかって何度思った事か! しかもね、何が怖いってそれを同業者がやったりすんのよ! おま、されて嫌な事平気ですんのかよ! ってもうね、ドン引きよ! やっぱり社畜は駄目。どんどん人格歪むもの。あんた達も気をつけなさいよ!」
そう言ってビシリとルチルとトワとセターレを指さすと、隣からクリスがひょこっと顔をだして言った。
「と、社畜が過ぎて人格歪んだ人間が言っております」
そんなクリスの言葉に三人は納得したように頷いて無言でお茶をすすりだす。おい、待て。何故それで納得するのだ!
「まぁそんな話は置いておいて」
「置いとくのかよ! 回収しろよ、ちゃんと!」
「しないわよ。いつまでも愚痴ってたって仕方ないでしょ。で、明日隣町行くの?」
「え、ええ、早い方がいいかと。隣町まで結構あるので、馬に乗ることになりますが大丈夫ですか?」
「馬!?」
馬と聞いてルチルが顔を輝かせた。そう言えばルチルは出会った時も馬に跨っていたなぁ、などと考えていると、クリスが心配そうに私を覗き込んでくる。
「お前、馬なんか乗れんのか?」
「乗れない。トワ、一緒に乗せてくれる? あ、でも馬って大人の二人乗りは無理だっけ?」
確か近所の乗馬クラブでは体重制限があったような気がする……セレブな趣味だなぁ、などと思っていたのでよく覚えている。
「確かに軽量の馬なら難しいですね。ですが、俺たちが使うのは普段荷物も引いたりするので重量のある馬なんです。なので、ヒマリ一人ぐらい何でもありません」
「そうなんだ。それじゃあトワ、よろしくね」
憧れの馬にとうとう乗れるのか! しかもイケメンと二人で! そんなラッキーな事など一生無いと思っていたので、素直に嬉しい。
「お、俺でいいんですか? 姫じゃなくて?」
「ルチルと? いや、それならトワのがいいわ」
「どういう意味!? ヒマリ!」
「だって、ルチルって何かあっちにフラフラこっちにフラフラしそうじゃない?」
「う……」
「すっかり見抜かれているようですよ、姫。ちなみに僕はそもそも二人乗りが出来ないのであしからず」
「うん、セターレさんはなんかそんな感じ。ていうか、運動苦手そう」
「仰るとおりです。普段は城に引きこもっていますからね。ですが馬など今から調達出来ますか?」
セターレが言うと、トワがコクリと頷いた。
「今から手紙を出せば明日の昼には馬を調達出来ると思います」
そう言ってトワはその場で簡単な手紙を書いて、それを持って徐ろに外に出て行った。一体何をするのかと思って見ていたら、トワが突然指笛を吹いた。
「ねぇ、あれ何やってるの?」
「あら? ヒマリはまだ見たことなかった? うちの騎士団は皆、連絡網で鷹を使うのよ。ほら、来たわよ」
そう言ってルチルが窓の外を指差すので外を見ると、それはもう立派な鳥がトワの腕に止まっている。
「うわ、デッカ! 重そう!」
生の鷹など見たこと無かった私が思わず言うと、セターレが鼻で笑う。
「実際重いですよ。あんな怪鳥よく片腕で持てますよねぇ」
「怪鳥って……セターレさん鳥苦手なの?」
「苦手ですね。あの空から見下してくる感じが」




